出版してから最早4年も過ぎているが、その後、出版物を出す構想も機会もないままで、だから『街の灯』はわたしにとって大切な著書である。反省すべき点は多々あるが、それはそれとして、ニューヨークでの日々を一冊の形にできたことは、幸運だった。
さて、先日このブログに『街の灯』在庫の販売について記した。数日後、当ブログの読者であるバンガロール在住の方から連絡があり、OWCのカフェモーニングで落ち合い、本を買っていただいたのだった。
彼女、真理さんもまた、インド人に嫁いだ日本人女性で、二児の母でもある。あまりゆっくりとお話しすることができなかったが、後日、感想のメールが届いた。
その内容は、わたしが、「こういう風に読んでもらえたらうれしい」と思っていた理想に近いもので、メールを読み進みながら、本当にうれしかった。精進して書き続けて行きたいと、改めて思った。
自分の著書をほめていただくことを、あからさまにアピールするのも少々照れるが、それ以外にも、真理さんの視点によるインドの様子が臨場感のある描写で書かれており、できれば多くの人に読んでいただきたいと感じた。
ご本人に了承を得たので、ここにメールの一部(というか大半)を転載させていただく。真理さん、ありがとうございました。
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早速「街の灯」読ませていただきました。アメリカで暮らす、様々な人々との出会い。私もあたかもその場にいるようなその人と会っているような気持ちになりました。また、私だったらどのように感じたかなと自分と置き換えて考えたりもしました。
一つ一つのエッセイに感想を持ちましたが、子育て中のママとして、アムトラックの電車の中で会った、あのうるさい女の子。本当に社会にはじき出されることなくのびのびと育っているのですね。あの子の個性は日本だったら確実に抹殺されているはずです。
また、バスの運転手。私が同じ立場に立たされたら、完全に頭にきています。なんというか、皆さん心に余裕というか、人を受け入れる許容範囲が広いというか・・・。インドのレジでいつもイライラ怒って文句を言っている私。考えさせられました。
電話会社のカスタマーサービスのおじいさんの話ももいいですね。それから、年をとってからピアノを再練習している老紳士の話。どの出会いも心 が温かくなりました。
そして、美穂さんのアパートメントの火災の事、そして911。様々な辛い体験をされたことも知りました。911の事は私も人事ではありませんでした。あの頃、主人は1年の3分の1はアメリカで過ごしていましたし、あの飛行機だって乗っていたかもしれない便だったからです。実際主人の友達はツインタワーで仕事をしていました。
事件の直後、彼からどうやってあそこから逃げたかという話を聞き、私もしばらく気持ちが沈みました。また、美穂さんのご主人の子供の頃の体験も読んでいて衝撃を受けました。どんなことがあってもポジティブに生きていく前向きのパワーを、インドの人たちは様々な体験を積み重ねて身につけていくのですね。
たくさんの宗教や人種を抱えながらも一つの国としてまとまっているインド。いろいろ問題はありますが、人々は考え方が違う人たちとどうやってやっていったらよいか、経験的に分かっているんですね。やはり尊敬すべき国、人々だと改めて思いました。
「十億分の一のインド」のインタビュー、楽しみです。自分の専門が彫刻なのですぐに自分のフィールドに置き換えて考えてしまうのですが、一つの複雑な巨大なオブジェ、すぐにその形を捉えることはできないけれど、地道に淡々と、様々な角度から観察することによって、形が徐々に見えてくるような。
実は美穂さんのインタビュー記事を読みながら、私も少しずつインドが見えてくるといいなと思っているのです。私が実際毎日出会う人たちは限られていますし、語学力の問題もあります。ややもすると狭い範囲のインドを見てインドを知った気になるのではないかと危惧しているのです。また、中上流階級の人たちだけでなく、様々な職種の階層の人たちへのインタビューを期待しています。
話が長くなってしまいすいませんが、私のうちのメイドさんの事です。普段はつとめてあまり会話をしないようにしています。メイドさんとは適度の距離を保っていたいと思うからです。彼女は英語が話せないので、言葉の問題もあって彼女の私的な話はあまり聞かずにきました。先日ふとしたきっかけで彼女の家族の話を聞く事になりました。
兄弟は8人。けれども5人はもう死んだというのです。彼女は25歳くらいだから、死んだというのはどうして???という事で、ちょっと深く聞いてみると一人は食事中に突然死んだと・・。もう一人は首吊り自殺・・・。あとの3人も言葉が分からなくて理解できなかったけど、何か突然死だそうです。
彼女は現在子供が二人いますが、夫はお酒を飲んで働かず、彼女一人の稼ぎで生活をしているそうです。8歳から今までずーっと働きづくめだと・・・。
このはなしを聞いてもうなずく事しかできませんでした。彼女の人生ってなんなのだろう?だけど、彼女はこういう事実を淡々と受け止めて生活しているんだ。こういう人たちが私達の豊かな生活を支えていることを忘れてはいけないし、またいろいろな人たちがこういう事実を知っ て欲しいなと思うのです。
すいません、もうひとつ。夜中、車で走っていると歩行路に何か布切れが落ちている。「何、あれ?」主人に聞くと「人間が布をかぶって寝ているんだ」と教えてくれました。「そ、そ、そんなところで?歩行者に踏まれるんじゃないの???どうしてそんなところで眠れるの?」主人は「彼らは何にも持っていないけど、何か取られるという心配もないし、幸せに寝ているんだよ」・・・と。
考えてみれば、物をたくさん持てば持つほど、お金があればあるほど、もっと欲しいと思うし、なくなったらどうしようという心配も出てきます。家にはたくさん鍵をかけなくてはいけないし。彼らは生まれながらにして悟りに近い場所にいるんだと思いました。私が彼らの局地に達するにはすごい忍耐と努力が必要です。
布切れ一枚の生活なんて・・・。体が汚れたらお風呂に入りたいと思うだろうし、暖かい食べ物が食べたいと思うだろうし。彼らは見かけは汚くお金も持っていないし、人から尊敬も受けないけれど、本当は神様に近い人たちなのではないかと思いました。長々と書いてしまいましたが、インドの人から学ぶことたくさんあると感じています。
インドは日本人にとってはまだまだ遠い国です。住んでいても理解に苦しむわけですから・・・。きっとこれから美穂さんは様々な活動を展開されるのだろうと思っていますが、人と関わるインタビューのような仕事は美穂さんのライフワークになっていくのではないでしょうか。これからも美穂さんのご活躍、期待しております!