バンガロールに暮らす外国人女性のためのグループ、OWC (Overseas Women's Club)の会報誌であるThe Rangoliに、ミューズ・クリエイションについて記事を書いて欲しいと依頼されたことから、2018年3月号に寄稿した。オリジナルは英文。下部に日本文も記載しているので、目をぜひ読んでいただければと思う。また最下部には、関連する過去のブログへのリンクや、新聞記事も転載している。
●Gaining a new perspective through creativity and volunteering
After living in the U.S. for ten years, I moved to Bangalore with my husband in November 2005. Until I started to live in India, I had spent my life building my own business career in Tokyo and New York, and was not very active in volunteer activities. However, as soon as I settled in Bangalore, I couldn’t ignore the poverty that can be seen all around the city. I felt that I should do something to make a difference, but I could not immediately think of what specifically to do.
In November 2007, I attended OWC’s Monthly Speaker Meeting. The speaker was Pastor Dr. Reuben, who runs a home, “Agape Children Centre” in Bangalore. His story about the lives of street children, stone-breakers (quarry workers), and eunuchs (hijra) was truly shocking for me. I felt that I should contribute for people who are living in extreme and deprived environments. One of the suggestions that Dr. Reuben gave us, was to not give cash to beggars. He said that it would be better to give food or clothes, instead of money. Since then, I have made it a practice to buy a lot of small packets of biscuits for beggars, and always keep some in our car.
In the next month, I visited “Agape Children Centre” alone, and met their children. My purpose was to write a visit record for a Japanese newspaper, but in reality, I was very nervous and it needed courage to go there. It was an eye opening experience to communicate with Pastor Reuben’s family and the girls, who were once street children, living under one roof as a big family.
Around that time, when I was driving around the city, a bus stopped in front of our car, while we waiting for a signal. My eyes caught a sentence written on the back of the bus.
“Feeding a hungry child is not charity. It’s our social responsibility.”
It was one of the buses of Akshaya Patra, which runs the world’s largest school lunch program with the aim of ending child hunger in India. That sentence triggered me to action.
Immediately after, I started to hold a “Charity Tea Party” at home, every few months. I invited Japanese expats’ wives to my home and held seminars, and shared useful information about living in India. I collected a seminar fee and donated items from participants, and visited local charities to donate them. This activity continued about five years, and was the foundation for the creation of Muse Creation.
I founded Muse Creation, a volunteer NGO, in June 2012. Muse Creation brings together the collective creative talent of our Japanese community in Bangalore. We have set up three teams: Team Handicrafts, Muse Choir & Dancers, and Team Expats (which focuses on familiarizing Japanese expats with the work and living culture of India). Through these creative activities, we wish to bring awareness, and to communicate with local underprivileged people.
Every Friday, I hold a workshop, called “Studio Muse” at home. Members get together for a creativity and social skills workshop. At the same time, it is a place to exchange information to help lead a better life in India, a place to build a social network, and a place to help each other in an unfamiliar living environment.
Muse Creation organizes annual charity bazaars, and participates in other community bazaars, including OWC’s Christmas bazaar. All the proceeds from the sales of our products are donated to various charitable organizations in Bangalore. Visiting them to communicate with local people, is a valuable experience for our members. We also organize various activities like handicraft workshops, local shopping tours, experiential lunches (for instance, lunches where members wear saris), business seminars, etc.
Members of Muse Creation always number 40 or more at any given point, and members enrolled in the past six years exceed 180 people cumulatively. There are quite a few members who challenge new activities that they have never experienced in Japan, such as learning handicrafts, dancing, and chorus music. These experiences enrich their lives in India.
Last year, when I went back to Japan, we held the fifth anniversary of Muse Creation in Tokyo and Nagoya with our alumni members. I met with over 50 past members at that time. Everyone told me that the activities of Muse Creation were an important part of their lives in Bangalore. The comments were a source of happiness and motivation for me.
It is not easy to bring together many people over a long period, to act in unison. However, what can be collectively experienced and achieved in Muse Creation, can never be realized alone. I sincerely hope that Muse Creation will continue to be an effective and impactful group through the active efforts of our members.
By Miho Sakata Malhan
Freelance writer for media in Japan. Founder of Muse Creation.
www.museindia.info
十年に亘る米国での生活を経て、2005年11月、わたしはインド人の夫とともに、バンガロールへ移り住んだ。インドで生活を始めるまでのわたしは、東京で、ニューヨークで、自分のビジネスキャリアの構築に専心する歳月を送っており、ヴォランティア活動には、さほど関心を持っていなかった。
しかし、バンガロールで生活を始めた直後から、街の至るところで目にする「貧困の現実」を看過することが困難になりはじめた。何かを、やらなければ。そうは思っても、具体的になにをすればいいのか、すぐには思いつかなかった。
2007年11月。わたしはOWCのマンスリースピーカー・ミーティングに出席した。講師は、バンガロールで孤児院「アガペ・チルドレンセンター」を運営するルーベン牧師。彼が語るストリートチルドレンや採石場の労働者、ヒジュラー(第三の性)の生活に関する具体的な話は、いずれも非常に衝撃的な内容だった。彼の話を聞きながら、著しく劣悪な環境のもとで暮らしている人々に対し、わたし自身、たとえささやかでも、何らかの貢献をすべきであると痛感した。
彼は、わたしたちがすぐにでもできることとして、いくつかの提案をしてくれた。その一つは、物乞いの人々には、現金ではなく、食べ物を渡しなさい、ということだった。以来わたしは、小さなパッケージ入りのビスケットをまとめて購入し、車に常備している。信号待ちのときなどに、物乞いが近寄ってきて車窓を叩いたら、小さく開いて渡すようにしている。
ルーベン牧師の話を聞いた翌月、わたしは、子供たちに会うために、単身、アガペ・チルドレンセンターを訪れた。当時わたしは、西日本新聞に月に一度、『激変するインド』というコラムを連載していたことから、その取材と称して、訪問することにしたのだった。正直なところ、自分の中で、そのような「名目」を作らないことには、足を運ぶ勇気が出なかった。
かつてストリートチルドレンだった少女たちと、ルーベン牧師の一家が、一つの大家族として同じ屋根の下に暮らす様子は、わたしにとって衝撃的な光景だった。
ちょうどそのころのことだ。ある日、車で市街を走っていた時のこと。信号待ちのとき、目の前に停車していた一台のバスの後部に書かれた文字が目に止まった。
“Feeding a hungry child is not charity. It’s our social responsibility.”
「空腹の子供達に食事を与えることは慈善ではありません。わたしたちの社会的責任です」
それは、貧困層の子供たちに無償でランチを供給している世界最大の給食センター、アクシャヤ・パトラの給食バスだった。飢えた子供たちをなくすことを目標に設立されたNGOである。
この一文に、わたしは心を射抜かれた。
その直後から、わたしは自宅で数カ月に一度「チャリティ・ティーパーティ」を開き始めた。日本人駐在員夫人を自宅に招き、インドの生活に関するセミナーなどを実施。そのときに集めた参加費や不用品を、その後、地元の慈善団体を訪問して寄付するという活動を開始した。5年ほど続いたこの活動が、ミューズ・クリエイションの基盤となっている。
2012年6月、わたしはミューズ・クリエイションを立ち上げ、2015年にはNGOに申請した。ミューズ・クリエイションは、バンガロールに暮らす日本人の創造力を生かした活動を通して、地域社会へ貢献することを目的としている。
現在は、手工芸作品を製作するチーム・ハンディクラフト、コーラスやダンスを披露するミューズ・クワイア&ダンサーズ、そして働く男女からなるチーム・エキスパッツという、大まかに3つのチームに分かれて活動している。
毎週金曜日、拙宅をオープンハウスとし、「スデュデイオ・ミューズ」と称した活動の場を提供している。メンバーは、手工芸を製作したり、歌やダンスの練習をするのはもちろん、「交流の場」としての役割も果たしている。慣れないインド生活で役立つ情報交換の場。一時帰国から戻ったとき、自宅以外に「ただいま」「おかえり」と言い合える安息の場。メンバーそれぞれにとって、心地のよい場所であればと願っている。
ミューズ・クリエイションは、年に一度、大規模なチャリティ・バザールを実施しているほか、OWCのクリスマスバザールを含む、いくつかの地元のバザールに出店・出演している。すべての収益は、バンガロールにあるさまざまな慈善団体に寄付している。慈善団体を訪問し、地元の人々と交流を図ることは、ミューズ・クリエイションのメンバーにとってもかけがえのない経験となっているに違いない。
また、ミューズ・クリエイションでは、ハンディクラフトのワークショップやローカルのショッピングツアー、サリーを着用してのランチ会、ビジネスセミナーなど、さまざまなイヴェントも企画、実施している。
ミューズ・クリエイションの創設以来、まもなく6年になる。この期間、180名を超えるメンバーが在籍し、常時40名以上のメンバーが活動をしてきた。メンバーの中には、日本では経験したことのない手工芸やコーラス、あるいはダンスに挑戦する人もいる。新しい試みはまた、インドでの生活を豊かにする一助になっているとも思う。
昨年、日本へ一時帰国した際、東京と名古屋で、ミューズ・クリエイションの5周年同窓会を実施した。旧メンバーが幹事を引き受けてくれ、両都市で、懐かしい人たちとの再会が実現したのだった。同じ時期、バンガロールにいた人たちはもちろんのこと、異なる時期に暮らし、互いに面識がないにもかかわらず、同じ土地の同じグループに属していたというだけで、みな瞬時に打ち解けあい、親しげに会話が弾んでいる様子を見るのは、本当にうれしいことだった。
また、みなが異口同音に、バンガロールでの生活において、ミューズ・クリエイションの存在は大切だったと言ってくれたことは、本当に光栄なことだった。これからも続けていこうという思いに、力を添えてくれた。
長期間に亘り、多くの人たちと活動を共にするのは簡単なことではない。しかしこれまで、ミューズ・クリエイションを通して得てきた経験や成果は、決して一人では実現することができないことばかりだ。
これから先も、ミューズ・クリエイションが、そのときどきに在籍するメンバーのひとりひとりにとって、有意義な活動の場であり続けることを願っている。
【ブログに記録している関連記事】
●ルーベン牧師の話を聞いたOWCマンスリー・スピーカー(2007年11月)
●アガペ・チルドレンセンターへ初訪問(2007年12月)
●世界最大の給食センター「アクシャヤ・パトラ」見学(2012年9月)
【西日本新聞に寄稿した関連記事】