昨日は夕暮れどき、灰色の雲が空を覆って、やがて雨。街の緑が洗われて、土の匂いが立ちこめて、たちまち風はひんやりとして、たとえようのない気持ちのよい風が庭に吹き込んで、いい夜だった。
そして今夜もまた。夜になると急に気温は下がり、肌寒いような風がカーテンを揺らしながら入り込んでくる。バンガロールの気候は、本当にすばらしい。
昨日は、久しぶりにコマーシャルストリートへ買い物に。バンガロールの昔からの商店街である。日本への帰国にあたり、母と妹夫婦に「お土産要望リスト」を送ってもらったところ、いくつかのリクエストが届いたので、それを調達に行ったのだ。
妹と母には、SOMAやANOKHIの木綿の衣類、それから紅茶やローズウォーターの化粧水などを。妹からは「お金を払うので」ということで、加えてセミプレシャス・ストーンのシルヴァージュエリーをリクエストされている。
具体的にリクエストされる方が、探すのにもあれこれ悩まずにすむのでよい。
妹の夫からは、前回の「ハードロックカフェ・ベンガルル(バンガロール)」の黒いTシャツが気に入ったとので、黒いTシャツ、しかもインドらしく、更にはVネックという、具体的だが、そもそも見つかるのか? というリクエスト。
加えて「じゃらじゃらとしたシルヴァーのネックレスとブレスレット」。いったいどういう人物なのか、と若干、怪しまれそうである。
妹の夫は、つまりは義弟だが、わたしよりも年上である。妹にとってアルヴィンドは義兄だが、しかし妹よりも年下である。スジャータはわたしにとって義姉だが、しかしわたしより年下である。ややこしい人間関係である。
英語ならば、Brother in law/ Sister in lawと、ブラザー、シスターで表現できるから、年齢の上下は表現に関係ない。そう考えると、日本語とは、厳密であるが故に融通が利かない。
そんなことはさておき、義弟だが年上の妹の夫は、バンドをやっている(やっていた?)ので、ロックンロールな小物をお好みなのである。
まずは昨年の『仰天ライフ』に出演以来、久しく訪れていなかったシルヴァージュエリーの専門店へ。あったあった。じゃらじゃらとしたチェーンのネックレスとブレスレットが。妹の望むレモン・トパーズのペンダントヘッドもある。
と顔なじみのお兄さんに尋ねられるのだが、今日のところはお土産に集中だ。
「マダムは、シンガポーリアンですよね」
と、不意に断言する彼。
わたしはどうして、いつもいつもシンガポーリアンや香港人やコリアンに間違えられて、日本人とは言われないのだろう。
海外生活が長いとはいえ、かなり日本人的な顔なのに。
さて、彼曰く、ブレスレットの平坦な部分に名前を刻印してくれる店が近所にあるから、そこに行けばどうかと勧めてくれる。
「マダム、絶対に値切ってくださいよ。100ルピー以上は、払っちゃダメです。この間、外国人の女性が1000ルピーも払ったみたいで、あとから問題になったんです。高くても100ルピー。いいですね」
そういう癖に、わたしが支払いの段になって値切ると、「マダム、これ以上はもう無理ですよ〜!」と苦笑する。なんだかな。
刻印屋への道中、トウモロコシの屋台に目が釘付けになる。なんと麗しき黄金色!
しかし、いくら硬いトウモロコシが好物だからといって、この炎天下、立ち食いしている場合ではない。いろいろな露店を横目で眺めつつ、刻印屋を探すが見つからない。
近所の店のおじさんに尋ねたところ、「今日は休み。明日営業」とのこと。と、そのおじさんと世間話をしていたもう一人のおじさんがいきなり、
「あんた、フィリピン人だろ?」
と聞く。今日はなにやら、国籍を問われる日である。
「いいえ、わたしはインド人です」
きっぱり答える。
「いや、君のそもそもの国籍を聞いてるんだよ。だからフィリピンから来たんだろ?」
だったらいったいどうなのよ。
「なにいってるの? わたしはインド人です」
と言って立ち去った。わたしもわたしで、わけがわからん。
ところで左上の看板。ガンショット、ってなによ。と、不思議に思いつつ、もう一つ、右の看板を見て気がついた。ピアスをあけるのに使う、あのガシャンとやる機械のことである。
ゴールド&シルヴァー磨き
眉毛、顎、ヘソ、耳、鼻 ガンショット やります。
あああぁ。想像するだに想像したくない。
その後、ブティック数軒の集合体であるところのRAIN TREEへ赴く。ここのANOKHIやRITU KUMARで買い物をしたあと、カニンガムロードへ。シグマモールへ赴き、Tシャツを物色する。
なんと! 黒にVネックのTシャツを見つけて驚く。さらに非常に「インド的」なTシャツも。2枚も購入してしまう。インドのTシャツ事情をかなりリサーチできた。仕事に結びつきそうにはないが、なかなかに面白い買い物であった。
そして最後に、やはりカニンガムロードの土産店、ASIAN ARTへ足を運ぶ。ずいぶん久しぶりのことだ。
この店もまた『仰天ライフ』に登場した店である。カーペットを選んでいた店だ。店内は改装されていて、ずいぶんきれいになっていた。
以前よりもはるかによい。
しかし、いつもわたしの応対をしてくれていたアジャズ(エイジャズ)がいなくなっていた。『仰天ライフ』で、日本語が読めないくせに「ぼくは毎日、マダムのブログをチェックしているんですよ」と言っていた彼である。
聞けば、故郷のカシミールでビジネスをはじめたとのこと。けれど、彼のことをあまり詳しくは誰も話したがらない。ひょっとすると、なにかトラブルがあったのかもしれない。
彼のいないその店は、もう、他の土産物屋と同じだった。つまり、なんの魅力も感じなかった。頼まれものを選ぶために、一応は他の店員からジュエリーを購入したけれど、つまらないのだ。
思えばあの店で、アジャズから宝石やパシュミナやカーペットに関するさまざまを教わった。ムスリムである彼の暮らしのこと、故郷カシミールのこと。
そこそこのおやじに見えたが、しかしまだ27歳だった彼。いや、今はすでに29歳か30歳だろう。ともあれ、あの店でお茶を飲みながら、幾度となく世間話をしつつ、商品を選びつつ、独特のひとときを過ごしたものである。
母や妹をはじめ、親戚へのお土産、クライアントをご案内してのショッピング、いつでも商品を押し付けることなく、似合うと彼が感じたものを、ストレートに勧めてくれた。
「高すぎる」という日本人マダムもいたが、わたしは彼に信頼をおいていたこともあって、敢えて値切ることもなく(すでに値引きしてくれるので)、必要な時にはいつも利用していたのだった。
ニューヨークで寒さの余りパシュミナを腰に巻き、そのことを忘れて岩場に座り、パシュミナをびりびりと引き裂いてしまったことがあった。
恥ずかしながら、「破れたので縫い直してもらえるかしら」と持参したところ、「これは修復不可能だから、新しいものをあげますよ。いつも来てもらっているから」といって、新品と取り替えてくれたこともあった。
わたしのジュエリーボックスの中には、彼の勧めで購入し、愛用しているペンダントヘッドや指輪がいくつもある。
店はきれいにかわっていたけれど、全然くつろげず、値段も値切るべきなのかどうなのかもよくわからず、取り敢えずは購入したけれど、ピンとこなかった。
自分でも気づかなかったが、一人の店員の存在が、店全体の印象をかえるとは、驚きである。
なんだかひどく寂しい心持ちで、店を出たのだった。もう、この店を誰かに勧めることはできないし、わたしも敢えて来ることはないかもしれない。
Hi Ajaz,
I hope you are still reading my weblog. I went to Asian Arts Emporium yesterday. The shop was renovated nicely, but I couldn't find you. When did you leave Bangalore? Someone said that you went back your hometown and started new business.
I have learnt a lot about Indian crafts and jewels from you. We also enjoyed the Kashmir curry which you delivered for us.
I wish your success in your business. Good luck!
Miho
そして今日は、バンガロールに新しくできたCaperberryというレストランへ。久しぶりに日本人マダムら計5名とランチである。
12時半。一番乗りで店内に入り、午後4時近く。すでに他のお客はとうの昔に引き上げたころまで、話し込む。
「アラフォー」な面々との会話で、わたしが関心があったのは「スキンケア」および「ヘアケア」である。
自分の「適当さ」を改善すべく、みなの「お肌の手入れ方法」などを聴取する。
やっぱり、化粧水(しかも相変わらずのローズウォーター1本槍)では、この迫り来る老化に太刀打ちできないのだということを、肝に銘じた。
せめて、化粧水のほかに、もう一種類、美容液かモイスチャライザーを常用すべきだろう。
抜け毛。これも問題。
このごろ、地肌が目立つ。
特に顔の周辺。後ろの髪は多いのに、前が少ないからいや。
これはなんとかヘアカットによってお茶を濁したいところだが、ここはインド。
まだインドのヘアサロンには心を許していない。数回切ってもらったことはあるけれど。
やはり、東京到着の初日にヘアサロンへいくべきだとの思いを新たにする。品川周辺に、おすすめのヘアサロンがあれば、教えてください。
ところで、インドでほしいもの。をみなに聞いてみた。100円ショップとローソン、との声が上がった。ローソン1軒あればそれでいい、という意見もあった。
なるほど。おもしろい。確かに、コンビニエンスストアだけあり、便利だろう。流行るだろう。しかしインドでは、絶対にありえないだろう。
小林製薬の便利な商品、という声もあった。なんだかよくわからない。よくわからないが、日本では役に立っても、インドではあまり役に立ちそうにない「無駄な感じ」も否めない。
ところでCaperberryは雰囲気もよく、居座るうるさいマダムらを追い返すでもなく、料理もおいしく(パークホテルのイタリアンレストラン、i-Taliaのシェフやスタッフが移って来たらしい)、とてもよい店であった。