インドでは、入浴する際に「ギザ」という「湯沸かし器」を使用することは、以前も書いたかと思う。バスルームに右写真のようなタンクが備え付けられて、入浴15分ほど前にスイッチを入れておき、湯を沸かすのだ。
蛇口をひねればいつだって、熱い湯がふんだんに出ていた米国時代に比べると著しく不便だが、こちらの方が省エネといえば省エネである。
外気の温度にもよるが、湯の持続時間は5分から10分。つまり、長湯ができない。シャワーを浴びるにも段取りとこつが必要だ。そもそもわたしはカラスの行水派なので、問題はないのだが、たまにゆっくり湯船に浸かりたいときには、困る。
湯船の半分くらいで、蛇口から流れる水は温くなる。別のバスルームのギザのスイッチを入れ、バケツで湯を運び入れる、という作戦もあるが、面倒だ。だから基本的にシャワーのみの日々である。
ところで昨日。マスターベッドルームのギザのスイッチを入れたところ、異臭が漂って来た。プラスチックのようなものが焦げる匂い。ああもう、また何かがやられているよ。
けちけち大家が安いギザを買うからいけないんだ。いや、どんなギザだって、インド製である限り、似たようなものだな。ひとまずはスイッチを切り、ゲストルームのバスルームのギザのスイッチを入れ、日頃から対応が遅く悪い大家夫人チャヤに、明日また電話をせねばならぬと思うと気が重い。
ゲストルームのシャワーと使ってみると、そのシャワーヘッドの質の悪さにまた腹が立つ。引っ越し時に付け替えたばかりなのだが、マスターベッドルームはまともなのに、ゲストルーム用にはこれまた「格安」らしき「悪質」なシャワーヘッドがつけられているのだ。
シャワーの水が満開時のヒマワリの如く、大きく開いて飛び散るゆえ、貴重な湯がシャワーカーテンやら壁やらに打ち付けられ、身体に届く水が非常に少ない。しかも、部分的にシャワーヘッドの穴が無闇に小さいため、細く水圧の強い水が身体に当たり、痛い。
さて、翌朝、大家チャヤに電話をしたら、ギザ屋に連絡をしてそっちに送るが、ともかくはアパートメントのハンディマンに電話をしろという。前回、ゲストルームのギザの問題があったとき、ハンディマンが対応できなかったので、大家と交渉した経緯があるのだ。そのときもまた、大騒ぎの末に、新しいギザを設置してもらったのだった。
とはいえ、今回は別のケースゆえ、ハンディマンでも対応できるかもしれない。念のため、アパートメントのマネジメントオフィスにも電話を入れる。
チャヤにはついでに、シャワーヘッドの交換を強く要請しておいた。
さて、数時間後、アパートメントのハンディマン到着。
「スイッチを入れると、焼ける匂いがするのよ。このギザ、やられてると思うんだけど」
と言いつつ、わたしがスイッチを入れようとすると、
「ちょっと待ってください、マダム」
といいながら、ハンディマン、背伸びをしてプラグに手を伸ばす。
「マダム、これはプラグの交換が必要です」
そりゃ、見りゃわかるよ。
「これから買ってきます。300ルピーです」
「わかった。すぐに買って来てね。領収書も忘れないでよ。そりゃそうと、どうしてこんなことが起こるわけ? これは不良品だったの?」
「いいえ、マダム。プラグがきっちり差し込まれていなかったから、こうなったんです」
プラグがきっちりと差し込まれていたら、なぜ、プラグが加熱して周囲が溶けてしまうのだろう。わたしには、さっぱりわからないのだが、彼にとっては慣れた事態のようである。
ギザのスイッチを入れっぱなしにしておくと、電気代が非常に高く付く上、温度制御装置が働くにしても、加熱状態が続いて危険度が高い。もちろん我が家では、使用するときにしかスイッチを入れていないのだが、こういうことになるとは驚きだ。
それにしても、かような事態が日常茶飯であるにも関わらず、意外に火事が少ないのにも驚かされる。マンハッタンじゃ、しょっちゅう消防車のサイレンの音を聞いていたし。なにしろ、うちの斜め上のアパートメントも全焼した苦い記憶があるし。近隣で火事を経験した友人は少なくなかったものだ。
インドは床が石やタイルの家が多く、燃えにくいのが理由かもしれない。あと、無闇に人が多いから、火の手が上がったら、そこいらにいる人がバタバタと鎮火しているのかもしれない。
つい先日も、うちのアパートメントコンプレックスの別棟でガス爆発が起こったらしいけれど、別に火は出ていないし、騒ぎにもなっていなかった。翌朝モハンが使用人仲間の噂を聞いて来て報告してくれたのだった。
そんなわけで、プラグは無事、交換され、大家夫人の手下(使用人)ヴァスとギザ屋がやってきたあと、一応、点検をしてもらい、そらからシャワーヘッドも「新製品」を取り付けてもらった。
さて、夜。マスターベッドルームのバスルームが使えるようになったものの、新しいシャワーヘッドを試してみようと、今夜もゲストルームのバスルームを使ってみた。
これがもう、びっくり。
シャワーヘッドが違うというだけで、これほどシャワー時の心地よさが違うものなのか、と、思うほどに、違うのだ。そのシャワーヘッドは「三段階きりかえ」になっている。ふつうのシャワー、それから気泡を含んだ太い水(?)がとろとろと出てくるシャワー、それからマッサージ効果のある水圧の強いシャワーが使える。
素材や見栄えからして、さほど高いものではないはずだ。しかし、これが変わっただけで、こんなに気持ちよくシャワーが浴びられるとは、感動であった。母たちが泊まりに来る前に、変えておいてもらえばよかったと思う。
そんなわけで、インド在住の方。異臭には、敏感に。プラグの状態は、定期的にチェックすることをお勧めします。それから、シャワーヘッドに不満の在る方。「新しいタイプ」に交換することをお勧めします。気分が全然違いますよ!