今日もまた、快晴である。思えばここに住んでいた7月から11月にかけてのベイエリアは、毎日が快晴で、雨が降った記憶がほとんどない。あっても1日、2日のことではなかったかと思う。
長い出張旅行が終わり、(夫にとっては)ようやくリラックスできる週末がやってきた。
目的地はソノマ (Sonoma) のサンタ・ロサ (Santa Rosa) 。
ソノマ・カウンティ(郡)の郡庁所在地だ。
ソノマの東側に位置するナパ・カウンティのワイナリー巡りは、これまで幾度か経験して来た。
今回もナパに行くことにしていたのだが、直前になって、新しい場所を開拓しようということになり、ソノマを訪れることにしたのだった。
ソノマへは、わたしたちが出会ってまもない1996年の冬、二人でサンフランシスコを旅した時、バスツアーで訪れたことがあった。
そのときわたしは盛大な鼻風邪をひいてしまい、ワインの味を楽しむどころの騒ぎではなかった。
さて、ベイエリアから北上し、サンフランシスコ市街を通過してサンタ・ロサを目指すのだが、市街はかなりの渋滞。
ゴールデンゲートブリッジに到達するまでに、ずいぶん時間がかかってしまった。
ともあれ、ゴールデンゲートブリッジの展望所では、休憩をするのがお決まりである。
観光客であふれかえったそこに車をとめ、サンフランシスコ湾の眺めを楽しむ。
展望所は世界各地から集まったと思しき、さまざまな人種の人々が溢れかえっている。
しかしみな、同じようにカメラを構えて、記念撮影に余念がない。
それにしても、日差しが鋭い。
思えば、母とサウサリートを訪れたときにも、ここで車をとめ、ゴールデンゲートブリッジの途中あたりまで歩いた。
橋は歩行も可能だから、多くの人々が行き交っている。海風を受けて歩くのはまた、格別の心地よさである。しかし今日は、暑すぎようだ。
さて、予定よりも1時間超過、3時間かかってようやくサンタ・ロサに到着した。車を降りた瞬間、そのパワーアップした暑さに驚く。空気は乾いているのだが、照りつける太陽がやはり刺すように鋭く、強烈だ。
本来はこの時期、もう少し涼しいはずらしいのだが、このところ暑さが続いているらしい。帽子をもってくるべきだった。
選り好みをしている時間でもないので、空いているピッツェリアに入る。
ソノマ到着を祝してワインで乾杯!
といいたいところだが、この暑さ、ビールの気分である。
ファットタイヤのアンバーエール、というビールを選んだ。アンバーエール、という響きがおいしそうだったので。それは実際、とてもおいしいビールだった。
食事を終え、ひと息ついて車に乗り込み、ホテルにチェックイン。今回の旅では、最も快適で雰囲気がよいホテルである。うれしい。
思い返すに、あのニューヨークの最後の夜のホテルは、ひどかった。
思い返さずともよし。
ホテルの部屋でコーヒーなど飲みつつ一息ついているうちにも、4時半。
ほとんどのワイナリーは5時ごろで閉まってしまう。
今日は軽くドライヴでも楽しもうといいつつも、一軒くらいは訪れようということになり、ホテルのコンシェルジュにワイナリー情報を尋ねる。
と、ここから車で10分ほど走った至近に1軒、ワイナリーがあるというので訪れることにした。夕暮れの、黄金色に鋭い日ざしを受けながら、車を更に北へ走らせる。
広大な平地に見渡す限りのぶどう畑が広がる。時折、オレンジ色のカボチャがゴロゴロと転がるパンプキン・パッチ(カボチャ畑)も目に飛び込んでくる。
そういえば、来月はハロウィーンだ。これらのカボチャは、ジャック・オー・ランタンになるのだろうか。それとも、スープやパイになって、人々の胃袋におさまるのだろうか。
目的のワイナリー、KENDALL-JACKSONには、午後5時2分に到着した。
「5時で終わりです」
などと、入り口のお兄さんにつれなく返されそうになるが、夫が「遠方からはるばる来たんですよ」と笑顔でノックアウトして、無事入場。
インドなら5時半くらいまでだらだらと入れてくれそうだが、ここは米国。ともあれ、インドという遠方からはるばる来たには違いない。
ちなみにワイナリーにおけるテイスティングは、基本的に有料である。一人5ドル程度からで、値段に応じてテイスティングできるワインの数やクオリティが異なる。わたしたちは、2、3種類の赤ワインを味わった。まあまあであった。
ゆっくりする余裕もなく、プライヴェートのパーティが開催されるからとワイナリーから閉め出しをくらったので、建物の周囲に広がる小さな農場を散策した。さまざまなハーブや野菜が栽培されている。トマトや苺もある。
今はちょうどブドウが実る時期。庭に何種類もある見本のブドウの木には、豊かに果実が実っている。
それぞれに、姿形の異なるブドウは、味わいもそれぞれに異なり(一粒ずつ、味見をさせていただいた)、しかしいずれもが、とてもおいしい!
ひととき、庭を散策した後、車に乗り込み、あてもなく、あたりをドライヴした。ベイエリア滞在中に、すっかり運転の勘を取り戻し、今はステアリングを握って、自由に自分の行きたい場所へ行けることが「普通の感じ」である。
その、慣れてしまえば当たり前のことを、しかし、ふとした瞬間に、わたしたちのインドでの日常にはないことだと自覚して、この速やかに滑るように走れる道に、車を走らせることができる瞬間を慈しむ。
広大なブドウ畑で車を停める。砂塵が盛大に巻き上がる。西日がブドウ畑を普く照らし、光を透かしたブドウの実はまるで、光る貴石のようである。
清澄な空気。静寂の大地。無人の視界。インドの日常にはない光景。この感覚を、五感にしみ込ませておこう。
山間を蛇行する道。緩やかなアップダウン。見え隠れするブドウ畑。丘陵地のそれは、殊更に美しい。
美しい白いウマを見つけて、車を止める。ウマを撫でながら、「なにか食べ物、あげるものない?」と尋ねる夫。あいにく、ウマが好きそうなものはなにもない。そもそも、人んちのウマに、勝手に餌を与えちゃいかんだろう。
しかし、なにか与えたくて仕方のない夫。人懐っこいウマに、後ろ髪を引かれるように別れを告げるのだった。
日暮れまえ、ヒールズバーグ (Healdsburg) という街にたどりついた。街の中央広場の周辺には、レストランやブティック、それにワイナリーのテイスティング・ルームが点在している、小さいながらも魅力的な街だ。
この街で夕食を食べようか、とのんびり歩きながら相談していたら、カフェテラスに座り、わたしたちの会話を聞いていたカップルが、声をかけてきた。
「どこか、レストランを探しているの? それならば、おすすめがあるわよ」
二人は親切にも、お好みのレストランを数軒、教えてくれたのだった。
わたしたちがインドから来たと知ると、妻の方が言った。
「あの、インドの有名な俳優、なんとか、カーンってしってる?」
「シャールク・カーン?」
「そうそう、シャールク・カーン。彼、数週間前にここに来て、映画の撮影をしていたのよ。わたしもエキストラで出演したの!」
な、なんと。ボリウッドの超ヒーロー、シャールク・カーン(※)がこんなところで撮影していたとは。わたしもエキストラで出演したかった!
さて、夜は二人に勧められたレストランへ。わたしは昼間のピザが胃に残っていたので、軽くサラダを、夫はポークチョップを注文する。
……サラダ。
ちっとも軽くない。うまく写真にとれなかったが、それはそれは、大きなボウルにみっちりと詰まった、激しくヴォリューム満点のサラダであった。
夫のために取り分けてみると、その詰まり具合がよくわかった。さきほどのウマに与えたいと思った。
ワインは、地元産の白ワイン(ハーフボトル)を注文した。もう、どんなワインでもおいしく感じる今宵よき夜。
彼はインドで絶大な人気を誇るボリウッド俳優です。
そんな彼が、先だって、米国に入国する際、空港の移民局で2時間ほど取り調べを受けたということで、インドのメディアはかなり騒いでいたようです。
ところで彼はわたしと同じ、44歳。この映画 "Om Shanti Om"を撮影した時、彼は42歳だったと思われますが、若々しい肉体を作り上げるため、相当にトレーニングしたそうです。
その成果を見せたいがためか、この映画、彼の半裸ダンスシーンが「これでもか! これでもか!!」と出て来て、かなり食傷気味となりました。
インド映画、往々にして、引き際が悪い、しつこさが身の上、ともいえるでしょう。
アメリカに来てまで、こんな話は、どうでもいいでしょう。