先週の水曜日に訪れて以来、先延ばしになっていた「シルクマーク・エキスポ2011」の話題。
忘れ去らないうちに、記しておこうと思う。去年は期間中に二度訪れ、克明にレポートをしたので、今回はざっとまとめる。
なお、写真が満載の昨年12月の記録はこちらをどうぞ。↓
■シルクマーク・エキスポ2010の記録など (←Click!)
今年はチャリティ・ティーパーティにて、インドのテキスタイル講座を何度か開いたこともあり、今まで以上に、日本人の方々のサリー・ショッピングにお付き合いする機会があった。
サリー・ハンティングへの同行については、ブログに記録を残していないが、多くの方とサリー探しをするにあたっての傾向と対策について思うところを、軽く記しておきたい。
が、これはあくまでも、わたし個人の主観的な印象だということを、あらかじめお断りしておく。
さて、開催初日。午前中は当然、準備ができていないだろうと見込んで午後2時過ぎに訪れたら、やはり準備途中である。
が、昨年同様、絹の誕生を遡る展示から、じっくりと見てゆく。
繭にもさまざまな種類、質感があるということは、去年も記したので詳細は割愛するが、写真だけ、改めて。
諸々、生きてます。今年は、手のひらに載せませんでしたよ! あれはもう、一度で十分な経験。
こちらは、コンピュータでプログラムされているという織機。どのあたりがどうコンピュータなのか、見ているだけでは複雑すぎてわからない。
久留米絣の工房を訪れた時にも思ったが、「織物」というのは、実に人間に身近でシンプルなものであると同時に、複雑にも芸術的な存在に転化しうるものだと感じる。
今年はなにやら「躍動的」なサリーのディスプレイも見られ、まばゆいことしきり。
サリーとは約5メートルの一枚布。幅は、1.15メートル前後ある。
この5メートルの一枚布と、ブラウス、ペチコートの3点セットで着用する。ペチコートやブラウスはサリーの色柄とコーディネートして、自分のサイズに合わせてあつらえる。
長い布の端を身体に1周巻き付けたあと、お腹の部分で幅十数センチのプリーツをぱたぱたと折る。
太い人は、プリーツの数は少なく、細い人は、多くなる。
そのプリーツをペチコートの内側にぐいっと折り込んだあと、さらに身体を一周させ、左肩から下にパルー呼ばれる端の部分を、ハラリと垂らす。
肩の部分をただ、無造作に垂らすのではなく、きちんとプリーツを折る着方も一般的だ。
同じシルクでも、柔らかいもの、硬いもの、光沢のあるもの、マットなもの、刺繍が施されたもの、ビーズやスパンコールが施されたもの、金糸銀糸が折り込まれたもの、絞り、絣、染めなどの技法が反映されたもの……と、実にさまざまな種類がある。
日本人に比べると、脚が長く、太っている、あるいはスリムに見えても身体に厚みのあるインド人は、大胆な柄や、けばけばしい色のコントラストなどもうまく着こなせる人が多い。
が、インド人に比べると、細くて小柄な人が多い日本人は、まず、素材や質感を選ぶ必要がある。
というのも、分厚くて重厚感のある布だと、お腹のあたりでプリーツを作り、ウエストに折り込む際、厚みでもったりとしてしまい、軽やかに着こなせない。
更に小柄だと、折り返す部分が長くなり、腰回りが布でもったりとなってしまう。
小柄で細くても、どっしり素材を着こなしたいということであれば、サリーの上部と、パルーではない側をカットするといいのではないか、と常々思っている。
かつて出会ったパルシーの女性から、パルシー刺繍のすばらしいサリーコレクションを見せてもらう機会があった。そのとき、彼女が言ったことには、
「わたしの祖母は、とても小柄だったので、サリーを小さめに裁断して着ていました。だから、わたしは譲り受けても、残念なことに丈が足りなくて、着られないんですよ」
インドでも、小柄な人は、サリーをカットしている可能性がある。
だからって、いきなり初心者がサリーを裁断するのも冒険し過ぎだろう。というわけで、なるたけ着こなしやすい素材を選びたいものである。
たとえば左上のよう薄手のシルクは、肌触りもやさしく、着やすい。だが、パーティなどの華やかな場には、質感がやや地味だ。
ジョーゼットやシフォンといった柔らかな素材は、細い人たちにお勧めしている。柔らかくて軽く、プリーツがきれいに出やすい。
初心者でも無理なく着られる。
右上はバナラシ・シルクのジョーゼットだったと思う。
バナラシ・シルクは、厚めで光沢のある「博多織っぽい」ものもある。多少厚さがあっても、柄が小さく上品なものが少なくないので、日本人に合わせやすい。
今回は撮影していないが、わたしの好きな、絣や絞り染めも、着やすい。
ただ、絞り染めの場合は、色合いがヴィヴィドすぎるものが多く、「これ!」という一枚を見つけ出すのは、なかなかに難しい。
一歩間違えると「稚児帯?」になってしまう。
それから、ネット素材にビーズやスパンコールなどが施された「ボリウッド系パーティ仕様」も、着やすいかもしれない。
ただし、重さが2、3キロあるものも少なくない。これらは着たら最後、自由に身動きがとれなくなる可能性もあるので、軽めを選びたい。
更には、裾のあたりに装飾が集中して重量感があるものは、歩いているうちにズルズルとずりおちる可能性がある。
ずり落ち防止のためには、ブラウスは身体にぴったりとしたものあつらえること。そしてペチコートのウエストの紐はがっしりとしめ、腰にひっかける感じて安定させるべし。
これはサリーのパルー部分。サリーを身体にまきつけたあと、肩越しにひらひらと背後に落ちるあたりだ。写真ではわかりにくいが、相当に巨大な柄。
小柄な人は、このパルー部分がなるたけ短く、軽めのデザインがお勧めだ。こんな大柄を着た日には、背中に鳥を背負っているようにしかみえず。
小柄でないわたしでも、こんなでかい柄は、着こなせない。
左上は、カンタ刺繍。このワークは、薄手のシルクに施されている上、重量感がなく、色合いも比較的落ち着いているので、着こなしやすい。
一方、右上のような大胆なコントラストは、一見、柄が上品そうに見えるが、着てみると主張が強すぎて難しい。
このブースの、上部に下げられているものは、いずれも比較的、着こなしやすい部類に入りそうだ。特に色のコントラストが強くないものの方が、やさしく見えるだろう。
右上のペイズリーは、かなり大きい柄(20センチ以上はある)だが、シルクが染色されていないピュアな色である上に、柄の色も落ち着いているので、負けずに着られると思う。
こうしてドリャ〜ッと並んでいると、目が泳ぐし、何が何だか、よくわからなくなるというもの。
時間をかけてゆっくりと、吟味するしかない。
ただ、一つ言えるのは、自分が好きな色柄と、自分に似合う色柄は、決して一致するわけではないということ。そのあたりが、大いなるジレンマである。
目が眩むほどのゴールデン。こういうきらびやか系は、南インドのカンチプーラムの特長。サリー初心者には、着こなすのは難しいタイプ。
今回、わたしが一番気に入ったのは、このサリー。バナラシシルクの、大胆柄だ。とはいえ、全会場のサリーの中では、上品な部類に入る。
と思っていたが、こうしてみると、かなり派手だな。
購入を考え、ぐるぐると身体に巻いて、試着してみたのだが……。どうにも、柄に負けてしまう。
マラヤーラム語(隣接するケララ州の言語)の新聞社が取材に来ていて、インタビューされたのだった。
この新聞は、昨日の午後、ケララ・アーユルヴェーダ診療所を訪れた際、受付の兄さんから、
「あ、新聞に出てたよ!」
と、見せられたのだった。
とっててくれてありがとう。でも、全然読めません。
「○○ルピーのサリーを買ったって、書いてあるよ!」
と、夫の前で屈託なく言う兄さん。
お願い。そこのところだけ、訳さないで!
ってか、試着はしたけど、買ったなんて言ってないのに、いい加減な記者である。
そんなわけで、二番目に気に入ったサリーを着てみたところ……。
店のお兄さん、通りがかりのおばさん2名、満場一致でこちらの方が似合うと言われた。
確かに自分でも、そう思った。
以前も幾度となく書いたが、このような展示会には、鏡があまり置かれていない。
インドの女性たちは、鏡がなくても、自分が欲しいものを、スタッと決められる。それがクールすぎる。
だが、わたしは何年たっても、鏡で確認しなければ、イメージが掴めない。だから、店のお兄さんと一緒に、サリーを抱えて、鏡のある場所までいちいち足を運ぶのである。
それから、数名の読者から、これまで受けていた指摘について、まとめてコメントしておく。
●サリーの丈は、床にぎりぎりが基本
サリーは床ぎりぎりの長さで着るのが美しいとされている。それがスタンダードだ。わかっちゃいるが、わたしは少々、短めに着ることが多い。
その写真を見て、「短いのでは?」と指摘されるのだが(よく見ていらっしゃる)、歩きにくい、踊りにくい、裾が汚れやすい、などの理由から、若干短めにしている。
わたしが片足を前に出して立つ癖があるのも、足先が裾からのぞいて、ことさら丈が短く見える理由かもしれない。
サリーを着る際は、パーティなどへの出席が多い。食事はブッフェが一般的。歩き回って挨拶をし、果ては踊る。というわけで、やや短めにすることが多い。
自分のことはさておき、裾は床にぎりぎりで着用をお勧めします。
なお、装飾の多いサンダルを履くと、裾にひっかかりやすいので、ご注意を。
●サリー着用法は、さまざまにある
サリーは、実にさまざまな着方がある。上記のように肩でプリーツを作るものなど一般的な着用法以外にも、あれこれと。
ただ、それを説明するのは面倒なので割愛。
わたしは、パルーの部分を折り曲げない着方が好きなので、たいていそれだ。なにしろ、折り曲げるよりも簡単に着られるし、歩くときに、ひらひらとたなびくのがいい。
肩にプリーツを作ると、腹部の贅肉が露出するが、この着方だとお腹が隠れるのもよい。
最初のころは、食事の際などに不便だと思っていたが、慣れればどうということはない。
●サリーは、スリムな人にも似合います。
わたしがツイッターに、とある事情をして
「あらゆる角度からの、自分の胴体の太さに愕然! 日本人離れした厚み!! ある程度の太さが必要なインドのサリーが似合うわけだ。」
と記した途端、「サリーは細い人でも似合うと思う」とのコメントが発せられた。
「細い人は、似合わない」とは言っていない。
細い人にもよく似合う、とも、これまで書いてきた。
ただ、身体に厚みがある女性が圧倒的に多いインドにあって、その国民服がその体型や肌色に沿ってデザインされているものが多数なのも事実。
日本の既製服が入るスリムなインド人女性をして、「ある程度の細さが必要な日本の服が似合うわけだ」と言っているようなものである。
わざわざ釈明するのも哀しいが、「細い人たちに似合うサリー探し」に尽力してきたにも関わらず、誤解をうけやすい表現をして、いちいち突っ込まれてたんじゃ洒落にならんので、一応書いておく。
インドのテキスタイルについては、これまでも「惜しみなく」写真や情報を掲載している。
まだ未完成すぎるが、ホームページにも特別に項目を設けて、過去のブログにもリンクできるようしているので、インドのテキスタイルにご興味のある方、ご覧いただければと思う。
■伝統工芸の粋。サリー、テキスタイル世界(←Click!)