昨日、夕食前のころ、ムンバイに到着した。国内線の空港が、ずいぶんきれいになっている。インドならではの「不完全さ」は随所に見られるが、数年前に比べると格段にいい。空港を出てすぐの、車を乗り降りする場所が、劇的によくなっている。
これまで、空港界隈を除くムンバイ市街では、Taj Mahal PalaceやTaj President、Taj Lands End など、Taj系列のホテルにしか滞在したことがなかったのだが、今回は、ムンバイのビジネスの中心地であるナリマン・ポイントのマリンドライヴに面したHiltonだ。
Oberoiと同系列で、Oberoiと館内がつながって一体化しているこのHiltonホテルもまた、ムンバイ富裕層の社交場であると同時に、世界各地からのビジネスマンの姿が見られる。
富裕層や旅行者向けの、インドのホテルにしては規模の大きいショッピングアーケードがあるのも特徴だ。外の世界とは隔絶された優雅な空気が流れている。
ホテルのチェックインをすませ、部屋で一息ついた後、夕食へ出かける。Hiltonにあるオリエンタル料理店、India Jonesへ入ろうとしたところ、予約でいっぱい。仕方なく、Oberoi側まで行き、Tiffinという名のダイニングへ。
インド料理、コンチネンタル料理に加え、寿司カウンターがあり、寿司やうどん、そば、天ぷら、カツ丼などのメニューがあるのに驚いた。確か、去年訪れたときからあったのだと思うが、そのときはあまり気に留めていなかった。
店の雰囲気とメニュー構成のアンバランスさというか、はちゃめちゃさが気になるが、ともかくはアルヴィンドがお気に入りだというサラダ(写真右上)と、タンドーリのヴェジタリアンメニューを注文する。
インドの国内線はどんな時間帯であれ、そしてどんなに短い飛行時間であれ、機内食が出る。食べまい。と思っても、ついつい、「味見」をしてしまう。
今日も、「夕飯が入らなくなるから、食べるのはよそうね」と搭乗前から言っていたにも関わらず、ついついチキンなどを食べてしまった。従っては、あまりお腹は空いていなかった。
しかしながら、3種類の異なる種類のサラダとガーリックブレッド(インド人の好きなメニュー)がセットになったサラダも、ヴェジタリアンとはいえボリュームたっぷりの野菜やフルーツ、カッテージチーズなどのマサラ風味グリルも非常においしく味わった。
ところで、ホテルそのものの雰囲気や、スタッフのサーヴィスなどは、個人的にTajの方が好きだ。
ホテル誕生を巡るドラマが、ホテルの存在そのものに重厚感を添えている。
とはいえ、客室に関しては、むしろモダンなHiltonの方が快適かもしれない。
Taj Mahal Palaceは旧館、新館、どちらにも泊まったが、雰囲気のよさは旧館が断然お勧め。新館は、特筆すべきなにもない。
旧館については、やはり改装前の部屋、改装後の部屋の、両方に泊まったが、改装後でもなお、水回りの換気が悪い部屋があった。特に夏のムンバイの高湿度が影響してか、部屋全体が湿気臭く感じられることもあるのだ。
ビルディングそのものが古いため、改装工事をしても完全にはならないのかもしれない。
惜しい。もうちょっとで、すばらしいのに。というところが多いのは、象徴的なインドの様子である。
●日本人ビジネスマンの姿を、あちこちで。
これまで、泊まることはなくても、幾度かこのHilton やOberoi を訪れたことはあったが、今回ほど日本人の姿を見かけたことはなかった。
あちこちから、日本語が聞こえて来るのだ。夕食の隣席で、朝食のダイニングで、エレベータの中で、ロビーで……。着物姿のご婦人もいらして、思わず「日本からですか? きれいなお着物ですね」と声をかけてしまったくらいだ。
近々、全日空が東京ムンバイ間の直行便を飛ばすらしい。しかも全席ビジネスクラスだとのこと。明らかに需要があることがしのばれる。
さて、今回の夫の出張の主目的は、ミーティングの他に、カンファレンスに出席すること。年に一度のヴェンチャーキャピタル及びプライヴェート・エクイティのカンファレンスが、このホテルで数日に亘り行われているのだ。
ホテルのロビーでは、米国時代の夫のビジネス関係者数名と、偶然、顔を合わせる。インドは、やはり高級ホテル(或いは社交クラブ)が社交とビジネスの中心地であると、改めて思う。
●リサーチのため、ショッピングモールを巡る昼。
さて本日。わたしはと言えば、インドにおける某小売り産業の実態をリサーチするため、朝から3カ所のショッピングモールを訪れた。去年よりも、一昨年よりも、ショッピングモールのクオリティが「落ちている」ような印象を受けた。
ショッピングモールは、アッパークラス(富裕層)向けというよりむしろ、現在、目覚ましい勢いで増加しているミドルクラス(中流層)の人々のものになりつつあるということが、目に見えてわかる。ミドルクラスにもまた、大まかに区分があるが、いずれにしても、その厚い層の人々の購買力が盛んに伸びている。
未だ社会の階級差が歴然と存在するこの国で、アッパークラスとミドルクラス、あるいはロウアークラス(低所得者)の人々が同じ場所で違和感なく買い物をする、というのは、少なくともアッパークラスの人々にとって、歓迎されるべき事態ではない。
たとえば使用人クラスの人たちと、フードコートで同じテーブルに付くことを、好まない人々は明らかに存在する。
それは、他国のショッピングモールの様子とはかなり異なる事態だ。尤も、他国でも高級ブランドを扱うモールと、カジュアルブランドを扱うモールに違いはあるだろうが、インドの場合はその差が著しい。
高級ホテルには、その敷居の高さもあって、誰もが入ることができないが、ショッピングモールには、ロウアークラスの人々さえ、買い物をせずとも「物見遊山」で来ることができる。
今回、本来なら「進化するはず」のモールが「洗練されていない感じ」「安っぽい感じ」に変わっているのを見て、この国の一筋縄ではいかない実情を痛感した。
詳細は割愛するが、たとえば「高級」を売りにしているコンシューマ・プロダクツ(消費財)を販売するにあたっては、よほど「売り場」を見極めないとブランドイメージを落としてしまうな、ということである。
玉石混淆で、玉までが石に見えてしまうのだ。石が玉に見えることは、まずない。
その傾向は、バンガロールよりもむしろムンバイの方が著しいと感じた。
尤も来年、2008年には、南デリーのVASANT KUNJに、インド最高級のショッピングモール (DLF Emporio Mall) が誕生する。ルイ・ヴィトンやヴェルサーチ、アルマーニ、クリスチャン・ディオールなど高級ブランドのブティックが入るらしい。
そういうモールが、今後、ムンバイやバンガロールにも、誕生することになるのかもしれない。
さて、遅めのランチをとろうと、Taj Mahal Palaceへ赴き、お気に入りのSea Loungeへ。
インド門を見下ろすこのラウンジを、わたしはとても気に入っている。今年の正月に来たときも、やはりここでランチをとったのだった。
料理は特段、おいしいわけでもないのだが、この場所は、ムンバイでのオアシスのようなのである。ここに来ると、落ち着く。
給仕がみな初老の男性で、ゆったりとしたサーヴィスであることも理由かもしれない。ピアノ弾きのピアノがあまりうまくないのも、ご愛嬌である。
去年ここに一人座っていたあの日、自分はなにを考えていたのだろうか。あまりに遠すぎて思い出せない。
ムンバイに来ると必ず一度は訪れるレストラン、INDIGO。TAJ MAHAL PALACEの真裏にあるコンチネンタルレストランだ。
古いバンガロー(邸宅)を改装して作られた店で、「インドにしては」とてもおいしい料理を味わえるのだ。
本日おすすめの中から前菜はスペアリブのグリル、主菜はタイガープラウンのグリル、チキンのソテーと、夕べとはうってかわってノン・ヴェジタリアンな夕餉であった。
写真はデザートのスフレ。焼きたてのふわふわのそれを二人で分けて食べる。
「インドにしては」と前置きをせずとも、これは十分においしいデザートであった。
この店でもまた、夫の知人の英国人男性と出会う。わたしを日本人と知り、日本語で自己紹介をしてくれる。聞けば彼の妻も日本人なのだとか。
外国人と結婚する日本人女性は、外国人と結婚する日本人男性よりも、はるかに多いと思う。たとえ日本の男女の人口比が同じだったとしても、女性は外国人と結婚する人が少なくないから、男性が余るかもな。
などと、とりとめもないことを思いつつ。