◉フィランソロピーとは/何かにつけて記してきたこの言葉。その本質を伝えるのは簡単ではない。企業による社会貢献……という表現では大雑把だ。そこには、博愛、慈善、利他主義などが伴う。瞬間的に金銭を寄付するだけではない、地域社会の永続的な向上や、未来に連なる支援。感情論にとどまらぬ、運営やマネジメントが望まれ、現場で働くスタッフには然るべき報酬が与えられる。時代と共にフィランソロピーの定義は変容しているようだが、インドでは古くから、この精神が根付いている。日本の人々にはなじみがない概念であるせいか、なかなか理解してもらえないのが現状。
◉フィランソロピストとは/金銭的な寄付に限らず、時間、知恵、キャリア、ネットワーク、名声などを用いて社会貢献する人。篤志家。
💝損得勘定なしに、困窮する人々を救済する。社会、コミュニティ、母国の未来のために奉仕する。言うは易し、実行するに難し。しかしながら、わたしの周囲には、その困難に敢えて取り組む人々がたくさんいる。尊敬すべき友、OBLFの創始者であるアナミカも、その一人だ。
金曜の夜、ミューズ・クリエイション、そしてわたしの夫が深く関わってきた慈善団体のひとつ、OBLF (One Billion Literates Foundation) が年に一度開催している定例の活動報告会に出席した。バンガロール南部農村エリアを拠点とするOBLFは、貧困層の子どもたちが通う公立学校(Government School)へ、英語やコンピュータの教育を支援する慈善団体として誕生した。
なぜ公立学校に支援が必要なのか。十年以上前の記録では言及しているが、今回改めて、その背景についても言及しておきたい。
州によって事情は異なるが、インドの公立学校(Government School)は、設備や教育施設が整っていないところが多数ある。小さな校舎はあれど、トイレ(特に女子トイレ)がない、教師が来ない、来ても教育方法を会得していないといった、基礎的な部分が不全であるケースも多々あった。2010年4月より、ようやくRTE (The Right of Children to Free and Compulsory Education ACT)法、すなわち「無償義務教育法に関する子どもの権利法」が導入されて、徐々に教育の現場は改善されてきた。それでもまだ、教育の質が低いところも多く、「学校数は公立学校が圧倒的に多いが、通学する生徒総数は私立学校の方が圧倒的に多い」という状態が続いている。
アナミカは、その機能不全な公立学校の校舎を活用しつつ、貧困層子女に教育支援をすることを思いついたのだった。
アナミカとわたしが出会ったのは、2012年2月。わたしがミューズ・クリエイションを創設する数カ月前のことだった。アッサム州出身の彼女は米国ボストンの大学を卒業後、現地でソフトウエア・エンジニアリングの仕事をしていたが、2010年、夫と二人の息子とともにバンガロールへ移住していた。
本業の傍ら、彼女は以前から考えていた貧困層の子どもらに英語やコンピュータ教育の支援を実現すべく、同団体を立ち上げた。当初は自ら車を運転して僻村の学校へ通い、教鞭をとっていた。自身も二人の子供をもつ母親ながら、その行動力と情熱には敬服するばかりだった。その時の様子は、ブログに記録を残すと同時に、わたしが当時、西日本新聞に毎月連載していた『激変するインド』でも紹介した。
「近い将来、教師の教育施設や、職業訓練のクラスを設けたい」という彼女の願いは、数年後に実現。OBLFは、村の女性たちが経済的にも精神的にも独立できるよう導くべく、プログラムを拡充してきた。数年後、彼女は再び家族で米国に戻ったが、それ以降、10年の長期に亘ってRuby(現在は退任)という女性が運営を担い、支援者の輪を広げながら、団体は着実に成長を続けている。
ミューズ・クリエイションの貢献はといえば、超微力ではあるが、ミューズ・チャリティバザールで、毎年、同団体に無償でブースを提供するほか、OBLFが支援する村の公立学校を訪問し、子どもたちと遊ぶなど交流を図ってきた。一方、我が夫Arvind Malhanは、2013年に同団体の役員となり、大企業からの寄付金を調達、ファンドレイジングにも貢献している。
なお、OBLFは2020年3月、インドがCOVID-19のロックダウンに入った直後、村民たちのライフをサポートすべく、食料品の調達、感染者向け入院施設、ワクチン接種センターなどを次々に準備し、多くの人たちを救ってきた。その後、今回の報告会では、ヘルスケア部門が大きく成長していることを学んだ。
経緯などはすべて、ミューズ・クリエイションの専用ブログやYoutube動画にて、レポートしている。下部にリンクを貼っているので、関心のある方にはぜひご覧いただきたい。
💝金曜日は、ミューズ・クリエイションでインターンをしている大学生の入江真樺さん、そしてミューズ・クリエイションの活動に参加している交換留学生の花田怜大さんも参加した。1団体の、わずか数時間の催しを通して、しかし彼らの学びは大きかった模様。当日の様子は、入江さんがレポートをまとめているので、別途シェアしたい。
💝花田怜大さんのレポートは以下の通り。ぜひご一読を。
私が衝撃を受けたのは、インドにおけるフィランソロピーの広がりかたです。1人の女性が子ども達のためを想って始めた地道な取り組みが、十数年の時を経て、多くの資金を集め、120校、11,000人以上の生徒に質の高い教育を提供できている現状がそこにはありました。
オンライン環境のない農村部においても、先生が25台ほどのタブレット端末を持参し、オフライン環境でできるアプリを用いて教育を届け、終了時に回収。その後、先生がオンライン環境にタブレットを持ち帰ることで、生徒の学習記録が同期され、成長の道のりが可視化されるそうです。(カリキュラムはアメリカのものを使用) どんな環境においても、同等かつ高い質の教育を提供することが実現できている状況に感銘を受けました。
また、教育を始め、雇用、女性の権利・安全、公衆衛生など、生きる上で非常に重要な要素をトータルで支えながら、ここまで規模を拡大されていることに驚きが隠せませんでした。
また、この活動を立ち上げた女性話を聞かせていただく中で、「私ははじめただけ。支えてくれる人がいたからここまでできた。」とお話しされており、インドの中でのフィランソロピー精神(金銭的な支援だけでなく人的繋がりの支援も。)が根付いているからこそ、成立しうるものなのかもしれないと感じました。
✏️バンガロール郊外に暮らす貧困層の子らに英語とコンピュータ教育を。(2012/2/29)
https://museindia.typepad.jp/mss/2012/02/oblf.html
✏️OBLFに関する記録や動画(計13本)をまとめたミューズ・クリエイションの専用ブログ
https://museindia.typepad.jp/mss/one-billion-literates/