今朝は月に一度のFM熊本ラジオの収録日につき6時起床。193回目の今回は、インドのジュエリーを語った。日曜日に参加したパーティで久々にジュエリーをじっくり眺めたことから、この話題に決めたのだった。
♦︎ 150年以上の歴史を持つバンガロールの老舗ジュエリーショップ、C. KRISHNIAH CHETTY。同店が「クリスタル・ミュージアム」をオープンしたことを記念してパーティが開かれた。わたしは、オーナー夫妻と知り合いだということもあり、すでに去年から何度か訪問し、記録にも残している。
ミュージアムには、マイソール藩のマハラジャ一族や、英国統治時代、英国名家のために創った貴金属類のレプリカほか、インドにおける宝飾品の歴史を学べるさまざまが展示されている。
オーナー夫妻が、宝石学の専門家でもあることから、アカデミックな見地での継承も重視。ミュージアムの一隅には、宝石学に関する多彩な書籍が所蔵されたライブラリもある。なお、ミュージアムの名に冠されている「クリスタル」。ここで意図されているクリスタルとは、ガラスなどの人工物ではなく、あくまでも天然自然、地球が生み出した「鉱物」としてのクリスタルだとのことだ。
♦︎ パーティで行われたトークや、150周年を記念して刊行された分厚くも充実したコーヒーテーブル・ブックの内容についても言及したいところだが、尽きない。
会場では、同店のジュエリーを身につけた4組のカップル(モデルたち)が華やぎを添えていた。店舗で展示品を見るよりも、遥かに臨場感がある。結婚式の新郎新婦を演じる彼ら。ちなみに南インドの結婚式では、石よりも「金(ゴールド)」が目立つ。ネックレスだけでなく、チャンピオン・ベルトのような金ベルトも特徴的だ。
♦︎ クリスタルの中でも、ダイヤモンド、サファイア、エメラルド、ルビーの4つは、「貴石(プレシャス・ストーン)」と呼ばれ、希少価値が高く、一般に高価だ。一方、アメジストやラピスラズリ、ローズクオーツ、トパーズなどは「半貴石(セミプレシャス・ストーン」と呼ばれ、希少性は低く、値段も貴石よりは手頃である。
インドにおけるジュエリーの歴史は古く、深く、厚く、熱い。たとえば、アジャンター石窟群の仏教遺跡の絵画を見るだけでも、インド亜大陸の人々が、数千年前から豪奢な宝飾品や、艶やかな衣類に親しんでいたことが一目瞭然だ。
♦︎ かつてインドは、ダイヤモンドの唯一の産出国だった。欧州列強や英国がインドに侵攻した際には、無数の宝飾品が持ち出された。その後、ダイヤモンドの産出国は、ブラジル、アフリカ、ロシア……と他国へと移行、インドではあまり採掘されていないようだ。しかし「ダイヤモンドの研磨産業」は、今でもインドのグジャラート州スーラトが世界の約9割を担う中心地である。
なお、インドでは古くからカットされていない粗削りの「ラフ・ダイヤモンド (Rough Diamond)」を、目いっぱい施したジュエリーも一般的。写真のモデルたちが身につけているガラスっぽい石は、すべて「ラフ・ダイヤモンド」だ。
♦︎ クリスタルが施された宝飾品は、富や名声の象徴にとどまらぬ、地球のパワーを享受してくれるものであり、神々を象徴する一面もある。先祖代々から継承されるそれは、自分の出自を具現化するものでもある。紙幣が単なる紙になる可能性がある世界において、ゴールドや貴金属は普遍の価値を持つものとしても重宝されてきた。
♦︎ たとえば、インドは1947年にインド(ヒンドゥー教国家)とパキスタン(イスラム教国家)が分離して独立したが、その際、イスラム教徒とヒンドゥー教徒の大移動が起こった。最低限の荷物のみを所持しての民族大移動の際において、宝飾品は非常に大事な存在だった。新天地で、手持ちの財宝を売り、生計を立てたという話は、当時、極めて一般的だった。
ちなみに、わたしが2001年に結婚した際、アルヴィンドの亡母が身につけていた22金のネックレスとバングルを譲り受けた。これらは彼女が母親から受け継いだもので、少なくとも100年以上前のものだ。すなわち、印パ分離独立時、夫の母方の祖先が暮らしていたパキスタンのラホールから、遥々、持ち出されたものである。わたしは身体が大きい割に手が小さいので、この比較的小振りのバングルがぴったりだった。それを日本人のわたしが継承する縁(えにし)を思う。
♦︎ 宝石はまた、占星術との深いつながりもある。この話もまた語るに長くなるので個人的な話にとどめる。わたしの誕生石は、知性を司るのがエメラルド、感情を司るのが天然真珠だ。これは生年月日時間、誕生した場所の経度緯度から割り出される。
夫の父方の祖母(ダディマ)が他界した際、形見にとネックレスとイアリングのセットを受け継いだ。奇しくもそれはエメラルドと真珠だった。わたしはインドに嫁ぐべくして嫁いだのだなと思わされる出来事だった。
◉バンガロールの老舗ジュエリー店で、宝石の歴史を辿る。(2022/10/05)
https://museindia.typepad.jp/fashion/2022/10/crystal.html