昨日は、バンガロール市街北部、国際空港にほど近い場所にある日系企業、アマダインディアへ赴いた。
ミューズ・クリエイションは久しく、在バンガロールの日系企業のCSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)に関して、支援先の情報提供などをする旨、ホームページで告知してきた。
インドは、企業による社会貢献や慈善活動の歴史が古い。膨大な人口を抱え、政治による社会環境の改善が及ばないこの国にあって、民間企業の社会支援は不可欠である。英国統治下にあった時代から、タタやビルラを始めとする財閥は、教育、医療、職業支援、低層カーストの人々の救済など、さまざまな支援を行っている。
今日、CSRとは、一言で語るには困難なほど、さまざまな広がりがある。従業員たちの福利厚生の充実を端緒に、地域社会の活性化、環境問題、エネルギー問題、インフラ整備など、本来であれば政府が主導すべき社会問題にまでも波及する。また、インドの産業の発展そのものに貢献する「労働制度の整備」などもそれに含まれる。また昨今では、ビジネスそのものがフィランソロピーに直結する業態も見られる。
最近のインドではまた、フィランソロピーに直結する小規模ビジネスも、あちこちで萌芽している。環境を破壊しない天然素材の洗剤ブランド、木を使わずに製紙する工房、水の使用量を最低限に抑えるデニム会社、僻村の女性たちを指導しつつの手工芸ブランド……。一方で、HUL(Hindustan Unilever)や、ITC (旧Imperial Tobacco Company。旧国営のタバコ会社が1974年民営化)に見られるような、大企業が自社製品を通して間接的に社会支援を行う例もある。
前置きが長くなったが、わたしが超微力ながらも、なにかサポートができればと思った理由のひとつは、過去10年余り慈善団体を訪問する中、欧米の外資系企業が、積極的にCSRを実施しているのを目の当たりにしたことだ。金銭的支援だけでなく、社員が慈善団体を訪問し、地域社会との交流を図っている。
もちろん、日系企業も独自で実践されているところは少なからずあるようだが、それがあまり見えてこないとの印象を受ける。貧困や社会問題が目に見えて溢れているこの国。社会にとってよいことを実践されているのだから、その情報は可能な限りオープンにし、他の日系企業の参考にしてもらうなど、「いい影響を与え合う」のがいいのではないかと、個人的には考える。
実際、CSRへの取り組みが不可避な事態となった企業もある。2014年度に施行されたインドの新会社法では、企業のCSR活動に対する支出義務が規定さたのだ。(1)純資産50億ルピー以上 (2)売上高100億ルピー以上 (3)純利益5000万ルピー以上。この3つのうち、ひとつでも該当する企業は、直近3年間の純利益の平均の2%以上をCSR活動に支出するべく、義務付けられたのだ。もちろん、日系企業も例外ではない。
これまで、ミューズ・クリエイションとして、簡単なご相談をいくつか受けてきたが、今回は、アマダインディアの沖氏から、本格的な取り組みのご相談を受けたことから、赴いたのだった。沖氏は、昨年、今年と2年連続で、バンガロール日本人会が主催する坂田のセミナーに出席され、セミナーの内容をがっちりと受け止めてくださった方である。もう一人の日本人駐在員、伊藤氏ともども、セミナー参加だけでなく、ミューズ・クリエイションが主催する慈善団体訪問にも参加された。
オフィスでは、会社の概要を伺ったあと、インド人エグゼクティヴの方々にミューズ・クリエイションの紹介や、当方でお手伝いできることなどをご説明。今後、具体的にサポートさせていただくこととなった。なお、これはあくまでもミューズ・クリエイションを通してのヴォランティアであり、坂田のビジネスではないことを、念のため記しておく。
さて、アマダインディアは、板金にはじまり、切削や研削、溶接などに用いられる加工機械を製造販売するアマダホールディングスのインド法人で、2014年に、この新社屋が設立された。社屋の一部は、まるで工場のような広々とした空間になっており、いくつもの最新の加工機械が並んでいる。「テクニカルセンター」と呼ばれるここへ顧客を招き、実際に機械の説明を行うという。
ミーティングもさることながら、個人的にはここの見学も楽しかった。中でも、レーザーが高速で鉄板を切っていく様子には目を見張った。鉄、アルミなどを使うものであれば、なんでも加工できるわけで、つまり顧客のポテンシャルは非常に大きい……と、綴りたいことは尽きぬ。機械が切った「精緻な作品」の中に、ゾロアスター教のシンボルである守護霊プラヴァシを発見! 手のひらサイズの味わい深い作品だ。思わず、欲しくなる出来栄えだった。
随所に日本的な意匠が見られた社屋を歩きつつ、当地に暮らす日本の子供たちが、在バンガロールの日系企業へ社会科見学をするといったプログラムがあればいいのにと思う。自分のお父さん(あるいは夫)が働く場所を見るというのは、意義深いと思う。
〈余談〉アマダインディアのビルディングに入り感銘を受けたのは、インドの石を巧みに使った建築の風合いだった。インドには大理石(マーブル)、御影石(グラナイト)など石材が豊か。御影石には、黒や赤、緑などのさまざまな種類があり廉価で入手できる。入り口にある御影石のオブジェもすてきだった。荒削りの石を研磨すると、まさにパールの如く、艶やかに輝くのだ。
現在、我々夫婦が住んでいる物件は、当初はスケルトン状態で購入した。内装はわたしが自分で設計し、建材、素材などすべて選んで、大工や庭師を雇って仕上げた。その際、キッチンのアイランドのテーブルトップや庭などには、御影石を選んだのだった。猫らは日々「岩盤浴」状態。わたしもたまに寝転ぶ。太陽の温もりを受け止めた石は、本当に気持ちがいいものだ。