インダス文明の時代から、サリーはインド亜大陸に暮らす女性たちの身を包んできた。その土地その土地、独自の様式による染色や織りなどの技法が用いられた約5メートルの一枚布は、以来4000年以上、変容を続けながら衣類としての歴史を刻んでいる。
刺繍や絞り染め、筆画……と、布を彩る無数の技。中でも、インド移住以来、わたしが最も好きなのは、パールシー刺繍のサリー。パールシーとはゾロアスター教徒のこと。歴史的背景を記したいところだが、時間に余裕がないので、今日のところは大きく割愛。
わたしは十年以上前のムンバイ在住時に数枚のパールシー刺繍のサリーを購入した。お気に入りのそれらは、以来、幾度も繰り返し着用している。
さて、インドのEコマース(オンラインショッピング)黎明期は今から約10年ほど前。パイオニアであるFlipkartが創業後、さまざまなサイトが誕生したが、中でもわたしが気に入っていたのは、インド各地の「洗練された」伝統工芸が購入できるポータル・ショッピングサイトのJayporeだった。
創業は2012年。当初はそのサイトを通して、インド各地の工芸品やファッション、インテリアなどを目にし、楽しんでいたものだ。
わたしがAshdeenのあまりにも精緻で美しいサリーを初めて目にしたのは、このJayporeだった。同じ2012年にパールシー男性であるAshdeenによって創業されたブランド。伝統的なパールシー・ガラと呼ばれる技法を用い、現代のトレンドを映した仕上がりを目指している。以下、サイトからの一文。
“Our creations amalgamate traditional Parsi Gara aesthetic with a contemporary look. We offer unique and distinctive bespoke designs to suit individual customer tastes and requirements.”
好みに応じたデザインをも検討してくれる、芸術品のような衣類を販売している。わたしは一度、スカーフを購入した。実は、7、8年前にJaypore経由で鶴が刺繍されたサリーを「着払い」で注文したのだが、配送途中で紛失、警察から問い合わせが来た事件があった。
たまたま先日、ディワリのパーティで同じような赤いサリーで出席していた、好みが似ているパールシーの友人にその話をしたら、彼女はそれと同じサリーを入手していた模様。さらには、Ashdeenは彼の夫の従兄弟だとのこと。重なる偶然。
以前から本店を訪れたいと思いつつ、機を逸してきたが、今回、足を運ぶことができた。中国の刺繍に影響を受けたパールシー刺繍は、オリエンタルなモチーフが特徴。どれを見ても、ため息が出る。Ashdeenがデザインした作品は、100人を超える職人たちの手によって、丁寧に丁寧に仕上げられていく。
最近、販売開始されたインテリア用のスクリーンがまた、圧巻。立体的な鶴の刺繍が、なんとも華麗で美しい。
まるでアートギャラリーを訪れたあとのような充足感だ。次回はひとりで、ゆっくりと訪れよう。
次なる我が人生ハレの日……。還暦の誕生日の前には、ここで赤いサリーを注文したい。
◉Jaypore
https://www.jaypore.com/
◉Ashdeen
https://ashdeen.com/