さて、今日は火曜日だが、クッキングクラスであった。今日は「第二回」のメニューをやっていない人のための「補習クラス」だったのだ。義姉スジャータも「講師」として招き、計6人。
ところで、朝10時ごろ。わたしが自室に籠って集中して原稿を書いていたら、ドアをノックをする音。家政夫モハンか、と思いきや、スジャータが立っていた。
「あら、おはよう! 早かったのね!」
「ヨガが終わって、直行したの(彼女は朝6時から9時まで、みっちりとヨガ道場でヨガをやるのだ)」
「クラスは11時からだから、ゆっくりしておいて。朝ご飯は?」
「ん? 今、食べ終わったところ。モハンに作ってもらったの。ミホの仕事の邪魔しちゃいけないと思って、声をかけなかったのよ。これからちょっと、シグマモールに行って、11時までに帰ってくるね」
気づかないわたしもわたしだが、なにげに人の家で朝ご飯をすませているスジャータ……おかしすぎる。
弟の家は、最早自分の家、って感じなのね。そう思ってもらっていっこう構わないのだが、淡々としているスジャータがおかしくて、しばらくの間、思い出しては、くすくす笑ってしまう。
さて、11時を過ぎ、4名の生徒さんが集い、早速調理実習に入る。前回と同様まずはパニール(カッテージチーズ)作りの実演から。
大量の牛乳を沸騰させ、そこにレモンの絞り汁を入れ、凝固させたあと、ざるに上げるのだ。それを数時間、冷蔵庫で寝かせると、パニールの出来上がり。フワフワと、優しい風味の手作りチーズなのである。
ところで、濾過する際に捨て去られる水分が、毎度惜しいと思う。いい成分が入っているに違いないのだ。スジャータ曰く、チャパティを捏ねるときに水の代わりにこれを使うと、チャパティに粘りが出るのだとか。
なら、今日はチャパティを作るから、とっとけばよかった! と思うのだが、すでに遅し。ところで、アルヴィンドの好きな森永ホットケーキミックスであるが、我が家では牛乳ではなく水で溶き、そこにヨーグルトをちょっと加えるのだ。すると、もちっとした触感のパンケーキができる。
牛乳を使うと生地が粗くなり、固めに仕上がってしまう。わたしたちはしっとり柔かが好きなので、米国時代からヨーグルト(もしくはバターミルク)を入れていた。
話は飛ぶが、以前、イタリア取材でパルマへ行ったことがある。ここは生ハムの産地であると同時に、モッツアレラチーズの産地でもある。モッツアレラチーズを作る際に生じる不要な水分を豚に与えることで、豚の「肉質」がよくなり、美味なる生ハムができあがるとの話を聞いたときには、そのすばらしい再利用とその結果に感嘆したものだ。
本日捨て去られた液体の、「再利用」の件に関しては、今後、使用法を考察する必要があろう。
さて、本日は調理した以外のメニューもヴェジタリアンで統一。カリフラワーのソテーやニンジンのソテー、そして「今が旬」の堅いトウモロコシを、自分が好きだからってマダム強引に。
ほんのりライムの香りがするチーズは、まろやかなホウレンソウと調和して、とてもやさしいおいしさ。ダールの風味もまたよく。今日は、スジャータがデリーから買って来てくれた質のいいギー(精製バター)を入れたので、一段と味わいがいいようだ。
食事中は、スジャータにインド料理や素材に関する質問などを。参加者うちに2名は米国人伴侶を持っているため英語が堪能だが、2名は海外赴任が初めての日本人駐在員夫人のため、日本語英語が入り交じっての会話となる。
会話はやがて、「英語について」の談義に。
余計なお世話とは思うが、せっかく英語圏にいるのだから、駐在員ご本人はもちろん、その家族も英語を学んで現地の人たちとコミュニケーションを図る方がいいと思う。
インドに来たくなくて来た人も大勢(というか大半)だと思うが、来た以上は数年間、住まねばならないわけだし、その数年間をより有意義にするためには、ある程度の英語力を身につけるほうが、いいと思うのだ。
わたし自身、「一般的な日本人」と同様、中高で英語を学んだにも関わらず、英語がしゃべれないまま社会人になった。しかし仕事で海外取材に出たことがきっかけで、語学力の必要性を痛感した。
30歳を過ぎてからの勉強は、確かに時間がかかったし、未だに英語の壁の厚さ、高さ、尽きなさに途方に暮れる。映画やニュースを見ていても(聞いていても)、わからないときは本当にわからないし、本もちょっと困難な、あるいは文学的なものは、数行で読む気を喪失する。
アルヴィンドから、なにかで喧嘩をした折、「ミホの英語はひどすぎる! 一生そのままでいくつもりなの?」と罵倒されたのを機に、2003年、ジョージタウン大学のESL (EFL)で数カ月間、フルタイムで学んだ。
なのに、あのときの緊張感を保つことができず、じわじわと適当な英語を話す癖が復活し、語彙力も落ち、おまけに変なインド訛がついてきた。そんなわたしをして、つい先だっても夫から、「英語を勉強し直したら? 学校に行った方がいいよ」と、言われたばかりだ。
学生のころから英語に親しんでいる人たちを見ていると、発音や語彙力、文法力、つまり英語力全般に亘って高く、ああ、わたしももっと早くから勉強しときゃよかったと悔やんだこと尽きないが、悔やんだところで時間が巻き戻る訳でもなく、今、努力するしかないのである。
正直なところ、ヒンディー語どころではなく、英語力を高めることが先決なのである。わかってはいるんだが、なかなか努力するのは、難しいのね〜。
そんなことを、日本語と英語で混ぜこぜに話しつつ、余計なお世話と思いつつも駐在員マダムらを鼓舞し、自らも、「勉強せな」と、プレッシャーをかけるのだった。
言葉が通じ合うと、未知の世界への扉が、次々と開くのである。その扉の向こうには、まばゆい光が満ちあふれているのである。ちょっと大げさなのである。
それはそうと、今後はクッキングクラスで「ヴェジタブル&フルーツ農場訪問」とか「地元のワイナリー見学」とか「ローカルレストラン探訪」とか「地元の市場探検」といったツアーも組んでみようかと思っている。
しばらくバンガロールに住むと決めた日から、やたらと脳内活発化し、仕事や遊びのプランが湧き出てくる。
落ち着いて、ぼちぼちいこうと思う。