久しぶりに、のんびりとした週末を迎えている。大きな仕事の山を乗り越えて、あとは4月中旬からのニューヨーク行きを控え、中小の山をいくつか残すのみ。
先週は、かなり濃い1週間であった。仕事の締め切りが迫っているなか、夫が「来月、米国へ行く前に、物件の購入手続きをしたいから、下見に行こう」と言うのだ。
インドにおいて、不動産への投資は資産運用の典型的な在り方だ。数年前から、バンガロールにもう一つ不動産購入をしたいと夫は言っていたのだが、なんとなく、そのままになっていた。
その間にも、バンガロール市街、そして郊外には驚くほどの勢いで、アパートメントビルディング、ゲーテッドコミュニティなどが続々と誕生している。今回、周囲から諸々の情報を得た夫は、目的のエリアの地価が近々値上がりするため、急ぎたいようである。
ところでゲーテッドコミュニティ (Gated Community) とは、「ゲートによって囲われた広大な敷地内」に一軒家が建ち並ぶ住宅街だ。関係者以外は内部に立ち入れない分譲住宅地、といったところか。
個人的には、インドであってインドらしくない、米国的なその居住区に暮らすことに関心がなかった。わざわざ米国からインドに引っ越して来て、なにゆえ、米国的な場所に暮らす必要があろうか、との思いがあったからだ。しかし、2軒目なると話は別である。管理面なども考え合わせるに、ゲーテッドコミュニティは無難な選択だ。
現在、わたしたちが暮らしているのは、バンガロール市内の比較的利便性の高い立地にある低層アパートメントビルディング。約40世帯と小規模な上、我が家は庭のある1階の角地に位置しているため、樹木に囲まれ、市街の喧噪から遠く、一軒家に暮らしているかのような環境ではある。
もう一軒を購入するのであれば、いずれ自分たちが住まうことも考え、現在急速に開拓が進んでいる市街北部の空港界隈がいいのではと、そのあたりの物件をあたることにしたのだった。
インドでは、不動産投資は一般的だと記した。しかしその管理は、非常に困難だ。
まず、土地だけを購入した場合。目を離したすきに、ゴミの山になる可能性は高い。スラムが立ち並んだりすることもある。長い間放置していたら、いつのまにかハイウエイの橋脚が立っていたりする。
土地を購入するにも、ここには書き尽くせない諸々があるので、割愛する。
では一軒家はどうだろう。これを人に貸す、ということについても、多大なるリスクがある。貸したが最後、出て行かない住人が発生することも、普通にあるからだ。
夫曰く、インドには、「強制退去」を執行するべく法が定まっていないらしい。詳細は不明だが、ともあれ、住み着かれたら最後なのである。だから、借りる人の素性を確認するのも重要な仕事のひとつなのだ。
デリーの郊外にファリダバードという町がある。ここには、夫の祖父が残してくれた一軒家がある。しかしこの家も、誰に貸すでもなく、すでに20年ほども、使用人が住み続けるばかりである。
あのあたりの土地も当時に比べれば高騰しているゆえ、敢えてリスクを冒して人に貸すより、ただ守っていた方が賢明だというわけだ。
夫も、もしも家を貸すならインド人ではなく、「絶対にいつかは帰任する駐在員に貸したい」と言っている。
面倒なのはそれだけではない。家屋のメンテナンスの手間は、先進国のそれからは想像を絶するほどに、煩雑だ。わたしも折に触れて、過去のブログで記してきたが、まずは生活インフラストラクチャーの問題。
停電、漏水、その他諸々、たとえ高級物件であっても、問題がない物件などはまずありえないと考えた方がいい。一軒家ともなると、そのメンテナンスが非常に手間であるのに加え、セキュリティの問題もある。
諸々を考え合わせた上で、現在、開発中、あるいは開発予定のゲーテッドコミュニティを当たってみたのだった。
実質1日半の間に、異なるデヴェロッパー(開発会社)による、4つのゲーテッド・コミュニティを巡った。あるところはモデルルームを見、あるところは、建築中の内部を見、諸々、いい経験だった。
バンガロールの人口がこの十年で倍増したことは、ここでも幾度か記した。それだけでも、とてつもない変化であるのに加え、急速な近代化に伴うライフスタイルの変化も同時進行している。
都市開発による樹木伐採などの自然破壊、電力不足に水不足、ゴミ処理問題、道路工事の不備、各種公害、各種インフラストラクチャーの不全、スラムの増加(現在バンガロール市内の人口の30%以上がスラム居住者)……。社会問題を挙げれば枚挙に暇がなさ過ぎる。
そんな中、この市街北部、空港周辺のエリアも将来、深刻な水不足が懸念されている。そのようなリスクをも考え合わせた上で、デヴェロッパーが果たしてどのような対策を講じているかを聞き出す必要もある。
バンガロールの水問題について語るとまた長くなるが、ともあれ、隣のタミル・ナドゥ州とカヴェリ川の水源使用の権利を巡って、十年以上対立しており、楽観的な見通しは立っていない。
さて、今回見て回った物件は、平均して4〜7千万ルピーで売りに出されていた。まるでリゾートホテルのごとき物件に至っては、2億ルピーを超えるものもあった。この郊外で、この値段。予測はしていたが、不動産の上昇率には本当に驚かされる。
現在、我々が住んでいる物件でも、この5年間で倍近く上昇している。ちなみに、それ以前の20年間で、地価は100倍上昇していたのである!
それに伴い、貧富の差は激烈に広がるばかりだ。
そんな高級物件が売れているのか、と思われよう。それが、驚くほどに、瞬く間に、売れているのである。
インド財務省の発表によると、インド全国で年収1千万ルピー(約1,700万円)以上は4万1000世帯だという。夫からその話を聞いて、二人して呆れつつ、憤ったものである。人口12億人のこのインド。そんなに少ないわけがない。
いかに、ブラックマネーが横行しているか、納税していない人が大勢いるかを顕著に物語っている。インド全国で、現在どれほどの高級外車が販売されているか。高級不動産物件が売れまくっているか。その数を全部合わせれば、そんな統計がいかに真実から離れ、実践的でないかがわかるだろう。
インドほど、不正が主流の国はほかになく、不正の数字に拠るか拠らぬかわからねど、経済やらなんやらが、回っていることが、本当に奇跡のように思えてならない。
投資物件として不動産を購入する人の多くは、物件を深く吟味することなく、販売情報が公開されると同時に、広告などが出る以前に購入するのである。そして数年後に転売する。
購入者のバックグラウンドもまた、興味深いところであるが、その点に言及すると話が終わらないのでこのへんにしておく。
わたしはといえば、あちこちの物件を巡り、間取り図を見、建築物のクオリティを細かくチェックし、素材などについてもあれこれと質問し、情報を得続ける間にも、最早、自分がいったい何をしているのかわからなくなってくる。
そんな高級物件が売れているのか、と思われよう。それが、驚くほどに、瞬く間に、売れているのである。
インド財務省の発表によると、インド全国で年収1千万ルピー(約1,700万円)以上は4万1000世帯だという。夫からその話を聞いて、二人して呆れつつ、憤ったものである。人口12億人のこのインド。そんなに少ないわけがない。
いかに、ブラックマネーが横行しているか、納税していない人が大勢いるかを顕著に物語っている。インド全国で、現在どれほどの高級外車が販売されているか。高級不動産物件が売れまくっているか。その数を全部合わせれば、そんな統計がいかに真実から離れ、実践的でないかがわかるだろう。
インドほど、不正が主流の国はほかになく、不正の数字に拠るか拠らぬかわからねど、経済やらなんやらが、回っていることが、本当に奇跡のように思えてならない。
結論からいえば、わたし自身は「投資として」などという発想はできないということだった。家を見るとき、自分が住みたいと思えるか否か、その視点がない限り、探そうという意欲もわかない。
そういう意味で、豪奢な建築物よりも、環境を重んじた物件に心をひかれる。夫ともその点では意見が一致した。そういうクオリティ重視のデヴェロッパーがあることを、今回知ることができただけでも、意義深い経験であった。
参考までに、ここに特徴のあった物件のリンクをはっておきたい。まず最初、こちらはエンバシーと呼ばれる開発会社が手がける最高級のゲーテッドコミュニティ。モデルルームへ入るにも、靴を脱ぐか、靴にカヴェーをかけるかの徹底ぶり。
内装のほとんどが先進国から輸入されたものでまとめられている。高級リゾートに住んでいるかのような雰囲気だ。興味深く見学したが、個人的には、住みたいという気分にはならないプロジェクトであった。という言い方も、ずいぶん偉そうではあるが。
居住面積は4,000〜7,000スクエアフィート。広大な庭を備える物件も見られる。Villasの文字をクリックすると、各物件の内部写真が見られる。
■EMBASSY BOULEVARD (←Click!)
あともう一つ。これは、個人的にかなり気に入ったデヴェロッパー。上部後半の3枚の写真と、下の写真がそれだ。ファミリーフレンドのラナが、自分たちも別のエリアに購入したといって紹介してくれたもので、住宅開発を環境面を重んじながら行っているというコンセプトに感銘を受けた。
なお、上の写真は東部郊外のホワイトフィールドにすでに完成している物件で、参考までに見学した次第。ほとんどが売却済である。
内装などもオーダーメイドで一貫して引き受けてくれるという。
(インドにしては)高品質のレンガを用いた外観。広々とした窓(バンガロールの場合、南向きだと暑すぎるので注意が必要)。ソリッドウッド(天然木)を使用した家具……。
フランク・ロイド・ライトのプレイリースタイルを思わせる。また、緑がふんだんに配された建物などは、昨年訪れたスリランカの、ジェフリー・バワの建築を彷彿とさせる。物件によってクオリティにもばらつきがあるようだが、非常に興味深い出合いであった。
下のサイト、ProjectsのResidentialをクリックすると、手がけられている物件が見られる。
■TOTAL ENVIRONMENT (←Click!)
「半年はお試し期間」と、夫は言いながら、暮らし始めたインドで、8回目の夏を迎えている。今年の夏は、今までで一番暑く、この先、この年の環境がどんどん変わるであろうことが予想される。
ガーデンシティ、エアコンシティの面影は消えゆき、いったいわたしたちは、この先どれほどの間、ここに暮らすのかさえもわからない。ただ、一年を通して行動しやすい気候にあるこの地は、暮らしの拠点にするには非常に便利だ。
そんなこんなに思いを巡らせつつ、しかし、この先、この地で自分はなにをしたいのか、将来の方向性さえ見定めるのが難しくなるほど、インド世界は「家」という一つをとっても、考えさせられる、決して軽くないテーマだ。
夫はともあれ、わたし自身の行く先は、やはり社会貢献であると、このバブリーな世界を目の当たりにしつつ、思うのだった。
今はただ、自分の見識を広げるという点において、さまざまな世界に関心を持つことは悪くないだろう。と、自分に言い聞かせつつ。
足るを知る。身の丈を知る。
我が座右の銘が、脳裡で虚しく鳴り響いている。
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