義理両親の来訪が来週に延びたので、少しゆっくりとした気分で身辺の整理をしている水曜、木曜だった。
日本の家族と電話で長話をしたり、ときに本を読んだり、夕餉の支度を整えたり。そういう当たり前の日常を、時の流れに追い立てられることなく、為せることの平穏。
ところで、インドに戻ってくるやいなや、「お金」と「信用」の問題で、少々頭が痛い。お金とは、主にはインドの使用人や労働者たちなど、暮らしを取り巻く人々に支払う賃金に関して、である。
インドでは、使用人をはじめ、家庭における何かと他者の出入りが多いことは、久しい読者の方々であれば、お察しいただけよう。
給与、手数料(チップ)その他諸々。わたしが例えば、束の間の駐在員で、「外国人だから」とふっかけられるのは、もちろん困った事態だが、短期間のことであると、どこかで割り切れるかもしれない。
しかし、見た目はたとえ日本人でも、わたしはインド人の妻あり家族である。これから先ずっと「外国人気分」で住まうわけではない。
先のことはわからないにせよ、たとえばこの国に、今後より長い期間に亘って住む自分を思うとき、わたしなりの価値観と判断とで、世間との関わりについてを見つめ直して行かねばならないな、と旅から戻って痛切している。せねばならない事態が頻発している。
急激に上昇している物価。著しいインフレの中で、経済面ばかりでなく、さまざまな価値観の尺度が激変しているインド。その渦に巻き込まれて、お金の扱いが、難しい。この件についてはまた、具体的に「お金の問題」として記したい。
さて今日は、友人らと三人で、Taj West Endのカフェ・レストランへと赴いた。緑を眺めながらのブッフェランチ。
それぞれの、日本の家族についてを語る。どの家庭にも、とても似たような、親や兄弟との関わり合い。それぞれの心遣いや、しかし相容れぬ齟齬が存在していることを、知る。
各々が告白する短い会話の中にも、普遍の「家族問題」を見るようで、それを分かち合うことで、少し気が楽になる。
ランチを終えた後、市街から少し南下した場所にある革製品店へ。
ここでは、好みの革製品を作ってもらうことができるのだ。
小さな工場も隣接している。
ひとまずは、気に入っているハンドバッグと同じ形で、しかし革の色が異なるものを作ってもらおうと思う。
気に入ったらまた改めて、自分でラフデザインをし、それに基づいたものを作ってもらいたいと思う。
今日は、革の品揃えが少ないとのことで、店のスタッフから、後日「革の卸店」へ一緒に行こうと言われる。何かと「卸店」やら「専門店」に縁のあるインドでの我。
来週、その店へ赴き、革を求めることにした。どんな店だろう。自分でなにかを作りたくなりそうだ。いっそオリジナルブランド。などとまたしても、横道にそれた、それが好機かどうかも怪しいが、ビジネスチャンスに思いを巡らす。
あれこれと、混沌インドの宝庫の片鱗にまた触れる思いだ。
さて、友人らとわかれ、帰りしな、LAL BAGH(植物園)のナーセリーへ寄った。
LAL BAGHの園内には一つ、と園外にはいくつかのナーセリーがあり、その双方を利用したことがあるが、今日は「気分的に」園内のナーセリーに赴いた。
ひとことでは説明しがたいが、内外それぞれに特徴があり、どちらが「良い悪い」ではないのである。
のんびりと平和な心持ちで、花や植物を眺めていたら、マネージャー的おじさんがやって来て、
"May I help you?"
こちらの要望を告げると、なにやら慌ただしく園内を案内する。聞けばわたしは閉店時間5時30分の直前に入ったようで、時計の針はすでに5時45分をさしている。
欲しかった白いハイビスカス、オレンジや黄色のマリーゴールド、角地へ配するベンジャミンの大サイズ、物干し台の目隠しになるような日陰用植物、ゲストルームからユーテリティルームを、やはり目隠しするポトスなどを、彼のアドヴァイスを仰ぎつつ、次々に選ぶ。
「ロータス、いかがです?」
「欲しいと思ってたんです。ポットもありますか? どこにあります?」
「じゃ、ついて来てください」
閉店のためゲートが閉ざされたナーセリーを出て、おじさんは植物園のほうへずんずんと歩いて行く。かなり歩くのが速いわたしですら、大股歩き&高速で歩かなければならないほどに、速い。
入って行きながら、
「これは、マンゴーの木。樹齢230年」
「あれは、エリザベス2世が植樹したクリスマスツリー」
「このピンクの花は@@@@@」
「あの赤い花は######」
全く覚えられないのだが、次から次へと、ガイドのごとく案内をしてくれながら、奥まったところにある別のナーセリーへ連れて行ってくれる。
園内のナーセリーは政府が運営しており、農家から直接買い入れて、ここで販売しているという。彼らは基本的には政府からの労働者、つまり公務員であるとのこと。
彼自身は、祖父の代から、ナーセリー関連の仕事をしていて、彼もこの道25年らしい。
欲しかったロータスを、とりあえずは小振りの水盆とともに購入。
何しろ「アルヴィンド」とは、梵語(サンスクリット語)で「ロータス」のことだもの。我が家になくてはならない花である。
明日朝にはすべてを配達してくれるという。
もちろんガーデナー(3名)と共に。
加えて土や肥料なども。
植物そのものの値段は園外とほとんどかわらないが、労働賃金などはこちらの方がリーズナブル。
実際、来てもらって作業をしてもらうまでは、そのクオリティはわからないが、ともあれ明日が楽しみだ。
まだまだ少しずつだけれど、わたしたちの庭が、豊かな緑と花々で、いっそう過ごしやすくなりそうだ。