目覚まし時計、
高らかに響く6時45分。
日曜の、朝だというのに。
身繕いもそこそこに、
髪の毛、束ね、
財布握りしめ、
いざゆかん、魚市場。
清めの水筒を、タオルを、
携えよモハン。
我が到来を待ちたまえ。
エビよ! カニよ! 魚よ!
……と、なにも劇的ポエムな文体にすることもないのだがね。
今朝はそんなわけで、行って来たのだ早朝のラッセルマーケットへ。早朝の、屋内の野菜や果物売り場などは、まだ開店しているところは少なく、しかし、路上の行商の人々が、大いに商いをしていて賑やかだ。
そこら中で、頭に肩にさまざまな荷を抱える人たちが行き来し、それらが自分の頭にぶつかりそうで、注意して歩かねばならない。
さて、魚売り場の一帯は、噂通り早朝が最も賑やか。実は先週の日曜日、スジャータたちがランチを食べに来たおり、早朝のラッセルマーケットで買ったというロブスターを一尾、持って来てくれたのだった。
それは、我々にとってなじみのある、米国のメイン州産のそれに見られる、大きな爪のあるロブスターではなく、日本の伊勢エビのようなおとなしい形状で、全体に小振りではある。しかし、パエーリャの具に入れてみたところ、なかなかにおいしかったのだ。
あれば、そのロブスターも買おうと思う。スジャータ曰く、今はカニのシーズンであるらしいから、カニも買おうと思う。
魚市場で何が驚いたかって、魚にハエがたかっていないことだ。あと数時間もすれば、ハエ王国となるはずの魚市場だが、早朝の今、ハエがいない。
いや、ひょっとしたら、ちょっとはいたのかもしれない。でも、今こうして回想するに、ハエの存在を思い出せないのだ。
それはさておき、スジャータお勧めのいつもの「No. 5」の露店へ行く。いつものように、マナガツオ(ポムフレット)とエビを。ロブスターはないようだ。カニが欲しいと思うが見当たらない。店主に、カニはどの店にあるかと問えば、彼がどこかから、大きいのを2つ、持って来た。
1kgあたり、エビ(大振り)550ルピー、ポムフレット480ルピー、カニが140ルピーと一番安い。まあ、食べるところが少ないからね。
インドにしては、全体に高い気がするが、スジャータが勧めてくれた店だし、新鮮なのを見繕ってくれるし、たまにおまけもくれるから、ここで買っている。でも、端数はいつも、値切っている。ちなみにスジャータは、値切らないらしい。
昨日、Sunny'sで食べたシーバスのような魚がないかと、他の店も物色してみるが、見つからず。物は試しに、名前のわからぬ、しかし新鮮そうな魚を一尾、買った。その店でポムフレットの値段を聞いたら、460ルピーだという。高いじゃないか、「No. 5」。
それから、白いグラジオラスの花束も買って、帰った。20本で120ルピーだった。
さて、家に戻り、朝食をすませたあと、下ごしらえにかかる。ボウルでは間に合わないので、洗剤を買ったらおまけでもらうバケツ(すでに数個の新品がたまっている)を取り出して洗浄し、浄水器に通した水を溜める。塩をいれる。
ざっと水道水で洗っておいた魚介類を、バケツの浄水に数十分浸ける。こうする方が、なんだかいいような気がするのだ。インドだもの。
エビはハサミで髭と尾びれの先を切り、背わたを取る。香港の魚市場の、あの生きていたエビに比べると寂しいが、しかし、それなりには、新鮮である。ぴちぴちとした手触りのものだけを選んで来たわけで、中にはふにゃりとイキの悪い物も売っている。
エビの掃除をすませたら、きれいに水気を拭き取って、ビニル袋で小分けにして冷凍。インド的カレーにしてもいいが、軽く塩焼きというのもいい。頭の部分は唐揚げにしてもおいしい。パエーリャに入れたり、ブイヤベースの具にしてもいい。海老フライというのもいいな。天ぷらとか。でも、あっさり食べるのがいいだろう。茹でてサラダにするのもいいだろう。
右の魚がマナガツオである。今日は6匹、買った。えらの部分を取り除き、はらわたを除去して洗浄。これは塩焼きでもいいし、唐揚げでもおいしい。煮付けにはしたことがないが、おいしいかもしれない。
左の魚は、名を知らぬ。店主に聞いてはみたが、忘れた。腹部が平べったく安定がいいので、深海魚かもしれん。これもエラを除去し、はらわたを掃除するにとどめる。内臓が少なく、非常に捌きやすかった。これはイタリアンな香草などと一緒に丸ごとオーブンでグリルしたり、あるいはごま油風味を利かせて中華風に、たっぷりの生姜やネギなどとともに蒸すのもよさそうだ。
そして、右側がカニである。甲羅が猛烈に堅いカニだ。名前は、わからん。味も、わからん。が、店主が「うまい!」と勧めるのだ。信じる以外なかろう。色柄的に、南国の産とみた。
どれくらいの大きさかというと、これくらいの大きさである。わたしの顔の大きさには及ばぬが、しかしどっしりと重い。殻が重量の大半を占めていると思われる。
これは今夜の夕餉となる。無難なところで茹でることにした。残りは明日食べればいいからと、まとめて茹でることにする。
我が家最大の鍋に水と塩を入れて沸騰させたところに、カニらを投入。茹でること約15分〜20分。
あらかじめ「バケツ」に用意していた冷水にさらし、ざるにあける。そうして、少しさましたところで、胴体と足の部分を取り外す。そして足に切り目を入れようとするが……切れない!! 料理ばさみも包丁も太刀打ちできない堅さだ。
そこでひらめいたのが金槌。木槌じゃなくて、金槌。足を布巾でくるみ、軽く叩く。割れない。 力一杯叩く。ようやく割れた!
よかった〜。この間コマーシャルストリートで買って来ておいてこの金槌。いずれ使うだろうと思っていたが、カニ叩きで役に立つとは予想外だった。
ところで、カニの身は柔らかくてほの甘く、とてもおいしかった。なにもつけずに、そのまま食べるのがよかった。カニ味噌はついておらず、甲羅の部分はおいしそうではなかったので捨てたが、足と胴部分の身は美味であった。
魚介類と戯れる一日。
魚をさばけぬ家政夫モハンは、「俺の城」を占拠され、遠巻きにマダムの作業を見るばかりだった。魚を捌いたかと思えば、魚臭い手で写真撮影をするマダム。これが「日本の平均的主婦像」と思われているかもしれぬ。仕方あるまい。
彼は、魚は食べられるが、エビ、カニはダメらしい。気の毒だが、仕方あるまい。