バンガロール中心部、UBシティのそばに数年前オープンしたミュージアムMAP (Museum of Art & Photography)。パンデミック時代の最中からオンラインでの催しが開始されていたが、開館後は常設、特設展示以外にも、さまざまなプログラムが企画されている。一昨日は、テキスタイルのシンポジウムが開催されるというので、予約し訪れた。
ランチを挟んで、終日のプログラム。テキスタイルとはファッションに止まらぬ、人類の歴史や文化、各国の交易、思想、経済、産業を語る上で不可欠な存在だ。
わたしがセミナーで毎回語っている明治維新以降の日本とインドに関わりにおいても、その交易史の肝となったのは綿貿易だ。1893年、タタ・グループ(綿貿易会社として創業)の創始者であるジャムシェトジー・タタが来日し、渋沢栄一と会合。その年に、日本とインドが綿花の直接取引をすべく、日本郵船を通して日印の定期航路を開設した。ここから近代における日印の交流が活発になる……。
この日はまず、カディ (Khadi)やカラムカリ(Kalamkari)と呼ばれる、インドで最も古いテキスタイル技術の背景について学んだ。カディとは手紡ぎ、手織りの布のこと。現在は一部「機械化」されているものもあるようだが、 ともあれ、英国統治時代、ガンディーがイギリスの機械織りの布に対抗し、カディを推奨したことでも知られる。このあたりの詳細は「インド・ライフスタイルセミナー」の動画でも詳しく説明しているので、関心のある方がご覧いただければと思う。
カラムカリとは、ペルシャ語の「カラム」と、職人技(仕事)を意味する「カリ」に由来する言葉で、布地に手描きまたはブロックプリントを施したものを指す。「京友禅」と共通の世界だということもあり、興味深い。
天然染料や綿、地理、農業、水……。布作りを巡るさまざまな事柄を学ぶ。途中、ミュージアム内に展示されているカラムカリを眺める。
尽きぬ。
茜(あかね)についての学びもあった。日本茜はアカネ科の蔓性多年草で、本州、四国、九州などの山野に自生するものらしいが、インドでは、Rubia cordifolia L.というインドアカネが赤を生み出す天然染料として知られている。このところ、「日本の赤」転じて「日本茜」について関心を抱いていたので、好奇心は益々刺激された。
……書きたいことは募るが、情報量が多く、専門性が高すぎるので、写真をシェアするにとどめたい。
この日は、有松絞りの浴衣を着て出かけた。いつものように、ほぼ100%「Bandhani(インド古来の絞り染め)で着物を作ったのね?」と言われる。この色合いが特に、Bandhaniテイストに似ていることもあり、日本においても伝統的な手法なのだと言っても、あまりにもインドの絞り染めと似ていることから、すぐに理解してもらえないのだ。
テキスタイルやファッション、アートに関心がある人との繋がりの場においては、個性が際立つ服装で出かけた方が、出会いの機会も増える。この日も、何人もの人たちから声をかけられた。うち2人は日本在住経験があり、さらに別の2名は、日本語を話すことができるなど……。未来につながる出会いがあった。
会場は、予想に反して、大半が若い学生らだった。ファッションスクールなどに在籍する学生が、授業の一環として訪れているという。ちなみにこの日のプログラムは、ランチやティーを含んで「無料で」参加できるものだった。バンク・オブ・アメリカと同ミュージアムの協調で実現しているフィランソロピー。インドの芸術や歴史を学ぶ場を若い世代へコンスタントに提供するミュージアムの有り様に、改めて感銘を受ける。
思うところ多々あるが、今日のところはこの辺で。
◉インドで生まれ、日本で育ち、再びインドへ。歴史豊かな絞り染めの世界。Born in India, raised in Japan, and now back in India. The history-rich "Shibori".
https://museindia.typepad.jp/2021/2021/09/shibori.html
【インド・ライフスタイルセミナー動画】
①多様性の坩堝インド/多宗教と複雑なコミュニティ/IT産業を中心とした経済成長の背景/現在に息づくガンディの理念
③明治維新以降、日本とインドの近代交流史〈前編〉人物から辿る日印航路と綿貿易/からゆきさん/ムンバイ日本人墓地/日本山妙法寺
【MAP (Museum of Art & Photography)関連の記録】
🥻創設者の誕生日パーティ@MAP (Museum of Art & Photography)
🎨今度はACT MUZ企画でミュージアム見学。『ラーマーヤナ』を軸に学ぶ、時空を越えるインド世界の今昔
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