約5メートルの一枚布を巧みに身体に巻き付けて着こなす、シンプルながらも華やかなインドの民族衣裳、サリー。
絹や綿など布の種類にはじまり、織り、 染め、 刺繍、紋様など、産地や品質によって無限とも思える選択肢があるサリーは、インドの多様性を象徴するような衣類です。
たとえば同じ絹でも、柔らかいもの、滑らかなもの、光沢のあるもの、粗いものなど、数多くの種類があり、値段もピンからきりまで。
パーティや結婚式用の豪奢なサリーは、ぎっしりと石やビーズが埋め込まれていて、驚くほどの重量感ときらびやかさ。着こなすのは体力勝負です。
最近では、富裕層や中流層を中心に洋装が定着し、サリーを「ハレの日」にしか着用しない人たちが増えていますが、一方で、モダンな「デザイナーズ・サリー」も誕生するなど、新たなサリーの世界が展開されています。
サリーは5メートルの1枚布と、ブラウス、ペチコートの3点セットで着用します。ペチコートやブラウスはサリーの色柄とコーディネートして、自分のサイズに合わせてあつらえます。
ブラウスのための布は、サリーの布に「共布(ともぎれ)」として付いてくることもあれば、そうでないものもあります。共布がない場合は、自分でテキスタイルショップへ行き、好みの布を選んで合わせます。
下の写真は、バンガロールのテキスタイルショップ。黄色い柄のサリーに合わせてブラウスの布を探しに行ったのですが、同じ黄色でもさまざまにあり、自分の望む黄色がどれなのか、なかなか見分けがつきません。
店内の電灯の下では、色が識別しにくいこともあるので、店の外に持ち出して自然光で見比べてみたりと、布の色を選ぶときにはなかなかのエネルギーを要します。
インドのテキスタイルに触れ合うとき、無数の黄色、無数の赤、無数の緑、無数の青……と、色の海に漂うかのような心持ちにさせられます。
わたしは折に触れ、サリー専門店を訪れたり、あるいは各地の工芸展フェアなどに足を運んでは、地方地方の職人たちが丹精を込めて手作りをした芸術品ともいえる布製品に接します。その産地や種類を覚えたいのですが、あまりに種類が多くてなかなか覚えられません。
さて、今日は「昔ながらのサリー店」の様子を、写真を通してご紹介しようと思います。
バンガロールのサリー店にて。ここは工場を併設していて、布を織る音が聞こえてきます。大きなマットが敷き詰められた店内の一画に上がり込み、店の人が次々に広げてくれるサリーを羽織っては鏡に映し、あれでもない、これでもないと、品定めをします。インドの女性たちは、棚を見ながら的確に、「それを見せて!」「これはどう?」などと指示をするのが見事です。わたしはといえば、少しずつ慣れてはきたものの、未だ色の海に目が泳いでしまい、なかなか焦点が定まりません。
昨年、チェンナイ出張の折に立ち寄ったサリー専門店。チェンナイはデリーやムンバイ、バンガロールなどの都市に比べると比較的コンサバティヴで、サリーを着た女性を多く見かけます。ヘアスタイルも昔ながらのロングに三つ編み、激しく豊満な女性が多いのも特長です。
ところでインドの女性は、足を隠す一方、腹部は平気で露出します。サリーとブラウスの間から力士並みの二段腹、三段腹をのぞかせている人もいて強烈です。
こちらはコルカタ(旧カルカッタ)のサリー専門店。コルカタもやはり、他都市に比べると昔ながらの面影を濃厚に残す都市。このときは、バナラシ・シルクのサリーやカンタ刺繍のストールを購入しました。
ムンバイ宅の向かいにはワールドトレードセンターがあり、しばしばテキスタイルフェアをやっています。これはインド全国各地から、50を超える生産者が一堂に会して展示即売会を行っていたときの写真。品質の高いものを卸値で買えるのも魅力ですが、各地の商人や職人の話をするのも楽しいものです。
こちらもテキスタイルフェアの様子。絞りのサリーの専門店です。フェアの期間、家族、親戚がそろって北インドから、ムンバイへ来ているとのこと。子供たちも店の手伝いをしています。英語ができない母親にかわって、わたしに商品の説明をしてくれました。