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バンガロールでの一週間は、またしてもすべり落ちるように過ぎていき、たとえメイドのプレシラが不在時も来てくれているにしても、ここはインド。こまごまとした雑事や業者の手配などの指示をせねばならない。
毎月一度のペストコントロール(ハーブによる害虫駆除)、数カ月に一度のウォーターフィルターの交換、電力バックアップシステムのメンテナンスなどに加え、屋内大小の不備を片付ける。
それから、バンガロールでしかできない仕事や、買い物や、あれこれを、まとめてする。そんなことをしているうちに、あっという間に、ムンバイへ戻る日が来てしまう。
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スケジュールブックに書き記したTo Do Listの、持ち越されてできなかった、チェックされないままの □ が、まだいくつも並んでいる。
木曜日は、第三回チャリティ・ティーパーティを開いた。
昨今のバンガロールは、朝晩と昼間の寒暖の差が激しい。昼間は、真夏のころ(4月あたり)かと思わせるほどの暑さで、日射が鋭い。そのせいだろうか、体調を崩したという方も数名あって、参加者は15名程度。
思うところはあれこれあるが、たとえ5人でも10人でも、参加を希望してくれる人がある限りは、形を変えながらでも、続けていこうと思っている。
ティーパーティの楽しみは、持ち寄ったお菓子を味わいながらのおしゃべり。このあとも、皆があれこれとお菓子を持ち寄ってくださり、とても賑やかなテーブルとなった。
慈善活動に特化した、なにかプレゼンテーションのようなものを開くほうが意義深いだろうかとも思うが、ともあれ。
バンガロールに滞在する期間が少なく、久しぶりに顔を合わせる人たちと会話をしつつ、自分の感覚の「軌道修正」が図られていることに気づく。
インド世界へどっぷりと浸りがちで、「日本的な価値観」からついつい離れ、物事を見る目と判断の基準が、あまりにも「自分独自のもの」となりすぎて、周囲の理解や受け止め方から、はみ出して暴走している自分に気づく。
うまく言えないが、書くにしても、話すにしても、「初心忘るべからず」が非常に大切なことであることを痛感する。
さもなくば正しく伝えることはできない。正しい、というよりも、忠実に。
特に、インドのことは。
午後6時のムンバイ。広大なスラムに向かって突撃するように、今日もまた飛行機は空港へ滑り落ちる。
夕映えがあたりをピンク色に染めている。麗しき天空と、混濁の地上。
初めて『バグダット・カフェ』を見たのは、公開されてまもないころ。約20年前だった。一人で、自宅のビデオで、見た。あの旋律を、幾度となく、繰り返し聞いた日々。
久しぶりに懐かしく思い出された。
今、この映像を見て、驚いた。主人公は「年配の、太ったドイツ人女性」だと記憶していたのに。彼女が、若く見える。太っているけれど、若くて、美しく見える。
あのとき、わたしは彼女の美しさに、気づいていなかった。
スクリーンの中の彼女よりも、すでに歳を重ねてしまった自分に気がついて、驚く。
あれからどれだけ、時間が流れてしまったのだろう。
もういちど、見てみたい。多分20年前とは、異なる印象を受けることだろう。