わたしは、国際線の空港が持つ、独特の空気が好きだ。わたしが初めて日本を離れ、太平洋を越えて米国の西海岸に飛んだのは20歳の夏だった。大学で日本文学を専攻していた当時のわたしは、将来、故郷の福岡で「高校の国語教師」になるつもりだった。一方、子どものころから、海外への憧憬が強かった。絵本や子ども百科、西洋絵画全集を眺めては、まだ見ぬ世界に思いを馳せた。
1985年8月。わたしのライフは、「コペルニクス的転回」を遂げる。ロサンゼルス国際空港に降り立った瞬間の、途轍もない開放感! 肌色もさまざまに、行き交う人の風貌の、体格の、豊かさ! 空港の外に出れば、爽やかな空気、突き抜ける青空。スーツケースを運ぶポーターのお兄さんの大きな躯体と大きな靴……!
カリフォリニアで1カ月のホームステイを体験したその夏、わたしは生まれ変わった。囚われや固定観念が洗い流され、針路が海外を指した。紆余曲折を経て、卒業後は海外旅行誌を制作する東京の編集プロダクションに就職。そこから、わたしの旅する人生が始まったのだった。
スーツケースを携えて空港を歩くときには、背筋がピンと伸びる。旅への期待と緊張感が入り混じった独特の感傷が心地よい。脳裏に流れる旋律は、『白い港』(by 大滝詠一)。
♪スーツケースくらい、自分で持つと……君はいつも強い女だったね……♪
わたしはいつまでも、旅を続けたい。自分のスーツケースを、自分で持ち続けたい。
東京でフリーランスのライター兼編集者をしていたわたしは、日本を離れる少し前、江戸川区西葛西に引っ越した。理由は「成田国際空港に近いから」だった。
2013年。バンガロールでの「終の住処」を見つけるべく、物件探しを始めたときも、エリアは空港界隈に絞った。無論、当時は、2008年に移転したケンペゴウダ国際空港(ベンガルール国際空港)があったものの概ね僻地だった。しかし、やがて利便性の高い場所になると確信していた。
当時は、周囲にぶどう畑が点在する、広大な更地だったこの場所。Total Environment という開発会社が、「After the Rain」というゲーテッド・コミュニティを建設する予定だった。更地に立ち、周囲を見渡し、風を感じ、設計図やコンセプトを精査した。レンガや木、石など天然の建材を使い、自然と調和した、環境を尊重する建築様式を、心から気に入った。
ケンペゴウダ国際空港を運営するBIALのCEOであるHari、そして彼の妻である、昨日の投稿で紹介したYashoの家族は、偶然にも「After the Rain」に住んでいる。我が家が引っ越しのプジャー(儀礼)をした際にも立ち会ってくれた。
先行き不透明で、鬱々としていたCOVID-19ロックダウンのころ。ソーシャル・メディアなどを通して、Hariからの空港再開のメッセージや、空港が万全な感染対策を講じて乗客を安全に導いているとの記事を目にしたときには、言葉にはし難い安心感と希望を感じた。
そんなパンデミック下において、バンガロールの新空港「ターミナル2」の工事は進められてきた。昨年、竣工前にYPO(グローバル組織)のメンバーたちと内部を見学したときのことや、開港式典の様子は、わたしのソーシャルメディアで克明にレポートしている。今なお、工事は進行中だが、先月には国際線ターミナルもオープンするなど、着実に進化している。
先日、航空ジャーナリストの日本人の知人から、旅行でバンガロールにいらっしゃるとの連絡を受けた。ぜひ「ターミナル2」を取材してほしい(もちろん自分も同行で!)と思い、Hariに連絡をしたところ、諸々の手筈を整えてくれたのだった。思いがけないバンド(ジェネラル・ストライキ)により日程変更したものの、無事に先週木曜日、取材することができた。
PR担当者の丁寧な案内を受けつつ、国内線、国際線、双方のターミナルを見学。すでに空港のコンセプトは学んでいたが、新たに知ることも多く興味深い。最後にHariのオフィスでインタヴューをさせてもらい、充実の数時間を過ごしたのだった。オフィスのエントランスには、実物を見たいと思っていた友人Tanyaの作品が飾られている。彼女の世界観が好きすぎる💝
子どもの頃からシュールレアリズムなアートが好きなわたしは、彼女の描く世界も大好きなのだ。彼女たちの家族もまた「After the Rain」に新居を建設中。しかも、我が家の真向かい! これはもう偶然の域を超えている。
取材を終えて、オフィスビルの屋上へ。空を仰げば、After the Rain. 雨後の虹! なんという清々しさ!
空の玄関口である国際空港とは、その都市の現在、そして未来を映す極めて大切な場所だ。「わたしが知る限りにおいて」、世界で最も魅力的なこの新空港「ターミナル2」が、わたしにとっての「おかえり」「ただいま」の地であることが、とてもうれしい。
HariとYashoに出会え、空港の背景を学び、こうして「日本語で」伝えられることを光栄に思う。今回の取材に際してサポートしてくださったスタッフ各位にも感謝したい。空港の様子は、別途改めて、レポートを残す。
◉『深海ライブラリ』ブログ/ターミナル2に関する記録
https://museindia.typepad.jp/library/terminal_2/
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