ボンベイ(ムンバイ)では「冴えない」弁護士だったガンディ。仕事で南アフリカに渡った際、人種差別を目の当たりにしたことから、民族主義に目覚め、公民権運動に身を投じる。20年以上の歳月を経て故国へ戻ったガンディは、インド全国を列車で旅し、その広大な国土、膨大な人口、それを支えるべき農作物や手工芸品の重要を認識する。
「非暴力、不服従」といった「サティヤグラハ」という思想に並んで、彼が掲げたスローガンに、「スワデシ、スワラジ」がある。スワデシは「国産品愛用」を、スワラジは「自主独立」意味する。
当時、インドで生産された「木綿」の多くは英国に輸出、機械による大量生産で画一的な衣類が製造された。それらは逆輸入され、廉価でインド国内で販売されるという「植民地経済」が横行していた。これによって困窮したのは、インドの農民、職人たちだ。木綿に限らず、あらゆる農作物、手工芸品は、守られるべき、尊ばれるべきものとして、ガンディは「スワデシ、スワラジ」を叫んだ。
自分たちの衣類は、自分たちで紡ぎ、織ろう。英国の製品をボイコットしよう。
ガンディは自ら、木綿を手紡ぎ車(チャルカ)で紡ぎ、その糸で、布を織った。不揃いの、無骨な、それでいて手織りの温もりが生きる布、それがカディ (Khadi)だ。ガンディはそれを身にまとい、自らのトレードマークとした。手紡ぎ車はまた、1947年に印パが分離独立する以前、インド国民会議派が採用した旗のシンボルにもなっていた。
近代化の波にもまれながらも、歳月を重ねてなお、インド各地で手工芸が尊ばれ、多くのNGOがアルチザン(職人)の仕事を支援している。またデザイナーズブランドのなかには、伝統的な手法が生きたテキスタイルを利用するところも少なくない。自国の文化を誇りに思い、同時に守ろうとする姿勢の表れだともいえる。
この、DASTKARのバザールもまた、そのような職人の技と伝統的な工芸、芸術を守り、支援する趨勢の一環だ。
グジャラート、ラジャスタン、ベンガル、カシミール、オリッサ、マドヤ・プラデーシュ、アンドラ・プラデーシュ……。インド各地の州から訪れる職人やアーティスト、その親類縁者、あるいは工房の経営者が自ら訪れ、商品を販売する。
今年もまた、ミューズ・クリエイションのメンバーとその伴侶数名と共に訪れ、会場を案内しながら巡る。ただ見るだけではわからないが、そのオリジン、背景を知ると、作品、商品への愛着は増す。
今年もまた、人気は、アンダマン・ニコバル諸島のパール店。淡水ではなく、海水パールを扱うこの店は、手頃な値段で良質の商品が販売されている。わたしは、過去3年に亘り、ネックレスやイアリング(ピアス)を購入してきた。どれも実用的で個性的。おすすめなのだ。
昨今、サリーについては、バンガロールのインディラナガールにオープンしたタタグループのテキスタイルショップ、TANEIRAで、インド各地のヴァラエティ豊かに良質なサリーを手にすることができるようになった。しかしこのバザールは、職人と直接、話しつつ、「これを織るのに1年かかる」といったアイデアも得ながら、学べるところは多い。
オーガニックコットンの衣類や、天然染料を使ったシルクの衣類など、肌に心地いいものも多々ある。ミューズ・クリエイションのチャリティバザールに出店してくれているNATURE VALLEY(テキスタイル)や、MAYA ORGANIC(木製玩具)も出店していた。
ひとつひとつのヴェンダーについて、じっくり巡って説明したいところだが、駆け足でざっと案内するのにも、1時間半はかかってしまった。そのあとチャイ休憩をして、各自、気に入ったものをお買い物。わたしはハンドメイドの石鹸とローズウォーターを購入するにとどまったが、ともあれ、魅力的なバザールだ。引き続き来週も開催されている。
【過去のDASTKARの記録】