本日、OWCのコーヒーモーニングのあと、ランチを挟んで午後、ホスピスを訪問した。先日行ったチャリティ・ティーパーティの寄付金を託すことが目的だ。
バンガロール在住の日本人女性(計8名)とともに、ホワイトフィールドにほど近いホスピスへと赴く。
喧噪のエアポートロードに面しているにも関わらず、色鮮やかなブーゲンビリアの花の下をくぐり抜けてゆけば、そこは静寂の空間がだった。
今回、ホスピスを訪れようと思ったのは、昨年訪れたOWCが支援する慈善団体のエキシビションにて、ホスピスの職員と出会い、ぜひ訪問をと勧められたからだ。
加えて、2004年に肺がんで他界した亡父の、最後の場所がホスピスであったこともあり、あれこれと思うところあって、訪ねたいと思っていた。
まずは応接室に通され、マネージャーのヘマに同施設の概要をお聞きする。
創設者は、医療とは関係のないビジネスフィールドに身を置いていた、キショール・ラオ氏。
かつて彼は個人的に、医療関連の施設への寄付をはじめとするヴォランティア活動をしていた。
その際、すでに医学では手の施しようがない末期のがん患者が、家族のもとに帰され、しかし家族らは苦しみの姿を見ること以外、なにもできない……という悲惨な状況に、心を痛めていた。
バンガロールにも有料のホスピスはあるが、貧しい人たちにとっては利用できる場所ではない。ラオ氏は「無料のホスピス」の設立を思い立ち、今から15年前、その作業に取り組み始めた。
土地の購入や建物の建築、諸々の認可など、ひとつひとつの行程に時間がかかるインドである。準備期間は、ホームケア・サーヴィスと称して、がん患者の住む場所へ車で医師を巡回させる活動をしていた。
4年後、この建物が出来上がり、患者を受け入れられるようになった。全部で50床。患者の80%は貧困層だという。残りは中流層、富裕層の患者だが、入院費用は一切受け取らないとのこと。
但し、寄付は受け付けており、現在すべての運営にかかる費用は、寄付金からまかなわれているという。
ドクター2名、看護師8名、カウンセラー2名を含め、60名のスタッフがシフト制で動いてる。ちなみに今日、32名の患者がいるとのことだったが、昨日4名が他界したという。
当然ながら、日々、患者の数は変動し、45人を超えることもあるし、今日のように少ないこともある。
部屋は、共同の部屋(写真左上)と個室(写真右上)に分かれているが、共同の部屋でもなお、きっちりとカーテンで仕切られており、プライヴァシーが保たれている。
簡素な設備ながら、どの部屋からも緑、あるいは水辺が見え、明るく平穏だ。部屋から出入りする際に、他の患者を見なくていいようなレイアウトになっており、設計そのものに配慮がある。
建物は、広々とした池を取り囲んでおり、誰もがすぐに、この水辺に佇むことができる。
水面に空が、雲が、太陽が映り込み、うなだれてなお、そこには天がある。
このホスピスでは、一般のホスピスと同様、治療は行わない。ただ、肉体的な痛みを取り除くため鎮痛剤を施す。
家族は24時間、いつでも訪れることができる。一家総出で働かねば生計が立てられない低所得者層の人々にとって、このような場はかけがえのない存在であろう。
ベッド、食事、痛み止め、心の平穏を、ここでは与えられる。時折、ヴォランティアで演劇やダンス、音楽などを披露する人も訪れるという。
ちなみにここでは、ホスピス運営だけでなく、ホームケア・サーヴィスも続けられている。
スラムなどに身を置く末期の患者を、ドクターやナースが訪ねる。
中には言葉に表現しがたい、著しい傷や痛みを伴い苦しむ人々のもとへ、彼らはこのオートリクショーに乗って、回診する。
このほか、ナースのトレーニングも行っているという。
貧しい家庭の若い女性たちをここで教育し、働かせる。もちろん、働いているスタッフに報酬は支払われる。とはいえ、しかし平均勤務年数は、結婚前の4、5年だとか。
「あまり長いこと、ここで働かせるのは酷なのです」
と、ヘマはいう。創設者のキショールもまた、その思いがあるとのこと。人の死が日常の場所で、それは確かに、その通りかもしれない。
祈りの部屋。と記された部屋。ガランとしている。壁の一隅に、釘が刺されている。
「ここは祈りの部屋、とありますが、実は霊安室なのです」
と、ヘマ。亡くなった患者をこの部屋に導き、それぞれの宗教に応じた神様の額縁を、釘にひっかけて、祈りを捧げるのだという。
部屋の反対側に大きなドアがあった。
「あそこから、遺体を救急車に移すのです。遺体が建物の中を通過しなくていいように、この部屋は外の通りに面しています」
とのこと。質素ながらも、その濃やかな心遣いに満ちあふれた在り方に、心を打たれる。
館内には、なんら宗教を示唆するものは見られないが、ヒンドゥー教、キリスト教、仏教……と、インドで信仰されているさまざまな宗教の、額が用意されているのだとのこと。
繰り返すが、この施設は100%、民間、企業からの寄付で成り立っている。主な協力先のリストには、他の慈善団体同様、「欧米企業」の名が目立つ。
ヘマが言う。
「先日は、娘の誕生日だったけれど、わたしたちは外食をするかわりに、3500ルピーを寄付したんですよ」
もちろんお嬢さんの同意を得てのことだろう。インドの富裕層。もちろん、一括りに人々を語ることなど不可能であるが、こうして貧しい人、苦しい人に手を差し伸べる人が多いということを再確認する。
今日もまた、お金の使い方について、考えさせられずにはいられない。3500ルピー(約7000円)の寄付は、ちょうどスタッフと患者全員の1日の食費、もしくは1日の薬代になるのだという。
命を終えるときの、恐怖を取り除き、心に平安を与えられることが、本人だけでなく、家族にとってどれほど大切なことか。
これまで、いくつもの慈善団体を訪れて来たが、どれひとつをとっても、大切で意義深い存在だ。世の中には、救われるべき人が満ちあふれている。
異邦人でありながら、縁あってこの国に暮らし、縁あってこの国で仕事をし、利益を得させてもらっている。金額の大小に関わらず、活動の内容に関わらず、自分にできることを、たとえそれがささやかなことでも、社会に還元したいし、すべきであるという思いが、益々強くなる。
■KARUNASHRAYA: THE BANGALORE HOSPICE TRUST
↑ホームページはわかりやすく整理されているので、ぜひご覧いただければと思う。寄付や慈善活動に関する情報も掲載されている。ちなみに1年前は、ボリウッド俳優のアーミル・カーンが訪問したとのこと。