昨年10月下旬より、週に一度、坂田のもとで研修(修行)している「トビタテ!留学JAPAN」インターン生の入江真樺さんにも、OBLFの定例報告会に参加してもらった。わたしから、さまざまを学び取りたいと意欲を見せている彼女に対しては、(人の話を聞くときには)極力メモを取ること、ミューズ・クリエイションでの活動の記録(レポート)を残すことなどの重要性も伝えてきた。
彼女は、わたしの提言を実行に移し、去年2月、初めてZOOMミーティングの際に紹介した「5年日記」をつけはじめ、10月以降はミューズ・クリエイションでの活動レポートを提出。それらは印刷してファイルし、随時、わたしからも気づいた点を指摘している。一見、アナログな作業に思われそうだが、印刷したものをパラパラとめくることで、成長ぶりが一瞥でき、達成感も得られる。彼女にとっては将来、プライスレスな記録となるに違いない。
入江さんは、そもそもから自分の考えや思いを率直に文章にする能力に長けていたが、この数カ月の間にも、向上した印象を受ける。以下、彼女から届いたレポートをシェアする。前半は、OBLFのホームページなどから得た団体の情報、後半は報告会のレポートだ。無論「編集者」としての視点からは、校正すべき箇所は多々ある。しかし今回は、最低限の手直しで転載する。5000文字程度と非常に長いが、ご一読いただければと思う。
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OBLFは、インドのカルナタカ州バンガロール南部の村々で、教育、技能向上、公衆衛生、リハビリテーションを通じて、不平等を是正し、恵まれないコミュニティに生きる人々にチャンスを創り出している、パワーを与え続けている団体です。
年次報告会に参加させてもらい、公立小学校支援や健康診断支援について実際にどう行っているか教えてもらい、「すごい!こうやって支援しているんだ、私もこの英語教育を受けてみたかった、健康診断システム、効率的かつ効果的でただただ、すごいなと。」
OBLFが行っている支援内容及び組織自体にすごく感銘を受けたというのが率直な感想です。ここに、OBLFの設立理念、主な活動内容について、年次報告会について、そして私が考えたことについて記したいと思います。
2010年アメリカからインドに戻ったソフトウェアエンジニアのアナミカさんは、貧しい子どもの教育支援を行いたいとバンガロールの公立学校を訪れていたそうです。そこで、教育の質を向上させ、インドの農村部の子どもたちの学習体験を充実させたいという彼女の信念は確固たるものになったといいます。
「村々に住む子どもたちに学ぶ喜びを与える」というアナミカさんの使命がOBLFの設立の根源となり、2010年7月、その目標を達成するためにOBLFが設立されました。
2010年にOBLFが設立されるまでに、インド政府は例え遠隔地や農村部であっても学校を設立するという素晴らしい仕事は成し遂げていたそうです。しかし残念なことに、学校はあっても学校内での教育はきちんと行われていないケースが多く、当時、インド国内で私立学校は全体の7%に過ぎないけれど、私立学校に入学している生徒は、全生徒数の44%にものぼっているという報告書が出されたくらい、公立学校の教育は行き届いていなかったそうです。学校に通っていない子どもの割合はごくわずかであるにもかかわらず、公立学校の子どもたちは高校に入る前に辞めていたといいます。
そこから、10億人の人々が読み書きできるように「One Billion Literates」というビジョンにて、公立学校の既存の物理的インフラを活用し、英語とテクノロジー教育を公立学校に提供することからOBLFの活動はスタートしました。
当初1校の支援から始まったOBLFの支援校は現在120校に広がり、そのほかに30の村にクリニック設立、ゴミ処理を生業とする地域への支援も現在行われています。
OBLFは現在、主に4つの柱にてプログラムを構築、提供、運用しています。
①ELEVATE(教育を高める)
Elevateは、学習者中心のモデル、習熟度別教育、Ed-Techを通じて、英語の基礎的リテラシーを身につけることを目指している。また、数学、理科、社会科、カンナダ語の教員不足に対処するため、政府公認の教員を選抜し、継続的に研修を行っている。
②KICKSTART(キャリアのキックスタート)
Anekal Talukという地域に住む主に女性に生計の機会を創出。そのために、地元の農村部の女性をコミュニティ教師として政府の小学校で教えたり、最前線の保健ワーカーとして働くことができるよう、能力を育成。
③NURTURE(コミュニティの育成)
週一回のヘルスケアサービスや、スポーツを通して協力などの考え、医療と教育を中心とした必要なサービスにアクセスできるよう支援し、生活の質を向上させることを目的としている。
④REMEDY(公衆衛生を改善する)
脆弱な世帯のための一次医療におけるアクセス性、手頃な価格、予測可能性を高めることを目的としており、特に心血管疾患の早期発見と予防、がんの検診と予防、老人医療、緩和医療、メンタルヘルスに重点を置いている。
今回、お話を聞かせてもらう中で、特に感銘を受けた、「英語教育」と「健康診断’」の2つに絞り、少し掘り下げていきたいと思います。
◉具体的な特徴
・毎日(日曜以外)1時間の授業
・ゲーム感覚で取り組めるよう、タブレットを活用
・ヨーロッパ言語共通参照枠CEFRに則ったカリキュラム
1.GRIFITと呼ばれるWhatsappを活用した英語学習サービス
2.オフラインでも取り組めるSOLVE EDUCATIONと共同開発のゲーミング化された学習コンテンツ
先生が生徒に教えるという構図だけでなく、実生活に模倣してスーパーでの買い物など状況を作り、英語を活用してみることや生徒主体で自ら学習しやすいよう、デジタルを活用していました。実際に1年間で平均16%解答正答率が向上しているそうです。
【健康診断】
健康診断では、特に早期に糖尿病患者を発見するため血糖値測定と血圧測定に重点を当てて行われています。身長や体重など基礎的な身体測定をしたのち、1人1人、血糖値測定及び血圧測定を行い、サポートが必要な患者さんを発見します。そして、患者さんには、薬の提供や生活改善支援アドバイスも同時に行っているそうです。
年次報告会は、Koramangala club auditoriumという場所で16時から21時まで開催されました。
年次報告会には、OBLF役員や運営メンバー、インターンシップ生をはじめ、既にCSRでOBLFに寄付している企業の方々、これから支援を検討している企業の方々、その他の教育機関、NGOの関係者の方々、OBLFから支援を受けている女性や子どもたちが参加しました。
受付を済ませると、すごろくを通して遊びながら、現在のOBLFの活動内容について知ることができる学びコーナーがありました。その他に、展示パネルや支援を受けた方からお話を伺える場がありました。16時から17時過ぎまでは、この場所でOBLFの活動について学んだり、他の参加者の方とお話をしました。
17時過ぎに、隣のホールに移動し、ユーモアあふれる司会者の方の進行によって開始しました。OBLFのCEOであるAnishさんの力強いスピーチから始まり、その後、役員の方々やマネジメントリーダーの方、インターンシップ生の方のトークディスカッションがありました。
その他にも、OBLFの英語学習支援を受けている小学生の英語による劇の披露や、歌の発表、OBLFが設立したクリニックにて勤務する女性たちによる健康診断の劇の披露、OBLFを通して仕事を得た女性の心境の変化、生活の変化のお話を見させて、聞かせてもらいました。
最後に、AnamikaさんのOBLFでのこれまでの歩みや、10億人の方が読み書きできるように、これからも進んでいきましょうとの言葉で会は締めくくられました。20時半以降は、ホールの隣の場所で食事をいただきながら参加者の方とお話させていただきました。
◎以下、報告会に参加した際に、わたしが感じたことや考えたことなどを記します。
1人の思いが、行動が、その思いに行動に共感者が集まり、組織となりそれぞれの強みが活かされ、思いが形になっていく。
◯◯を救いたい、◯◯を幸せにしたい、◯◯の可能性を広げたい、◯◯を守りたいそのために教育支援・貧困支援・環境保護を行いたい、その思い・気持ちから活動を継続することの難しさ。活動する人がいなければ続かない、活動する人がいても資金がなければ続かない。現場で活動マネジメントすること、ファイナンスを担当すること、向かう先を決めること、その要素が1つでもかけてしまえば継続性は生まれない。
1つの想い「10億人に読み書きを」に乗っかり、それぞれの強みが活かされ形になっていき、実際に可能性を広げてもらった、救われた人がそこにいて、次はその方々も次の人に向けて活動をする。そんな好循環のサイクル。OBLFに関わる人、1人1人がとてもかっこよかった。
・何者であるかより、あなたがどうありたいかをもっと大切にしよう
・愛と勇気と一生懸命に、この3つを大切に進んでいこう
・時間だけが結果を教えてくれるのかもしれないけれど、今の思いを信じてやり続けよう
・常にQマークを持ち続けよう
・種が木々になるように、これからも大事に木々を少しずつ増やしていこう
・Do Good Be Good
・学び続けよう
スピーチ内で、発せられる言葉1つ1つにそこには言葉だけではない強さ、重みがあった。
*OBLFから職業支援を受けた女性のお話
「私は、OBLFから職業支援を受け、働くようになる前までは、妻であり、親であるという家庭の中での役割しかありませんでした。でも今、私は、コミュニティリーダーであり、先生です。自分の役割は一つだけではなく、複数あります。また人前で話すことなどできればしたくない、誰とも話したくなかったですが、働くようになってから確実に変わっていき、今ではここでスピーチをするほどになりました。OBLFの活動に心底感謝しています。」
*OBLFにインターンシップとして働き、英語教育をしているMitsiさんのお話
「インターンシップを始める前と比べ、自分がどうありたいか、私とは何なのかを、どのようなことが私を形成してきたのかを考えるように、理解することができるようになりました。小学生に英語を教えられているのがとても楽しいし、彼らの成長を見るのが嬉しい、彼らから元気をもらっている。同時に、Mitsiみたいになりたいと言ってくれる生徒も多く、もっともっと彼らにロールモデルが必要だと感じています。インターンシップ生をもっと増やして、小学生のロールモデルをもっと増やしてください。」彼女達の言葉にもまた力強さ、説得力があった。
*OBLFの教育支援を受けている学生の劇
スーパーマーケットで購入する様子を全て英語で演劇で披露。賞味期限を確認する様子や、2つ購入すると1つ無料になる特典、エコバックを持参しているかなど、インドで実際によくあるシーンを英語で演技、その完成度の高さに驚いた。生徒たちの日々の学習の成果が、OBLFの活動の成果が目に見える形で表されていた。支援の重要性を感じた。
現在の日本の公立小学校の英語教育がどのようになっているかわからないが、私が小学生だった10年前を思い出し、この英語学習支援があればよかったな、もし日本の状況が当時と変わっていないなら日本にも導入することができれば良いのにと切実に思った。異国の地での英語教育に触れ、母国の英語教育の現状に思いを馳せる。
役員の方から終盤にこんな声かけがあった。「フィランソロピーはお金より与えてくれるものが多くあります。」「支援を検討されてここに来られた方、ぜひ仲間になってください。」
この報告会で、これまでの歴史、現在の活動及びその成果、それぞれの思いを聞いて、OBLFが何をしているか、どうしたいか、どうありたいか、なぜ必要かについて深く知ることができた。一般的に寄付をすると、実際どう使われているかよくわからない、見えないことがあると聞く。OBLFはきちんと全て見える化されていた。
報告会をきちんと開催することによって、普段現場には直接携わっていない関係者も現場の状況を把握し、自分ごと化しやすくなる、必要性を改めて実感することができる。また活動が見える化されていることで、新たな賛同者が集まりやすくなり、支援の輪が拡大しやすくなるととともに、アクションもさらに拡大化されていく。
団体の代表メンバーがそれぞれの思いを述べることにより、メンバー間の思いを再度共有し、メンバー間の結束を高めていく。日々の学習の成果を、仕事の成果を他者に発表することにより、自身の成果を可視化するとともに、モチベーションを高めていく。
どの人にとっても、大変重要な役割を報告会は担っているのだと感じた。まさにワンチーム。
自分がどうありたいかを常に念頭に、自身の思いに耳を傾け、学び続ける。強みをきちんと認識できるよう、そして磨いていけるように。独りよがりになるのではなく、どう相乗効果を生み出せるか、共同・協働・協同を考えて。1つ1つ着実に経験を積み重ねていきたい。
【参考資料】
◉OBLFの活動に10年以上携わってきたMuse Creation代表:坂田マルハン美穂さんの記録(2012~2023年分)
https://museindia.typepad.jp/mss/one-billion-literates/
◉OBLFホームページ
https://onebillionliterates.org/