8月31日の本日は、我が誕生日であった。夕べDVDを見ながら、しかし12時が過ぎた瞬間に、HAPPY BIRTHDAY! と自ら叫び、アルヴィンドも「オテンジョウビ、オメデトウゴザイマス!」と、微妙な日本語で祝してくれた。
インド産SULAのスパークリングワインを開けて乾杯。飲みながら、映画の続きを観たのだった。
今日もまた、日曜なのをいいことに、昼間から残りのスパークリングワインを開けつつ、すっかり「ピアフ」づいているわたしたちは、ピアフの音楽を何度も繰り返し聞きながら、各々の仕事や書き物をして、のんびりと過ごす。
アルヴィンドがお誕生日のプレゼントを買いに行こうと誘ってくれるのだが、目的の店はバンガロールにあるため、プレゼントは先延ばしにしてもらい、夕食の予約を彼に任せた。
さて、夜。サリーに着替える。近々ムンバイ宅では車を購入する予定なのだが、今はまだタクシーを使っている。今夜もまた、いつもの無線タクシーを予約していた。車に乗り込み、アルヴィンドが目的地を告げる。
「タージ・マハル」
ムンバイでは、THE TAJ MAHAL PALACE HOTELは、通称「タージ」もしくは「タージ・マハル」で通用する。ところが運転手、
「住所を言ってください」
という。
「インド門の向かいにある、タージ・マハル・ホテルだよ」
ヒンディー語でアルヴィンドとドライヴァー、言い合っている。聞けばドライヴァー、最近運転を始めたばかりで、なんとインド門もタージ・マハル・ホテルも知らないというのだ。
それは、マンハッタンで「自由の女神」の場所を知らないのと同じことである。東京で「東京タワー」を知らないのと同じことである。ワシントンDCで「ホワイトハウス」を知らないのと同じことである。大阪で「通天閣」を知らないのと同じである。例を挙げればきりがないのである。
史上最強のドライヴァーに遭遇してしまったようだ。よくもまあ、それでステアリングを握って運転できることとと、むしろその度胸に感心する。
ドライヴァーは車を停め、黒と黄色のおなじみ旧型フィアットのドライヴァーに道を尋ねている。何度も何度も、同じことを繰り返し教わっているのに、全然わかっていないドライヴァー。脱力。
仕方なく、わたしがナヴィゲーターをつとめることにした。
「まっすぐ!」「左!」「そのサークルをぐるりと右!」「左!」「右!」
なんとか到着し、深呼吸して気を取り直し、ホテルの中へ入る。
晩餐の場は、WASABIであった。
4年前、夫の出張に同行してムンバイを訪れたとき、WASABIと言う名の日本料理店がオープンしたとの話を聞いたときには、そのネーミングのセンスから、日本人は関わっていないのだろうなと思っていた。
ところがその後、「料理の鉄人」の森本氏がプロデュースしている店で、正式名称が "WASABI BY MORIMOTO" と知り、ちょいと驚いた。
今では慣れてしまい、変だと思わなくなってしまった。
日本では、他の「鉄人シェフ」に比べ、森本氏はあまり知られていないとの話を聞いたが、米国では"IRON CHEF"(料理の鉄人)の再放送が久しく放送されていた時期があり、森本氏はニューヨークの有名レストランのシェフとも対決をしたりして、かなり有名な人物である。
"IRON CHEF"は、米国時代の、夫の好きなテレビ番組の一つであった。
2005年2月、ワシントンDCに住んでいたころ、フィラデルフィアで行われていたサルバドール・ダリ展を見に行った。その折、森本氏のレストランであるMORIMOTOを訪れた。
ちょうどわたしたちの隣席の女性たちが、森本氏の知り合いだったらしく、彼はその女性たちに、「鉄人みずから」あれこれと料理をサーヴして、場を盛り上げていた。
とても感じのいい方だなとの印象を受けた。
食事を終えたわたしたちは、森本氏に声をかけ、挨拶をした。アルヴィンドは、
「僕はムンバイの、タージのあなたの店にも行きましたよ!」
と、そのとき食べたエビ料理のおいしさを、熱く語っていたものだ。右の写真は、そのときのものである。アルヴィンド、もんのすごく、うれしそうである。
さて、3年前、インドに移住する直前にムンバイを訪れた時、ちょうどわたしの誕生日をこのホテルで迎え、WASABIでバースデー・ディナー(←文字をクリック)を楽しんだのだった。
その日は奇しくも、WASABIの開店一周年記念日。わたしと同じ誕生日であった。大きなバースデーケーキをコンプリメントで出していただき、とても幸せなひとときを味わったものだ。
そして本日。テーブルについて、メニューを開く。
先日、視察旅行のコーディネーションの折に訪れていたので、すでに知ってはいたのだが、3年前に比べると、愕然とするほどお値段が上がっていることに、改めて驚く。
松竹梅300mlが……。ご飯一膳が……。いろいろ書きたいが、せっかくの誕生日だ。ムードを壊すようなレポートは控えよう。
さて、「家庭で料理できないもの」。つまり刺身類を中心に、注文することにした。
久しぶりの刺身をわくわくとしながら待っていると、あら、カウンターに森本さんが! アルヴィンド、さっそくカウンターへ向かい、声をかける。わたしも続いて、席を立つ。
「覚えていらっしゃらないかもしれませんが、3年前にフィラデルフィアのお店でお会いしたんですよ」
聞けば森本氏、昨日ムンバイに到着し、明日は、デリーにオープンしたばかりの店を訪れるとのこと。米国にも新しい店を数店オープンするなど、とてもおいそがしそうである。
今日はわたしの誕生日だと説明したら、その後、「鉄人みずから」メニューにはない前菜をテーブルにサーヴしてくれた。それは、マグロのタルタルの上に、トマトやオリーヴ、クリームチーズやキャビアなどが上品に盛りつけられたもので、スライスされたサトウキビをスプーンにして、食べるのだと言う。
「こうやって、サトウキビの上に載せて、ガシガシとサトウキビを噛みながら、食べてください。サトウキビ、噛み切っちゃだめですよ」
といいながら、デモンストレーションしてくれる。
日本から直送される刺身は新鮮で美味。アルヴィンドの注文した料理もおいしく、かなりのヴォリュームがあり、すっかり満足だ。
食後は再び、鉄人みずからバースデーケーキを運んで来てくれた。
こんなに手厚くもてなしていただけるとは思ってもおらず、感激である。
「3年前の白いケーキもおいしかったけど、これもおいしいね!」
食べ物のことは、特にしっかりと覚えているマイハニーだ。
アルヴィンドと二人きりでも、それはうれしかったに違いないが、今日は思いがけず、わずか2日しかムンバイに滞在しない森本氏にもてなしてもらえて、喜びもひとしおである。
3年前と同様、満面の笑顔である。
本当に、いい夜だった。
こうしてまた、一つ歳を重ねたけれど、33歳だろうが43歳だろうが53歳だろうが、この際、どうでもよい。
いつまでも元気で活動できれば、今が何歳であろうが、あまり重要なことではない。
健全な精神と肉体を維持するための努力をしつつ、寄る年波をかきわけつつ、元気にやっていけるよう、がんばろうと思う。