「数日、晴天が続き、朝晩の温度差が15℃以上で、適度な湿度があり、晴天で風のない朝」、「特に9月末から11月上旬にかけて」がよいらしい。
なにやら条件が多く、なかなか豪快な雲海を見るのは難しそうだが、それでも日の出の様子を見に行くのは悪くない。というわけで、5時半起床、6時にタクシーを予約して、国見ヶ丘へ向かったのだった。
夫はといえば、「眠い」「拷問だ」と言いながら、なかなか起きられず、出かけるのを渋っていたが、結果的には、行ってよかった。
雲の量からして「雲海」と呼ぶには控えめだったが、それでも、あたりを見晴るかす気分はよく、心身が浄化されるような経験であった。
日の出前には光の放射があたりに散らばりはじめ、やがて小さな太陽のかけらが顔をのぞかせたかと思ったら、あっという間に世界は明るさに包まれた。冷えきっていた空気が、一瞬にして温まる。
西側の山肌が、朝日を浴びて明るく染まる。彼方に、阿蘇山が見える。
大勢の見物客たちは、太陽が現れた途端に引き上げて行ったが、実はそのあとの光景の方が、わたしたちにとっては魅力的だった。
黄金色に染まった、神々しき世界。毎日繰り広げられている日の出が、まるで格別のことのように、思える。
すばらしい景色を堪能したあと、宿に戻って朝食。
平日にも関わらず、この時期、旅行者が多いのか、他の手頃な宿の予約がとれず、ペンション風の宿を予約しておいたのだった。
それなりに快適であったが、なにしろ高級ホテル並みに宿泊料が高く、しかもチェックインは午後4時と遅く、チェックアウトは午前10時と早い。朝、ゆっくりとくつろいで出かけたかったがそれができず。
昨日、立ち寄ったカフェで宿泊先を聞かれ、値段を問われたので答えたら、オーナーのご夫妻が驚嘆の声をあげ、「それはおかしい!」と連呼され、むしろそれで、がっくりとした気持ちになってしまった。「他にも手頃でいい宿があるのに」などと言われると、その方が残念だ。夫が何事かと問うので、適当にごまかし、訳せずにおいた。
日本の旅館や個人経営の宿というのは、ネットで見るだけでは状況をつかみにくく、時に不相応に高いのが残念だ。
とはいえ、朝食はおいしかったので、写真だけでも載せておこう。
チェックアウトのあとは、一旦バスセンターに向かい、観光協会に荷物を預け、「高千穂温泉」へ。どうということはない、地味な地元の温泉会館という感じだったが、ともかく、じっくりと疲れを取りたく訪れた。
その後、地元のうどんやで、懐かしのごぼ天うどんを食す。夫は天ぷらうどん。いなり寿司も手作りの味わいがよく、何となく立ち寄った割に、素朴で美味なランチを楽しめた。
うどんといなり寿司の組み合わせは、幼少時を思い出す。子供のころはごぼ天(ごぼうの天ぷら)うどんはあまりすきではなかったが、懐かしさのあまり、発作的に注文してしまった。
ランチのあとは、熊本行きのバスの時間までだいぶあったので、再び高千穂神社へ。本当は天岩戸神社など、他の見所もあったのだが、あまり歩き回るのも疲れるので、のんびりとすることに。
昨日、樹齢300年と書いたあの杉は、800年の間違いだった。大間違いだった。
昨日、見落としていたところなどを、じっくりと眺めながら歩く。夫婦杉の周りを、またしても二人で手をつないで3周まわったりする。
神社の裏手から、昨日とは逆の方向で遊歩道へ入り、今度は下り坂で峡谷までおりてみる。結局、歩く。
流れ渦巻く水が、岩肌を穿ち、長い長い歳月を重ねて、丸い形へと育てている。
そして再び3時間のバス旅を経て、熊本市へ。ここで1泊するのだ。最初に2泊した日航ホテルは満室だったので、夫が見つけたビジネス系のホテルへ。偶然にもバスが到着したバスセンターの目の前で利便性は抜群。部屋は狭いがサーヴィスがいい。
コインランドリーあり、最上階に露天風呂付き温泉あり。その他、何かと行き届いていて便利だ。フロントで尋ねて勧められた居酒屋が、またよかった。
コインランドリーで洗濯をしている間に(鍵などもついていて安心)、夜の繁華街へ。熊本の名酒や郷土料理が楽しめるその店。我々の要求をうまく満たしてくれているメニューであった。
さほどお酒に強いわけではない我々。飲み干せないままに、酔っぱらってしまった。が、ともあれおいしいお酒である。
夫は、最後まで抵抗を示しながらも(誰も勧めていないのに)、好奇心が勝ったらしく、馬肉を食べることに。郷土料理のセットのようなもののほか、カンパチの刺身やサラダを注文。夫が興味津々だった「からし蓮根」も食べられて、口に合ったかどうかはさておき、満足そうであった。
わたしにとって最高の一皿はこれ。秋刀魚の塩焼き。脂が載っていて、本当においしかった。ご飯が進んだ。参考までに、この居酒屋は「感」という名前。
外食が続く日々。メリハリを付けつつ抑制しているはずだが、身体が重くなっているのを感じる。もっと歩いて、アクティヴに旅をせねば。
★ ★ ★
日本での外食は、どうしても添加物を避けられないのが、少々辛い。普段はほとんど、口にしていないので、敏感に反応してしまう。醤油などは、生醤油に慣れているので、うっかり添加物の入った醤油を口にすると、たちまち唇がビリビリとして、腫れてしまったような感じになる。
いくら素材が新鮮でも、調理の過程で醤油やドレッシング、だしなどに、化学調味料(アミノ酸)が普通に使われているのは、個人的には残念なことだ。
まあ、短期間のことだから仕方がないが、昨今の日本料理は、素材のよさを調味料がダメにしてしまっているケースが多いな、ということも、改めて思う。
……おいしいものを食べたあとに、興ざめなことを書いてしまったが、事実の記録ゆえ。
さて、明日は午後から次の目的地、天草へ。初めての場所。楽しみだ。