※本日の話題、なかなかに不快な描写を含んでおりますので、爽やか気分を保たれたい方は、どうぞ、読まないでください。
●プレシラ、野ネズミと格闘す。
そもそもは、雑木林だった場所だもの。野生動物がいろいろいても、決して不思議ではない。野鳥や蝶々やきれいな昆虫やカエルなどばかりを温かく見守り、アリやゴキブリやネズミを嫌悪するのは、間違っているのかもしれない。
いやいや、まちがってはいない。いやなものはいや。困るものは困る。
過去、庭にいくつかの「鼠穴」があるのを見つけ、ガーデナーに市販の薬剤(毒ケーキ)を撒いてもらい、穴を埋めてもらったことは記したかと思う。穴はしかし、折に触れて、発生する。つい数日前も、一つの穴を見つけて埋めた。それはユーテリティールームに近い場所にあった。
そして昨日。朝起きて洗濯をしようとユーテリティールームへ赴いて異変に気づいた。棚の上の洗剤や小さな器が倒れている。そして、プラスチック製のゴミ箱が、ガリガリとかじられているではないか。
ついには、屋内へ侵入し始めたか。それにしても、これは小さな「マウス」ではなく、大きめの「ラット」の仕業に違いない。母が帰国してからペストコントロール(害虫、ネズミ駆除)の業者に来てもらうつもりだったが、早急な手配が必要とみた。
朝のうちに電話をし、来週の月曜日にアポイントメントを入れた。
月曜まで、しかしあと数日ある。どこにいるともしれぬネズミの家屋侵入を防ぐため、ユーテリティールームからキッチンに通じるドアをこまめに閉めるなど、ささやかな対応策を練る。
プレシラが出勤してのち、ネズミの件を告げ、今日はユーテリティールームと物置(過去の使用人部屋)の掃除を徹底してやってほしいと頼んでおいた。
午後1時過ぎ、わたしがコンピュータに向かっていると、プレシラが息を荒げながらやってきた。
「マダム、誰か男の人を呼んでください! ネズミが、**&%$#_(*&&^ ^%$#*()))_((((@@@ !!!!」
なにやら激しく動揺しているようで、英語ではなく、ローカル言語であるところのカンナダ語でしゃべっている。
「落ち着いて。ネズミが、どうしたの?」
「ネズミが、大きいのが、マダム、ビニル袋が、15分、追いかけて、ネズミは、疲れている、誰か、呼んでください、マダム」
彼女の説明を要約するに、物置を掃除しているとき、箱が入っている大きなビニール袋の片隅で、ネズミを見つけたという。仕留めなければと、外とキッチンへ通じるドアをしめ、15分もの間、ユーテリティールームでネズミを追いかけ回し、洗濯機の後ろに追いつめたとのこと。
帚の柄で突ついて一撃をくらわそうとしたところ、グルルルルゥゥゥ、グルルルルゥゥゥ、と変な声で鳴きはじめたから、怖くなったらしい。
早速、アパートメントの、そこいらでうろうろしているガードマンに来てもらう。大げさなこん棒を持参して来てくれ、彼らの一撃により、見事捕獲。
ネズミを見るのは憚られたが、ガードマンの一人がしっぽを持ってプラ〜ンとネズミを掲げて見せるものだから否応なく、見てしまう。全長18センチほど。しっぽを含めると30センチほどの、かなり大きいネズミである。
無論、マンハッタンの地下鉄にいるような、丸まるとした大きいものではなく、比較的スリムであったので、さほど大きいとは感じなかったが、しかし、大きいと言えば大きい。
ともあれ、プレシラ、お手柄である。
わたしはこう見えても、自分で殺生することはできない。怖すぎる。ゴキブリも、最近でこそ意を決して一撃を食らわすことができるようになったが、それも大きいものは抵抗がある。幸い我が家に登場するのは2センチ以下の小柄なものなので、なんとか勝負している。
今後、毎月ペストコントロールに来てもらう予定なので、奴らが現れることはないだろう。
ちなみにペストコントロール。定期的に薬剤を散布することに抵抗があり、今まで頼まずにいたのだが、つい最近、ハーブによる人畜無害のペストコントロールをやっている業者を見つけた。食器を移動させたり、衣類を片付けたりすることなく、よい効果を得られるとの話をご近所さんから聞いたのだ。
ともあれ、一度試してみるつもりでいる。調子がよければ、毎月頼む予定である。
やれやれ、日々スリリングな、インド生活ではある。
●ネズミ談義のあと、美味チャイニーズを味わう
デリーから、アルヴィンドの亡母の兄であるところのランジート叔父がバンガロールに来ており、義姉夫妻、ヴァラダラジャン宅に1泊滞在するという。アルヴィンドはあいにく今朝からムンバイ出張だったので、わたしと母とで、夕食の会合へと出かけたのだった。
場所はスジャータ&ラグヴァン指定の「南京酒家」。Cunningham Road沿いのシグマモールに数カ月前にオープンしたチャイニーズだ。数日前に「味見をしに行った」ところ、なかなかにおいしかったので、本日みなでここに集うことに決めたのだとか。あらかじめリサーチしているところが憎いヴァラダラジャン夫妻である。
ランジート叔父のほか、日曜の夜同様、ラホールとマドヴァンも一緒だ。マドヴァンの妻であるところのアナパマは、デリーで男の子を出産したばかりで、まだバンガロールに戻って来ていないため、マドヴァン一人での参加である。
食事を始める前に、本日の「ネズミ騒動」を皆に披露したところ、皆、驚かない。驚くどころか、
「ラグヴァンはネズミとりの達人だ」
「いや、マドヴァンの方が上だ」
と、ネズミとり談義が始まる。彼らが暮らしているIIS(インド科学大学)のキャンパスは、まさに緑豊かな「森」である。しかも、手つかずの自然、いいかえれば放置された自然がそのままで、野生動物も少なくない。今は2階に暮しているから減ったらしいが、以前、グランドフロア(日本で言うところの1階)に住んでいたときには、年に一度はネズミ騒動が起こっていたとか。
「ネズミを見つけたら、絶対に殺さなきゃだめなんだ。追い出すだけでは、また必ずもどってくるから」
温厚なラグヴァンが、淡々と言うところに、説得力がある。で、達人はどうやって、ネズミをしとめるのか。科学者ラグヴァンは、しかし一方でスポーツ万能である。ヨガはインストラクター並みに極めていて曲芸並みのポーズができるし、バスケットボールもうまいし、ホッケーは毎週のように学生たちと試合をしている。
その運動能力をいかし、スポーティーに、ネズミを捕獲するらしい。具体的に言えば、
「ホッケーのスティックを使うんだよ。効果的なのは、スティックを使ってネズミを壁に打ち付ける。一発で仕留められるよ」
とのことである。こともなげ、である。
そんなわけで、料理も届き、話題を変えて、食事を楽しむ。思ったよりも、ずっとおいしい料理だった。
サトウキビのスティックにエビ肉ミンチを巻き付け、クルトンをまぶして揚げた前菜は、からっと香ばしく美味。魚のクレイポットも、チンゲンサイのニンニクソテーも、ヴィール(子牛肉)のソテーも、どれもインドのチャイニーズにしては味が抑えめでよかった。米麺(ビーフン)の焼きそばは、まあまあ、であったが、全体に概ね美味である。今度はアルヴィンドと一緒に来ようと思う。
食後は、ショッピングモールの上階へ行き、フードコートにあるジェラートショップへ。
みな、甘いものが好きなのである。
以前も記したが、ここのジェラートは結構おいしいのだ。
母はストロベリーチーズケーキという名の、わたしはインドの定番アイスクリームであるところのクルフィをアレンジしたフレイヴァーを試してみた。
おいしかった。
退屈したくてもできない、日々熱い、インド生活である。