わが家の近所の歩道の露店。小さな小さなタバコ屋さん。以前から気になっていて、写真を撮らせてもらいたいと思いつつ、いつも人々がたかっていて、撮りにくく、そのままだった。
インドでは、タバコを「1本から」売ってくれる。周辺にはお兄さんやおじさんやおじいさんがたむろして、一服をしみじみと、味わっている。
今日、買い物の途中、誰かが吸うガラムの匂いが鼻先を掠めた。20代のころ、ひとりで旅したバリ島での記憶がたちまち蘇った。あの旅の前後、ガラムを吸っていた友人たちのことも、思い出した。
立ち止まり、「インドネシアのガラムはあるか」と尋ねたら、あった。1本を取り出そうとするのを制して、箱ごと、買った。
ニューヨークに移り、アルヴィンドと出会ってからはやめたが、20代のころはタバコを吸っていた。久しぶりに吸ったらクラクラするに違いないと思いつつ、買った。
わたしの文章の、古く古くからの読者の方であれば、ご存知であろう。わたしたちにとって、引っ越し、移動、ということが、まるで年中行事のようなものであるということを。
もう、面倒だから詳細は記さないが、実にこれが、年中行事なのだ。
週末のうちに、なすべき仕事の大半をすませ、昨日から少しずつ、荷造りにかかっている。業者にすべて任せればいい、と言われても、そのあたりは「典型的な日本人」である我。ある程度を自分でしなければ、落ち着かない。
書類や書物の仕分けはもちろん、衣類なども自分で仕分けをして詰め込んでいく。
1.スーツケースでバンガロールに持ち帰るもの。
2.引っ越し屋に頼んでバンガロールに送ってもらうもの。
3.ムンバイのストレージルームに預けるもの。
4.処分、もしくは寄付するもの。
と、大まかに4分割しながらの作業である。慣れているとはいえ、いい加減こういう作業、飽きた。飽きたが逃げてもいられないので、果敢に立ち向かう。しかし30分も集中すると、飽きる。
たいして動いてもいないのに、無闇にお腹が空く。
途中でお茶休憩。
バナナ休憩。
ランチ休憩。
コーヒー休憩。
おやつ休憩。
ともう、自分でも呆れるほど、休憩だらけだ。
やっぱり、寄る年波には勝てんな。と思いつつ、自分をいたわりつつ、だらだらと作業する。きっとだらだらと作業することになるだろうと見込んでの、スケジュール調整をしておいた自分に感謝である。
そもそもわたしは、だらだらと動くぐらいがちょうどよいのだ。アルヴィンドをして、
「ミホは、引っ越しの作業の時、ロボットみたいに動くもんね〜」
とのことであるからして。ああ。引っ越しといえば思い出す1997年2月のニューヨーク。出会って半年余りの我々が、一緒のアパートメントに暮らすべく引っ越し作業の朝。
わたしがジーンズにジャケット、スニーカー姿で彼のアパートメントに赴いたところ、彼はベッドに腰掛けて、悠然と、新聞を読んでいた。引っ越し屋は数時間後に来るはずなのだが、なんら準備はできていない。
この余裕はなんなのだ? 不審に思っているわたしを、彼は一瞥して、言った。
「ミホ、。ぼく、女性のスニーカーは嫌いなんだ。エレガントじゃないよ」
こ、この男は……。
引っ越しの日に、ハイヒールで荷造りしろっちゅ〜のか!!
エレガントに、どうやって荷造れって言うんじゃ〜!!
小指立てながらちまちまと、ガムテープ切れとでもいうんか〜!!
と怒声の一つもあげたかったが、当時は英語力が乏しく、何一つ気の利いた反撃ができなかった。呆れながらも踵を返して作業にかかるしかなかった。
出会いの当初、24歳児、いや、24歳時のアルヴィンドは、かように激しく浮世離れしていたが、今やずいぶん「ふつう」になったものだと感慨深い。しかし、荷造り苦手は相変わらずなので、妻がロボット化するしかない。
もう、それはそれでいいのだ。夫にそういう雑事を期待してはいないのだ。遠い昔に諦めている。
「ご主人を教育しなきゃ」
と、たまに余計なお世話な親切心でアドヴァイスをしてくれる人もいる。そういう人には、はっきりと言っている。
じゃ、この人と一緒に暮らしてみ、と。暖簾に腕押し豆腐にかすがい糠に釘よ、と。インド人だから、なのか、彼だから、なのかわからんが、日本のスタンダードは通用しないのだ。
あ、ちなみにこれらは、夫に対する愚痴でも不満でもない。現状のレポートである。このようなマイナス点を補って余りある、マイハニーには魅力があるのである。ということにしておきたいのである。
さて、午後。夕飯のための買い物に行き、ついでにビールを買う。何しろ今日は蒸し暑い。ビールが飲みたい気分なのだ。12月だが、ムンバイはクリスマスムード・ゼロである。ゼロというよりむしろ、マイナスだ。
バンガロール宅に帰ったら、せめてクリスマスツリーをとっとと飾り付けて、クリスマスムードをほのかに演出したいものである。
買い物を終えて、家に戻ったのが午後4時。しかし気分は午後6時で、ついついビールを開けてしまう。バンガロールの友人から電話がかかるが、すでにできあがっている。
友人から、バンガロールの「最新情報」を聞いているうちに、ムンバイを離れるプチ・センチメンタルな気持ちが和らいで、そうよわたしにはバンガロールがあるじゃないの、と、思う。
なんでも、かなりいいスパができて、フェイシャルが、いい感じらしい。フェイシャル前後では、顔の印象が変わるらしい。
「そんな、変わったなんて、誰にもわかんないでしょ〜!」
と激しく笑い飛ばしておきながらも、
「で、それどこ? わたしも行きたい。今すぐ行きたい」
と、食らいつくあたり、お肌の曲がり角なお年頃だ。
ああ、いかん。なんだか今日は、どうでもいいことを書いている気がする。すでにビールを飲み干し、夕飯の準備を終え(今夜はダイコン、鶏肉、タマネギの和風煮込みと、ポテトサラダ、トマトサラダ)、ワインに突入している状態である。たまにはこういう日があっても、いいだろう。
夫が帰宅したので、ガラムを見せたら、
「まさか、吸うんじゃないでしょうね。絶対ダメだからね。恥を知りなさい。ああ、げんなりする。僕は、タバコを吸う妻など、断じて許さないからね! 今すぐ捨てなさい!!」
と、たいそうな剣幕で叱られてしまった。なんなのでしょうか。そんなにいけないことなのでしょうか。
没収されそうだったので、慌てて隠した。せっかく思い出に浸りながら久々に一服したかったのだが、これでは先生の目を盗んで吸う高校生状態である。先生、いや、夫の不在時に吸ってみるしかなかろう。
ところでバンガロール拠点キングフィッシャーの新しいビール、ウルトラ。ボトルがきれいなので、グラスに注がず、そのまま飲んでいる。ボトルの形がいいせいか、おいしく感じる。いや、多分おいしいと思う。
さて、明日火曜の午前中にもうひと頑張りすれば、あとは水曜日、業者とともに片付ければいいだろう。午後は、トライデント・ホテルのビューティーサロンにヘアカットの予約を入れている。思い返せば半年ぶりである。いくら長髪だからって、放置し過ぎである。
さて、そろそろ夕飯にしよう。
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