先日、バンガロールの大学に留学している女性が我が家へ訪れた際、原発の話から「チェンナイに日本人の街を作る計画」というのを聞いた。
チェンナイ、即ち旧マドラスは、南インド、ベンガル湾に面する都市。現在、日産をはじめとするさまざまな日本企業が進出している。
日本人の街とは、そのような日本企業に勤務する駐在員が集う、たとえば一つの通りを日系の店などで埋め尽くす「日本人街」のようなものであろうとイメージしていた。
ところが彼女曰く、5万人の日本人を移住させる計画があるという。
5万人を移住!?
現在、インド全国の在留邦人の合計が、5,000人程度(在留届を提出している人)である。その10倍の5万人?
そんな話は聞いたことがなく、ネット上のニュースでも気づかなかった。彼女を見送った後、サイトを検索して驚いた。
今年の1月初旬〜中旬にそのようなニュースが流れていたのだ。
実はこのころ、大量のレポート提出が控えていたため、ネットへの接続を極力遮断して、仕事に集中していた。
納品の直後はフブリだのハンピだのを旅し、更にはスリランカを訪れていたこともあり、そのニュースをまったく目にすることがなかった。
1月にニュースが流れて以降、その後の情報を探してみても見当たらず、進捗状況がわからないのだが、まずは下記のニュースを読んでいただきたい。
■インドに「日本品質の街」輸出…大規模都市開発 (←Click!/すでに記事は削除されている)
■インド「日本の街」推進合意 (←Click!/すでに記事は削除されている)
■チェンナイでの複合都市開発、推進へ:日揮、みずほコーポ銀 (←Click!/すでに記事は削除されている)
■1,500-acre Japanese township to come up soon on OMR (←Click!/この記事は残っている)
リンク先を読みづらい方のために、要点を抜粋するに、以下のような流れだ。
●日本政府は、官民一体のインフラ輸出として、チェンナイ近郊で、大規模な都市開発を行う方針。
●5万人が生活できる「日本品質の街」をまるごと「輸出」する。
●ショッピングセンターや病院などを併設した高級マンションのリゾート都市を2013年以降、順次開発。
●枝野経済産業相は1月10日、チェンナイを訪問し、複合都市開発について、地元州政府から支援を受けることで合意した。
●枝野氏はチェンナイで記者団に対し、「日本企業がビジネスを行いやすい環境を整備し、インドとの貿易投資の促進を実現したい」と強調した。
絶望的なまでに突っ込みどころに満ちあふれた、信じ難いニュース。これが4月1日に発表されていたら、100%虚構だと思うだろう。
これは言わずもがな、日本在住の富裕層が、日本から逃亡する先を準備しているとしか思えない。
それも、日本人駐在員からは敬遠されがちなインドに。
ことにチェンナイは、インドの中でもなかなかに生活難易度の高い都市である。
夏期の蒸し暑さと言えばそらもう大変なものだし、その他なんやかんやで、いくら日本品質の街をそのまま輸出したところで、皆が喜び勇んで住めるようなところではないと思われる。
その一方で、いや、彼らは独自の発電設備なども作って、エアコンがんがんのクールな街を作っちまうのかもしれないな、とも思う。
ネガティヴなコメントは避けたいが、チェンナイ在住の人が記しているブログなどを一読すれば、チェンナイの事情がお察しいただけよう。
中には読むに耐えかねる、インド及びインド人に対する屈辱的発言が乱発されているブログもあり、それらのどの情報を取り入れるかは読者の判断次第であるが。
ともあれ、5万人。
参考までに、ニューヨークの在留邦人が2006年時点で約5万人である。これもまた、在留届を出している人の人数であるから、実際にはもっと多いとは思うが。
ニューヨークと同じだけの邦人を、チェンナイに移住させる。しかも2013年から随時と、ずいぶん急な話だ。
福島第一原発の4号機が危機的な状況にあることは、一般的な危機管理能力のある日本人ならご存知であろうから、ここでは改めて説明しない。
と言いながらも簡単に書くならば。
天井は吹っ飛び、廃墟のような状況で、もしも大きめの地震や津波が再来すれば、いつ崩壊しても不思議ではない4号機の建屋。
これが崩れ、使用済み燃料プールの汚染水が流れ出したら、人類史上最悪の事態となるだろう予測がされている。
もう、日本はおしまいだ、とさえ言われているような現状だ。
さあらば、その4号機の修復や補強に全力を尽くすべきで、たとえ官民一体とはいえ、チェンナイに5万人都市を作っている場合じゃないだろう!?
書けば尽きなくなるので書かずにいたが、ついでに書く。
汚染された瓦礫を全国にまき散らすという、どう考えても正気の沙汰とは思えないことを実施しようとしている日本政府。
おかしいですから!!
汚染された瓦礫を遠く離れた土地の人間が引き受けることが絆? 助け合い? 冗談じゃない。
他にもっと建設的な方法はあるだろう? 運送料をかけて遠くへ危険物を運び、汚染を拡散することの意味が、全くわからない。
「絆」という言葉そのものが、地に落ちたとさえ、わたしは、個人的に、思う。
地元福島の食材を使った給食を日々、口にしている福島の子どもたち。それらがどの程度汚染されているのか、正確な情報をつかんでいる人は、果たして存在するのか?
苦悩の渦中にある人々の声は、世界に届かず。
子供の健康を訴え、暮らしの不安を訴えれば、村八分にさせられるような村社会。
西日本や海外へ「疎開」する人たちも、どんどん増えている。ここインドにも、そのような家族は増えていると聞く。
そんな人たちに対して、悪意の言葉を向けたり、ヒステリックな人たちだと蔑視する人々。最早、「不安を煽る」などという、悠長なことを言っている事態ではないのに。
昨年末、日本政府(野田氏)が発表した「原発事故は収束した」という有り得ない情報を、鵜呑みにしている人が多数なのであろう日本。
国民はといえば、政府や東電の言うことを、「ある程度は」信じるしかないではないか。国民の心を、暮らしを、人生を、これほどまでに翻弄している日本政府を、わたしは本当に、憎く思う。
最早、「なにもなかったことにしたい」という気持ちが、目の前に突きつけられている事実を歪曲しているとしか思えない現状。
だからといって、「じゃあ、坂田さん。あなたが日本に住んでいたら、どうなのか」
と、言われても、わたしにはわからない。わかるわけがない。住んでいないのだ。最早、想像できない。もしも子供がいたら。結婚していたら。独身だったら……。
そのときの経済力、家族のこと、仕事の状態……。それらを考え合わせた上で、放射能被害を受ける、即ちがんの発症などのリスクを背負った上で、そこに留まるか、あるいは移住するかを考えるだろう。
少なくとも、無知ではいないはずだ。極力、情報を集めた上で、身の振り方を決定するだろう。
そして、少なくとも、がん保険には入るだろう。いつかその保険制度が、破綻するかもしれないにせよ。
それにしても、だ。
米ソ冷戦時よりも、北朝鮮の存在よりも、いつ倒壊するかわからない4号機の存在が、どれほどまでに恐ろしいか。
そんな危機をはらんだ4号機の使用済み燃料プールの映像が、これである。
この、放置されっぷり。ビニールシートって……。アナウンサーの軽やかな声が、「危機感皆無」すぎて、むしろ恐怖だ。
願わくば、すべて夢であって欲しい。
4号機の危機など、誰かが想像したデタラメであってほしい。が、どこをどう見ても、そういう楽観的な情報はない。
これは、ドイツのニュース番組。
このような状況をしての、チェンナイ近郊の日本人向け都市計画。ともかく、枝野氏がチェンナイに来ていた、という事実が、驚きであった。
選民のための、都市。
そんな予算があるのなら、被災地及び危険区域に暮らす人たちの、移住や疎開のサポートを全面的に速攻で行うべきだ。
ところで、このチェンナイ郊外。現在、稼働中の原子力発電所が近くにあるというのが、意味不明なほどに皮肉な現実。
※当初「建築中の原発」と書いてたが、チェンナイ在住の読者から稼働中だとのご指摘をいただいた。日本人街に近い原発は「カルパッカム(Kalpakkam)原発」で、スマトラ沖地震の際の大津波では、この原発も被害を受けたとのこと。
2基の原子炉のうち、稼働していた1基の原子炉の冷却装置につながるポンプ室に海水が流入、原子炉は自動的に緊急停止したという経緯がある。
建設中の原発と勘違いして記したのは、チェンナイと同じくタミルナドゥ州でも、さらに南の「クダンクラム(Kudankulam)原発」で、最近建設を終えたばかり。反対の声を押し切り、3月末に稼働を決定したとのニュースが流れたようだ。
インドの原発。3/11を経て、原発がいかに危険かを学んだ以上、個人的には激しく稼働に反対だ。
ともあれ!
さまざまな視点から読み解くに読み解けない、実に不可解なニュースである。その後の、この「日本人向け都市計画@チェンナイ」のニュースは、検索しても見つからない。
いっそチェンナイの工事現場まで見学に行きたいくらいだ。
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