今朝、デリーのダディマ(祖母)、齢90歳より電話があった。同居している義父ロメイシュと義継母ウマが、現在一カ月欧州旅行中につき、ダディマは話し相手がおらず、寂しいらしい。無論、使用人が数名、同居しているので心配はないが、それでも息子がいないのは、なにかと退屈らしい。
ちなみにロメイシュとウマは、ドイツでフットボールを観戦したようである。随分楽しんでいるようだ。
ところで、ダディマ曰く、「ミホはまだ、ヒンディー語を話せないのか」と、ご不満の様子らしい。うううぅぅ。デリーに引っ越す前に、いや引っ越してから、真剣に勉強せんとな。今はさ〜、モハンと以外、ヒンディー語をしゃべる必要性ゼロじゃない。モハンとは、膝を突き合わせて込み入った話をする必要もないし。なんていうのは言い訳だけどさ〜。
そうそう、そのダディマよりの電話で、我々は、今日がスジャータの誕生日であることを思い出したのだった。なんてこったい。すっかり忘れとった。危ないところだった。モハンの誕生日を覚えていて、スジャータの誕生日を忘れるとは、洒落にならんやろ。
そんなわけで、ダディマに感謝しつつ、「プレゼントを買わねば!」ということに。この間、Somaで自分の普段着用ブラウスを買った折、スジャータにも色違いを買っておいたのだが、それだけではちょっと物足りない。なにかもう一つ、用意したいところだ。
折しも今夜は、彼らを外食に誘っていたのだが、いやはや、よかったよ。「特別感」が出せて。
ところで今日の午後は、ヒロコさんとグレッグのウエディングパーティーに招かれている。結婚式は日本ですでに挙げてきたとのことで、今回はインドの友人らを招いての、ご自宅でのパーティーだ。
彼らの家に赴く途中、お祝いのプレゼントを買う予定にしていたので、そこでスジャータへのプレゼントも買うことにする。カニンガムロードのKahawaにて、わたしはヒロコさんたちへのプレゼントを、夫はスジャータへのプレゼントを探す。
ファッションに敏感ではないスジャータに、アルヴィンドは少々ご不満で、「スジャータは、もっとクールな服を着ればいいのに」と常日頃、口にしている。無論、本人の前では言わないけれど。
スジャータたちにはスジャータたちの方針があり、好みがあり、心地よい生き方があるのだから、本人が望まないのなら、なにも今時のファッションに身を包む必要はないじゃない。とわたしは言うのだけれど、他に干渉することがないものだから、弟としては、ちょっと口出しをしてみたくなるのだろう。
そんなわけで、
「このブルーのシャツは、どう? このスパンコールはファンキー過ぎるかな?」
「この色ならスージーでも着られそうだよね? どう思う?」
「こっちのコットンのは? 花柄がかわいいよね!」
ヒロコさんたちへのプレゼントはすでに選び終え、ラッピングも完了しているのだが、スジャータへのプレゼントに悩むハニー。更にはサイズで悩む我々。
店の女の子が、スジャータの体型を問うので、「ちょうどあなたくらいだわ」と答えたら、じゃ、わたしが試着してみせましょうと、試着室へ入った。
「あ、それいいね! でも意外に身体にぴったりするね。1サイズ、大きい方がいいかも」
「こっちの色、着てみてくれる? ごめんね〜」
店員さんをモデルに、比較検討の末、ようやく1枚に絞り込んだ。ともあれ、選べてよかった。
ヒロコさんとグレッグのパーティーは、グレッグの働く会社の同僚や二人の友人らが集い、賑やかに執り行われていた。主役の二人はインド服に身を包み、とてもラヴリーだ。
ケーキカットの際、アルヴィンドが
「新郎新婦のキスは?!」
と大声で冷やかしをいれる。米国であれば周囲も沸いて、やんややんや盛り上がるところであろうが、ここはインド。ゲストもインド人が多い。誰も盛り上がらずキスならず。
「ねえねえ、僕の提案、変だった? なんで、彼ら、キスしなかったんだろうね〜?」
だからここは、インドなんだってば!
さて、インド料理やケーキをいただき、しばしを過ごして、帰宅する。
夜はスジャータとラグヴァンがやって来て、4人で近所のホテル、メリディアンへ。つい1カ月ほど前、このホテルにアジア料理のレストランがオープンしており、先日、招待状(ワイン1本サーヴィス付)が届いていたのだ。
予約の際に、あらかじめ「今日は同行者の一人が誕生日で、Special Occasion(特別な日)だから、いい席を取っておいてください」と頼んでおいた。更にはバースデーケーキを依頼する。
ちなみにインドでは、お誕生日のケーキはお店がComplimentary(無料の、招待の)として、提供してくれる場合が多い。
7時頃、スジャータとラグヴァンがやって来て、4人一緒にホテルへ向かう。
「今日は、わたしの誕生日だから、わたしがどこかのレストランに招待しようと思ったのに……」
とスジャータ。インドでは、お誕生日を迎える人が、ゲストをもてなす、ごちそうするのが習慣なのだ。だから、使用人らにも、自分自身の誕生日に、労いのギフトを贈るらしい。
さて、車で3分も走らずにホテルに到着。早速、レストラン"Qi"へ。暖かな黄土色をした店内には、高い天井からメタリックなオブジェが吊るされ、一方、壁面には、古代インドの彫刻とおぼしき壁画などが施されていて、アジア多国籍料理にふさわしい雰囲気である。
メニューを開けば、韓国、日本、タイ、中国、インドネシアといった国々の料理がちりばめられている。そのカテゴリーの幅広さに「これは欲張り過ぎで、失敗するケースでは」と懸念されたけれど、ともかくは、幾つかを注文する。
点心メニューから、エビ蒸し餃子、チキンの小龍包、餅米の粽(ちまき)を、前菜からエビの天ぷら、牛肉のブルコギ、スパイダーロール(ソフトシェルクラブの天ぷら巻き寿司)を、そして主菜からチキンのスープ煮、ホウレンソウとマッシュルームのソテーを注文する。
白ワインで乾杯し、テーブルに届く前菜から少しずつ味わう。4人なので、いろいろな料理を少しずつ楽しめるのがいい。天ぷらはからりと香ばしく揚がっていて、小龍包や餃子もそれなりにおいしい。
全体に、「インドにしては」、かなりいい感じの料理である。ウエイターたちのサーヴィスもよく、雰囲気もよく、お値段も手頃。スジャータもラグヴァンも、とても喜んで食べている。
「今度から、ときどきここで夕飯を食べよう!」
と、アルヴィンドもうれしそうである。食事を終えた頃、頼んでおいたケーキが届いた。ケーキの種類までは頼んでいなかったが、それはこの間、このホテルで日本人会が行われた際に出されて、「これ、インドにしては、おいしい!」と思った、あのチョコレートケーキと同じようである。
このケーキだったらいいのにと思っていたので、すっかりうれしい。ケーキには、Happy Birthday Sujataの文字。
「わ! これ、スペルが正しいわ!」
とスジャータは、思いがけないことで喜んでいる。聞けば南インドでは、スジャータは、Sujathaとなり、「タ」が強調の発音となるらしい。いわば、スジャータッ。である。
店の人に、スジャータのスペルを尋ねられたとき、<インド人なのに、こんな一般的な名前のスペルもわからないのかしらん> と少々いぶかしげに思いつつ、スペルを伝えたのだが、こういう背景があったとは、こりゃ一本取られたぜ。
ところでスジャータが着ているのは、表がブルー、裏地が薄紫とピンクの中間のような色合いの、とてもきれいなシルクのサリーだ。まったく模様が入っていない、無地ながらも、とても品がよくてすてきなサリーである。
聞けば、母方の祖父の妹から譲り受けたのだという。金や宝石の装飾品ばかりでなく、サリーもこうして、代々引き継いでゆくものなのかと思うと、少々、胸が熱くなる。
わたしたちにもスジャータたちにも、あいにく引き継ぐべき次の世代がないのが残念なところだが、こういう「家族の連なり」の話を見聞きするにつけ、自分がインドの伝統の中に巻き込まれていることを不思議に思う。不思議に思うと同時に、とてもうれしい。
ハッピーバースデーを歌い、蝋燭の火をスジャータが消し、そして贈り物を渡す。彼女はとても喜んでくれた。
ちなみに彼女が身につけていたターコイズのイアリングとペンダントは、ラグヴァンがユタ州に出張へ行った折に買って来てくれたお土産なのだとか。
二人は本当に、穏やかで仲がいい、いいカップルである。こういう人たちが身近な家族であるというのは、本当に有り難いことである。このごろは、しつこいくらいに、そう思う。
さて、お会計時。ワインとケーキが無料なのに加え、OWC会員の割引15%が利いたため、あれだけ食べて飲んで、4人でUS$50程度というリーズナブルさ。
「また必ず来なければ!」と、アルヴィンド、よりいっそう、気合いを入れている。落ち着け。
食事のあと、みなでマルハン家に戻り、しばらくフットボールを観戦する。普段はわたしは観戦に参加しないが、今日はスジャータの誕生日だし、一緒に見ることにする。ドイツ対スウェーデン戦を見届け、ちょっとだけクリケットの試合を見て、二人は帰って行った。
「スジャータ、プレゼント喜んでてよかったね」とわたし。
「食事もおいしくて、よかったね」と夫。そして更に一言。
「スジャータさあ、眉毛が濃くて太すぎるよね。せめて、ちょっと切りそろえた方がいいと思わない? フェイシャルにも行った方がいいよね」
だからもう、そんなことは、どうだっていいんだってば!
最近、こぎれいな日本のマダムを見すぎているせいじゃない?
ところで、日本のマダムと話していると、美白だコラーゲンだ毛穴だスチームだ、マスカラはどこそこ、眉の形はこう調える云々、アイラインは目の上下にコンシーラがどうのこうの……といった話題で沸く場合が多い。実に圧倒されるのである。
そんなわけで、今日もまた、いい一日だった。