本日、クライアントはじめその他関係者の人々とオベロイホテルのロビーで待機していたところ、知り合いのマダムのご家族を見かけた。ご主人と、二人のお嬢様。
わたしとしては、非常にフレンドリーな気持ちで近づき、まずは「こんにちは〜!」と、知り合いマダムに声をかけたあと、
「初めまして! 坂田です」
と言いながら、ご主人と握手し、
「こんにちは、ミホです」
と言って、お嬢様方に手を伸ばして握手をしたのだが、お嬢様方が「ひいている」のが一瞬察せられ、(わたし、間違ってた……?)と思いつつも、にこやかに去り、クライアント方々のいるソファーに戻った。
戻った後、なんだか違和感があったので、クライアント氏に「お嬢さんたちが、ちょっとおびえてたみたいなんですけど、握手するのって、へんでしたっけ?」と尋ねたところ、力一杯、
「へんですよ〜! 坂田さん、なにやってるのかと思いましたよ」
と言われて、変だったんだと悟った。
「フレンドリーな気持ちでミホですっていったんですけど」
といったら、
「余計へんですよ」
とも。
確かに、こうして客観的に書いてみるに、変な気がしてきたな。
日本を離れて十余年。日本時代は会社員もやっていたが、なにしろ編集プロダクションや小さな広告代理店など、「正統派の企業」ではなかったこともあり、当然独身だったし、つまりは友人や知り合いの家族と挨拶する機会なく三十路に突入し、渡米したのだった。(言い訳)
米国では、よそんちのハズバンドにも、握手どころか二度目からは「ハグ」である。
インドでも家庭によるが、我が周辺はみな、「ハグ」である。
その習慣がすっかりしみつき、そしてその方が、自分としてはしっくりくるのである。何度もお辞儀をするのは、昔からむしろ違和感があったので、その習慣を忘れ去るのに時間はかからなかった。
中学時代に、バスケットボール部の先輩から、廊下などですれちがうたびに「90度以上腰を曲げて挨拶をしろ」などと、今考えたら狂気の沙汰みたいな命令を受けていたそのトラウマのせいかもしれん。無論、自分たちが先輩になったら同じことを後輩にやらせていたのだが。
「**ってさ、30度くらいしか曲げよらんやろ?」
「今度、呼び出さないかん」
などと仲間同士で話していたりもして。ああ、思い出すだにおぞましい軍隊みたいな部活動。うううぅぅぅ。
そんなことはさておき、ハグで戸惑うことと言えば、ホッペのキスを1回か2回か、ということか。フレンチの場合は一往復半、つまり3回やられるが、米国人、その他欧州人の中でも3回やる人もある。デリーのランジッド叔父も1往復半だ。濃いのだ。
2回だろうと思ってタイミングをずらすと、イアリングにぶつかって「あいたた!」みたいなことになるので、要注意なのである。
何しろバンガロールはこうみえてもコスモポリタンな街であり、従っては、相手のスタンダードを察するのは簡単ではなく、1回か2回か、もしくは3回かのタイミングをつかむのは、なかなかに難しい。
たとえば我が家でのパーティー。外国人と日本人入り乱れて招く場合、国際結婚及び非日本人カップルに対しては、ハグで迎え、ハグで別れ、しかし、日本人カップルだけには、これでも気を遣って「握手」だけにしていた。さすがにわたしでも、日本人のご主人にハグしたら、物議を醸すかも、くらいは心得ていますもの。
だからこそ、自分としては、「握手」は抑え気味のごあいさつだったのだ。
でも、違ったみたいね。
いろいろと、日本的には非常識なわたし。でもまあ、もう、日本に帰って暮らすことはないとは思うし、今更、日本の社会に適応できるとも思えないのだが(やや捨て鉢)、しかし日本人への握手禁止は、一応、心得ておこうと思う。
Y家のお嬢様。変なお姉さん(おばさん?)を許してね。