サファリ帽を被り、首からカメラを下げ、顔を赤く腫らし、瞼が半開きの男性が、街角の食堂に入った。
その細い目を見て、「日本人だ!」と耳打ちしあう店主とウエイターら。大急ぎで「ゼロ」を2桁、書き加えたメニューを彼に差し出す。
その男性はサモサなどのスナックと、ペプシコーラを注文。
店主やウエイターが見守る中、それらをぱくぱくと食べ、飲む男。突然、流暢なヒンディー語で話しはじめる。周囲は「日本人ではないじゃないか!」とびっくり。
彼曰く、写真を撮影していたら蜂の群れに「攻撃」されて、顔が腫れてしまった。
お前たちは、俺にサモサに200ルピーもチャージしたから、こんどは俺がお前たちを「攻撃」する番だ!
というおちの、コマーシャルである。
全編、ヒンディー語での会話につき、夫に解説してもらったため、詳細は定かではないが、おおよそのコンセプトは上記の通りだ。
●日本人であれば、料金をふっかける。
●蜂に刺されて腫れ上がり、瞼半開きの、いわば「醜い顔」が日本人である。
上記2点において、極めて物議を醸すネタである。日本人としては、やな感じである。
そもそも、このコマーシャルは消費者のペプシに対する好奇心を喚起する何かがあるだろうか、という点で考えると、インド人の立場になって考えてみても、よくわからない。ペプシを飲んだら気分爽快! になったわけでも、ペプシを飲んだら顔の腫れがひいたわけでもなく、ただ「攻撃してやる」というおちである。
最初、夫がHBOで"Friends"を見ているとき、このコマーシャルを見つけた。インドに来てからというもの、夫は"Friends"やら"The Sopranos"やら"Seinfeld"といった米国の番組をやたらと見るのである。どうにも恋しいようである。米国が。それはさておき、
「ミホ〜!! ミホ〜!!」
と、大声で、別室にいるわたしを呼び、「今、ひどいCMやってたよ!」と言いながら、その割にはニコニコと満面の笑みで楽し気に、その内容をレポートするのだった。
そのニコニコした態度がそもそも気に入らない。ひどいって言いながら、自分、喜んでるやん。
「ミホ、日本人として、これは黙ってはいられないんじゃない?」
「日本人会の人たちと結託して、ペプシに訴えたらどう?」
「チャンドリカの妹に電話する?」(ニューヨークに住んでいる叔父の妻チャンドリカの妹は米国ペプシの重役)
「これは明らかに人種問題だ。いくらなんでも行き過ぎだよね。見て、あの目! 開いてないよ!」
次々に、煽るわりに、無闇に楽し気である。
こういうくだらないコンセプトでコマーシャルを作るってのは、制作側の品位、品性が問われるわけで、インド人は自分の阿呆さ加減を露呈しているだけよ。こんなの、わたしにとっては痛くも痒くもないわ。笑ってなさい。おばか。
そう言っているにも関わらず、このコマーシャルが流れるたびに、
「ミホ〜!! ミホ〜!!」
と大声で別室から叫び、わたしに見せようとするのである。
だからもう、いいってば。
※ごめんなさい。数日後、ペプシではなく、コカコーラのCMだったと発覚しました。だって夫が、「ペプシのCM」っていうもんだから、てっきり信じ込んでしまったのです。いや、自分もCMを見ていて気づかなかったのだけれどね。ペプシ、失礼しました。
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●脱インド。香港、サンフランシスコ、ハワイ、ニューヨーク1カ月旅
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