四季のメリハリが浅いとはいえ、今、夏がさかりのバンガロール。
「ガーデンシティ」と呼ばれる(呼ばれた)バンガロールは、同時に「エアコン・シティ」の異名を持つほど、過ごしやすい夏が取り柄だったのだが、昨今は、気温の上昇が著しい。
グローバルウォーミング(地球温暖化)の影響というよりも、この街そのものの近代化が、気温上昇に直結しているに違いない。ここしばらく、木々が伐採される光景を、実によく、目にする。
街を埋め尽くす大樹の、鬱蒼と繁る木の葉に遮られ、揺れる日溜まりの中を心地よく歩けたこの地の地表が、次々に太陽の日に晒されている。
昨日の新聞では、2020年にはバンガロールの夏の気温が40度を超えるだろうとの予測が出ていた。なんということか。
現在はエアコンを使っていない我が家も、いつかはエアコンを購入することになるのだろうか。緑をフィルターにそよ吹く風が、部屋に滑り込んでくるこの心地よさが、いつまでも続いてほしいという願いは叶わないのだろうか。
街には、去年と同じ、赤い花が燃えている。
そして、街角にはマンゴー売りの屋台が至る所で。
●去り行く人々を此処で見守る
家族やファミリーフレンドを除いては、駐在員家族の友人知人が主である。米国時代は駐在員家族との付き合いが皆無に近かったのだが、ここでは社交生活が大きく変化した。
駐在員家族らは「束の間の人々」である。従っては、「お別れのとき」が来るのもはやい。
常に、誰かがここを離れ、そして新らしい誰かに、出会う。バンガロールに暮らし始めて、まだ2年も経っていないのに、なんと多くの出会いと別れを繰り返して来たことか。
そして、自分がここに居を得て、ここを拠点としようとしていることが、得も言われず奇妙な感じである。
拠点ができたからこそ、よりフットワーク軽く、あちらこちらを旅することができるような気もする。いよいよ、これからなのか。
●インド版マーサ・スチュワートな我、歯科医へ行く。
マーサには、悪いけれど、そしてかなり厚かましいけれど、新居関係の労働をして、自らを「インドのマーサ・スチュワート」と呼びならわしたい、我である。
いったいどれだけ、DIY (Do It Yourself)系の作業をしてきただろう。そして、これからもすることになるだろう。
職人の仕事が気に入らないからと、タイルの目地をセメントで埋めたり、ガーデンチェアセットの防水加工ペイントを購入したり、庭仕事に精を出したり、蚊帳を張るためのスタンドを作ったり……。
つい一週間前、旅から戻って来たとは思えない、精力的な働きぶりである。
ところで、数日前より奥歯が痛みはじめたので、ひょっとして親知らずが動き始めたか、今回こそは抜くべきか、と、歯科医へ赴いた。
例の、「妙に演技じみた」接客をしてくれる、しかし技術は信頼できそうな、カニンガムロードにある歯科医である。
一通り、X線(レントゲン)を撮り、歯の状況を確認してくれたところ、虫歯や親知らずの問題ではないらしい。まずは、クリーニングを勧められた。
米国時代は半年おきにクリーニングに行っていたのだが、思い返せばインドに来て以来、行っていない。
「どんなにきちんと歯を磨いていても、歯ブラシやフロスが届かないところがあります。これからは半年おきに来てください」とのこと。
「年齢とともに、歯茎が少しずつ、下がって行きます。そこに、歯石などがたまりやすくなるのです」
と、も言われる。寄る年波ね。クリーニングをすれば、痛みは軽減するとのこと。ほんとうだろうか。かなり「ずきずき」とするのだ。
こういう歯や歯茎の痛みは、飛行機に乗ったりして疲れたことも一因だろう。アーユルヴェーダの出張サーヴィスには来てもらったが、やはり近々、また「オイルを浴びに」行くべきか。
ひとまずは、その場でクリーニングをしてもらう。数日は塩を入れたぬるま湯での口内洗浄を勧められた。
3日目の今日。まだ痛みは残っているが、軽くなっているような気もする。何しろ、痛い方の歯で噛めないので、反対側でゆっくりと咀嚼する日々。
従っては食事に時間がかかるため、ちょっぴり小食となっている。
ちょっぴり、痩せるかもしれん。
●うれしすぎる。革屋の店頭で騒ぐ我ら。
数日前、革製品の加工店を訪れたこと、そしてその店のスタッフとともに、革を買いに行く約束をしたことは記したかと思う。
それが、今日であった。
場所はラッセルマーケットの近く、かつて中古家具(というよりも半壊家具)を作り直してくれる業者の「ショールーム」があると言うことで、足を運んだ過激混沌エリアにほど近い場所だ。
「マダム、この道、一方通行だし狭いし、車は停められないし、最悪ですよ」
ドライヴァーのラヴィが、いかにも億劫そうに言う、そんな場所。
この界隈はムスリムの人々が暮らす地区であり、専門店(というと聞こえがいい)が連なっている。
かつてバンブー・バザールと呼ばれていたエリアで、木材屋も多い。
さて、目的の店は小さな店構え。
店頭の椅子に、店主らしきおじさん(おじいさん)がちょこんと座っている。対応してくれたのは、若いスタッフだ。
待ち合わせをしている革製品加工店のお兄さんがやってくるまで、革を見せてもらうことにする。
棚に収められている革を、次々に取り出してくれる。
牛と羊の革が主で、黒や茶のオーソドックスな色合いはもちろん、さまざまな色や加工が施された革が次から次へと広げらる。滑らかなもの、粗いもの、硬いもの、柔らかいもの……。
中でもシルヴァーやゴールドなどの「光り物系」があるのには感嘆した。どうしよう。財布や小物や、クッションや、もう、何でもかんでも革で作ってしまいたくなる。
革は一枚単位で購入せねばならないが、なにしろ、お値段が、びっくりするほどに安いのである。
余った部分でキーホルダーとか名刺入れとか筆箱なんかも作れるのである。
きゃあきゃあと騒がずにはいられないのである。
店主らしきおじさんは、呆れたような、おかしいような、そんな笑顔で、時折我々の騒ぎを、一瞥している。
今日のところは、以前買っていたセリーヌのオレンジ色のバッグが、形は気に入っているのだけれど、よれよれと痛んでしまったので、似たようなものを作ってもらおうと思う。
それから今後は、旅行用のバッグやパスポートケースなど、自分の使い勝手がいいものなどをデザインしよう。
ハニーの財布も作ろう。たっぷり入る襠をとった名刺入れもいいな。
オリジナルの製品を作って「商品化」したくなってしまう。
MuseIndia.leather(ミューズインディア・ドット・レザー)とかね。
と、どうでもいいことをまた妄想しつつ、いやいや、あっちこっちに心を移している場合ではないと自戒しつつ、今日は「インドのいいところ」を堪能したのだった。
今日はひとまず、バッグを一つ作ってもらうことにしたが、出来上がりはまた、改めてご紹介したい。