朝。ホテルの部屋で、インドから持ってきたシリアルやコーヒー、昨夜調達したオレンジジュースやヨーグルト、そしてフルーツで、簡単だけれどおいしい朝食。
スイセンや、桜、チューリップの季節は過ぎて、今はツツジやハナミズキが咲くころ。
走る人、歩く人、ビーチバレーの人、太極拳の人……。
のびのびと駆け回る犬らの愛らしく。
人間を慕う無垢な姿のうらやましく。
我が家の4猫に思いを馳せる。
ほのかに舞う花粉にくしゃみをすれば、すれ違いざまにGod Bless You!
「咳をしてもひとり」でも、「くしゃみをしたら、ひとりではない」。
すがすがしい。
すがすがしい。
毎年、ミュージカルやオペラ、ジャズなど、各種エンターテインメントを楽しんでいるが、今年は特に予定をいれていない。昔は毎晩のように、飲んで食べて遊んでも、大丈夫だった気がするが、このごろは、昼間遊ぶと夜が眠い。食事にしても、本当に地味になった。毎度、書いていることではあるが、体力、意欲、食欲が旺盛な若いころには、少々無理をしてでも旅をして、全身で異文化を体験することが望ましいと切に思う。
50歳を過ぎて、旅への衝動や、新しい対象への意欲に翳りがさしたように感じたわたしは、意識的に自分を鼓舞した。昨年はだから、敢えて毎月一度、国内外の旅を入れた。一昨年、ジョードプルの城塞で「ジップライン」をやったときの楽しさが、フィジカルに再稼働する契機になった。
昔は無尽蔵に沸いていた熱情はしかし、「家でのんびりしたい」とか、「猫らと遊んでいると幸せ」といった、我が本来の「内向的」な一面によって静かに抑制されるようでもあった。それは自然の流れかもしれないが、しかし身体が元気なうちには、動きたいとの思いもある。
マンハッタンのストリートを歩いていると、自ずと背筋が伸びる。バンガロールでは困難な街歩きを、ここでは縦横無尽に軽やかに。今回のホテルのロケーションは、夫のミーティングにも、わたしの買い物にも、極めて利便性高く、本当にここを選んでよかった。過去10数年、かつての「ご近所さん」に固執しすぎていた。
ホテルの斜め前にはMOMA。観光客で賑わう入り口をかすめて、五番街へ向かい、南下する。店舗の様子に栄枯盛衰は見られるが、大局は、ほとんど変わらぬ通りの様子。いつもの通り、日本食料品店のSUN RISE MARTでお気に入りの日本米「田牧米ゴールド」を大量に買う。海苔も買う。
インド生活が長くなるに伴い、バンガロールで入手できる食料品は増えた。年に一度の日本や米国で買っておくべきものが、どんどん削られていく。日本料理も手に入る物で、そこそこおいしくできるから、余計なものを買う必要もない。
あとは、帰路のロンドンで、欧米の食材(良質のバルサミコ酢やオリーヴ油など)を買えば十分だ。多くの日本人は、良質のバルサミコ酢の威力を知らないのではないかと思う。先日、ミューズ・クリエイションの朝組メンバーと調味料の話しをしていたとき、我が家にあるバルサミコ酢を味見してもらったら、3人とも、もんのすごく感動していた。スプーンを持ったまま「もっと舐めたい!」とさえ言っていた。それくらいに、そのまま舐めておいしいものなのだ。
上質のワインと、上質の果実ジャムと、上質の酢が混ざったような味。これがあれば、できあいのドレッシングなど不要。オリーヴオイルと和えるだけで、抜群の味になる。そこそこのオリーヴ油もバルサミコ酢も、バンガロールの輸入食材店で買えるが、せっかくなので、帰りに買おうと思う。
ランチは、軽めにしようと、昨今増え始めたサラダバーに入ろうと思うが、探すのも面倒で、いつもの Le Pain Quotidienへ。ベルギー発のヘルシーな料理を出すベーカリーだ。1990年にブリュッセルに一号店がオープン。ニューヨークのアッパーイーストサイドにオープンしたのは、わたしが移住した1990年代半ばだった気がする。 今では、街のあちこちで見かけるようになった。ムンバイにも10年ほど前にオープンしている。今では日本でもよく知られているのではないか。
アボカドのオープンサンドにゆで卵をトッピング。シンプルなのに、シーソルトとオリーヴオイルの旨味がきいていて、とてもおいしい。とはいえ、少し物足りない気がするが、旅の途中、食べ過ぎてはならないと自戒する。
食後は、紀伊國屋書店へ。国籍問わず楽しめるKINOKUNIYAは、世間から書店が消滅しかけている昨今においては希少価値が高い。本をパラパラとめくったり、日本の雑貨を眺めたり、文房具を選んだりしているうちにも、瞬く間に時間が過ぎる。日本が好きなインドの友達に勧めたいスポットだ。
夜は夫と合流。イタリアンへ行くつもりが、歩いている途中に「やっぱり日本食が食べたい」「ブルーリボンへ行こう」と夫が言い出し、方向転換。コロンバスサークルに数年前に支店がオープンしたブルーリボン寿司へ。やれやれ、昨日は、「ペルー風日本料理」だったのに。
日本人移民の多いペルーで育まれた日系ペルー人の料理は、NIKKEIと呼ばれている。日本に暮らす日本人が「NIKKEI」の文字を目にしたら、「日系」よりも「日経」を思い出し、ピンと来ないと思うのだが……。そのNIKKEI料理を出す店「SEN SAKANA」では、セビーチェ風のサラダやアレンジの効いた日本料理が楽しめた。さりげなく入った割にクオリティが高くて気に入った。ちなみにバンガロールの「1Q1」にも、このNIKKEIメニューが用意されている。