ほとんどの仕事を終えて今日、時間の許す限り、コルカタの市街を巡った。まずは滞在しているオベロイホテルのすぐ裏手にあるニューマーケットへ。
ニューマーケットとは名ばかりで、古くからある混沌の市場。コルカタ初日の夜、モナが教えてくれたプラムケーキを買える店へ行こうと思う。
ホテルから5分ほどもかからないのだが、次から次へと「客引き」のおじさん、お兄さんらが声をかけてきて、鬱陶しい。
たとえインドに暮らしていても、風貌はどこから見ても非インド人。
観光客と思われて仕方ないのだが、「パシュミナ」だの「カーペット」だのの勧誘を振り切りながら歩くのは面倒この上ない。
ところで左の写真。車の上にぬいぐるみを並べ、ここで商売をするらしきお兄さんの図。ぬいぐるみも瞬く間に色落ちしそうな炎天下。果たして買い求める人があるのだろうか。
さて、薄暗いアーケードの中に広がるニューマーケットで、ともかくはプラムケーキと、そして見つかればダージリンティ、そしてコルカタ名物のマスタードでも買おうと思う。
創業百年を超えるその店。ポルトガルのリスボンや、南端の港町ファロで見かけた、古い古いベーカリーを彷彿とさせるたたずまいだ。
たちまち旅情はかき立てられ、素朴で野暮ったい焼き菓子さえもが、おいしそうに見えてくる。モナに勧められたプラムケーキは、どっしりと質感がある。
もっとも、商品名はフルーツケーキと書かれて、パウンドケーキ風のプラムケーキはほかにもあったのだが、日持ちのするリッチなケーキだと教わっていたので、このフルーツケーキだろう。
聞けば3週間ほど持つという。英国の伝統的なクリスマスケーキであるところの「クリスマスプディング」(←文字をクリック)みたいなもののようだ。
このほか、焼きたてのガーリックブレッドなども売っている。ガーリックブレッドは夫の好物なので、改めて明日の朝、ホテルをチェックアウトする前に立ち寄って、新鮮なケーキとパンを購入することにした。
世界最大、最古のティーオークションが開かれるコルカタにあって、しかし良質の紅茶は先進諸国に流れていくものが大半。デリーには、なじみの茶専門店が2軒あるが、この街で高級茶葉を扱う店の情報を得てはいなかった。
市場には、いくつかの茶葉を売る店があり、日本人にもおなじみのマカイバリ(オーガニックティーを生産する茶園)の箱入りのダージリンがあったが、量り売りで売られている茶葉は、そこそこ、といったところか。
それでも、一応、香りの良さそうなセカンドフラッシュのダージリンを買った。ミルクたっぷりで煮だし、砂糖をたっぷりいれるチャイに好適なアッサムのCTCなどは、100グラム数十円という激安価格であった。
淡水魚を使った料理が多いコルカタの食材を見るべく、魚売り場にも踏み込みたいところだったが、それは次回の訪問時にとっておこうと思う。
ホテルへの帰路、さきほどの車を見れば、ぬいぐるみで埋め尽くされていた。
車にこのような用途があったとは。
たいそうインド的な商売の風景である。
さて午後は、この地方独特の布や工芸品を求めたく、各方面から得た情報をもとに、いくつかのスポットを訪ねた。
インドに暮らし始めて3年。サリー用の布地を幾度となく見て来たが、毎度毎度、新たな発見があって、尽きない。未だ、布を見るときに目が泳いでしまう。
焦点をしっかりと合わせて、自分の好みの色柄を選び出すのは、決して簡単なことではないのだ。
別のお客さんが広げてもらっているのを横目で眺めつつ、素材や織、染め、刺繍などの意匠にも気を払いつつ、「あれを見せて」「それを見せて」と指差して、引っ張りだしてもらう。
広げたときに、思いがけないほど精緻な刺繍が現れたときなどは、感嘆のため息が出る。そのひとときは、なかなかに愉しいものなのだ。
コルカタの、街角の風景に色を添えているのがチャイスタンド。こってりと濃厚で過激に甘いチャイを、素焼きのカップに入れてくれる。
カップが熱くて持ちにくい上、素焼きの口当たりはざらざらで、決して飲み心地のよいものではないが、しかしおいしく感じる。立ち飲みをしたあとのカップは、捨てる。土から作られ、土に還る。リサイクルなカップなのである。
さて、また別のテキスタイルショップへと赴く。この店もまた、西ベンガル地方の工芸品を中心に扱っている。木綿製品もまた、さまざまな織があり、粗い手触りのロウシルクなどもまた、独特の風合いだ。
ちなみに下の大きな写真は、綿で織られている。とても綿とは思えない高級な質感だ。
サリーだけでなく、サルワールカミーズ用の布に加え、ストールや切り売りの布もある。店内を一巡、二巡するたびに、異なる布に目がとまり、いったいこの店でどれほど時間を過ごしただろう。
左上の写真は、ふんわりと厚みがあり、まるでウールのようであるがシルクである。右上の写真は、まるでラルフローレンのシャツにでもなりそうな木綿のサリーだ。
他の店ではまた、コルカタが位置する西ベンガル地方の伝統工芸であるカンタ刺繍のサリーやストールなども目にした。下の写真がそれだ。わたしは鳥をモチーフにしたカラフルなストールを買い求めた。
布を買い求めたあとは、ホテルの近くにあるベンガリスイーツショップへ立ち寄る。ここで夫の好物であるミシュティ(甘い菓子)をお土産に買おうと思うのだ。
コルカタはミシュティの都。街のあちこちに店が見られる。ミルクと砂糖がたっぷりの甘くて濃厚な菓子。それに加えてチャイも愛飲され、この都市の砂糖の消費量は、世界でも群を抜いて高いのではないだろうか。
糖尿病患者が多いことから、ノンシュガーのミシュティも売られ始めているらしいが、もちろん味は落ちる。やはりこの濃厚な旨味は、純粋な砂糖だからこそ出せるのだろう。
どれがどのような味なのか、察しがつかないものもあり、適当に何種類かを選ぶ。すべて似通った味だといえばそうなのだが、カルダモンやサフランなどのスパイスやナッツ入りもあり、それぞれ、似て非なるものなのだ。
形が崩れないように、手荷物で持って帰らなければ。
さて、以下は本日入手した品々。上段の二枚は、どちらも木綿のサリー。木綿だけあり、かなりリーズナブルであるが、特に左のサリーは伝統的な織がむしろモダンで、着てみるとかなりおしゃれな印象になった。
右側はひまわり柄。室内で撮影したので暗いが、実際は爽やかな黄色である。わたしは黄色が好きなのだが、黄色のサリーは1枚しか持っておらず、これはカジュアルにも着られるので選んでみた。夏の午後のお茶会などにもよさそうだ。
やはりホテル近くで、モナやスジャータから教えてもらっていた刺繍専門店で、カクテルパーティ用のナプキンなどを購入する。品質はピンからキリだが、なかなかにかわいらしいものを見つけることができた。実り多き一日だった。