満月だか夕日だかを背景に、舞い飛ぶ鶴の群れ……。まるでタペストリーのようですが、これはサリーです。絵柄の全体像を確認したく、バンガロール宅の玄関ホールに吊るしてみたところです。
このサリーは、インドでもモダンなデザイナーズサリーを手がけるSATYA PAULというブランドのもの。
コンピュータグラフィックによるデザインのサリーは、抽象絵画のようなモチーフのものが多く、個人的にはあまり好きではなかったのですが、このサリーは別でした。
ショーウインドーに掲げられているのを見て、店内に吸い込まれるように入り、つい衝動買いをした一枚です。東洋的な絵柄にひかれました。
インドのサリーは手工芸品が多いことから、「一点もの」であることが多いため、気に入ったら買っておかねば、同じものは二度と手に入りません。
とはいえ、そうそう衝動買いなどしていられませんから、自分自身の審美眼を養うこと、そして「本当にこれは必要なのか」ということを、即座に判断できる力を備える必要があります。
さて、これはサリー3点セット。ブラウスのデザインは自分で好みのスタイルにできます。基本は半袖ですが、最近はフレンチスリーブやスリーブレスも人気です。ブラウスはピシッと身体にフィットさせます。さもなくば、サリーが着崩れてしまうのです。
ぱっつんぱっつんを着ている人もいて、よく苦しくないものだと感心します。ペチコートはサリーの色に合わせた木綿のシンプルなもの。ぐるぐると腰回りに巻き付け、プリーツを寄せるときの「ひっかけ」として不可欠な存在です。
サリーは着物よりも簡単に着られるとはいえ、インドでのパーティは、飲んで食べて踊ってと賑やか。着崩れてしまうこともあるので、出かける前にあらかじめ記念撮影をしておきます。
裾のあたりから、胸の方に向かって鶴が舞い飛んで行くようにデザインされています。立体感のある見事な仕上がりです。
タペストリーのようなサリーと言えば、一昨日、ムンバイで有名な老舗サリー店、KALA NIKETANに赴いたところ、まさにタペストリーのようなサリーを見つけました。
ムンバイに居住者の多いパルシー(ゾロアスター教徒)の伝統的な手工芸品とのこと。
「次の世代にも引き継げる逸品ですよ」
と店の人に勧められましたが、あまりの重厚感に、衣服の概念を超越しています。
ちなみにこれは、一人の職人が7〜8カ月かけて作り上げたものだとか。艶やかな刺繍糸で丁寧に作られた、実にすばらしい芸術品です。
せっかくなので、試着をさせてもらいましたが、カーテンだかテーブルクロスだかを巻き付けているようで、似合う似合わない以前に、変でした。これを着てどこへいくのだという話です。
サリーではなく、まさにタペストリーとして壁に飾りたい一枚でした。