夏日の日曜日。まさに足が棒になるほどに歩いた一日だった。そうなることを予測してスニーカーを履き、ほぼエクササイズの出で立ちで出かけたのは正解だった。
まずはホテルのある54丁目から南へ西へと30ブロックほど歩いて、ハドソンヤード/ハドソンヤーズ (Hudson Yards)と呼ばれる新しいエリアへ。ヘルズキッチンからチェルシーにかけての、ハドソン川沿いのエリアで久しく行われている再開発で、ニューヨーク市都市計画局とMTA(ニューヨーク都市圏交通局)によるジョイント・ベンチャーだという。
かつてマンハッタンにはなかったタイプの、大規模なショッピングモールと飲食店を擁する複合施設で、カジュアルブランドから高級ブランドまで、ヴァラエティ豊かな店舗が並ぶ。日曜ということもあり、家族連れでごった返しており、アミューズメントパークの様相を呈していた。
わたしは、せめて一周、ざっと回りたかったが、ショッピングモールが嫌いな夫がぶーたれる(←協調性ゼロ)ので、とっとと外へ向かう。五番街やダウンタウンをランダムに歩くのもいいが、マンハッタン滞在中、効率的にショッピングをすませたい人にとっては、ここは好適なモールだと思われる。
ハドソン川を望む庭に出れば、巨大な松ぼっくりのようなユニークな建築物が目に飛び込んでくる。ヴェッセル (Vessel)と呼ばれるそれは、階段からなる建築物で、別名は「ニューヨークの階段」。360度、川風を受けながらの展望はすばらしいに違いないが、オンライン予約が必要で、現状、1週間先まで予約が埋まっていた。
ランチは「メルカード・リトルスペイン」という、スペイン料理が一堂に会したフードコートへ。日曜とあって大喧噪。本場スペインよろしく、大きな鉄鍋で調理されるパエーリャや、チョコレートソースに浸して食べれば美味なチュロス、ポテトたっぷりのオムレツなどに心を奪われつつ品定め。
サングリアと、ヴァレンシア風パエーリャ、コカと呼ばれるピザ風のパンを注文しての立ち食い。パエーリャはまあ、それなりだったが、コカは焼きたての生地が香ばしく、ハモン・セラーノ(生ハム)も風味豊かで味わい深く、とてもおいしかった。
食後、外へ出れば、気温は益々、上昇している気配。しばしハイラインを歩いてダウンタウンを目指そうと思うが、あまりの日射に熱中症になりそうだったので、下を歩きつつ、ユニオンスクエアへ。ここで、アイスクリーム休憩。イタリアのジェラートが想像以上に美味であった。
そこから更に、ダウンタウンを目指し、SOHOへ。途中で夫の買い物に付き合うべくブティックに立ち寄ったり、アートギャラリーを覗いたりと、ほぼ休憩なしで歩き続ける。日が高いのでいつまでも夕方気分だったが、気がつけば7時を過ぎている。
「夕飯、何食べる?」と問えば「ジャパニーズ」と即答する夫。日本料理店が多いイーストヴィレッジへ向かう。すると、夫が行きたがっていたミッドタウンの居酒屋「酒蔵」の支店が、オープンしているではないか幸運な男だ。
「酒蔵」という店は、わたしがニューヨークに渡った年、1996年にオープンした店。ニューヨーカーに「日本酒」を提供する店(SAKE BAR)としては先駆けの存在である。当時、日系出版社の現地採用で、広告営業の仕事をしていたわたしは、オープニング・イヴェントに出席。日本に住んでいたころには、ほとんどなじみのなかった日本酒の世界に、ニューヨークで初めて接したのがこのときだった。
約半年前にオープンしたばかりだというイーストヴィレッジ店。まずはビールで乾杯し、喉を潤す。空きっ腹にアルコールはだめよ。ということで、一旦、水を飲んでからだが、それでも、冷えたビールは十分に、おいしく五臓六腑に染み渡る。
料理は軽めに、豆腐の三種盛り合わせ、海藻サラダ、サーモンといくらのカルパッチョ、そしてウナギの蒲焼きをシェア。
どれも味付けが上品で、薄味傾向なのがとてもいい! だしの風味がよく、素材の味も効いている。鹿児島産のうなぎは、ふわっとやさしく焼き上げられ、タレも最小限。味が足りない人は自分で追加で「塗る」ことができる。添えられた山椒の実やたくあんも、とても上質。お吸い物の味わいもいい。お米も、極めておいしい。
二人で分けて食べるにちょうどよいヴォリュームで、本当においしかった。
ビールのあとに、八海山をカラフェで注文し、夫とシェアする。それはそうと、カウンター席から棚に並ぶ酒のラベルを眺めていたら、真正面に「美穂」という酒が! スタッフのお姉さんに、「どこのお酒なのですか?」「わたしも美穂なんです」と言ったら、味見をさせてくださった。広島にある今田酒造の、女性杜氏である今田美穂さんが手がけたお酒で、自らの名前が冠されている。
今、調べたところ、しかし読み方は「みほ」ではなく「びほ」だとか。なるほど。穂の美しさを強調する名前のようである。味わいはといえば、しっかりと主張があるなかにも、爽やかで飲みやすく、とてもおいしかった。
*今田美穂さん含む3人の女性が登場するドキュメンタリー映画が、つい数日前から公開されている。見てみたい。
「カンパイ!日本酒に恋した女たち」