南ムンバイのフォート地区。英国統治時代の面影を残すこの一帯は、商業、文化の集中するエリアでもあり、森羅万象、密度が高い。昔ながらの書店、雑貨店、衣料品店、飲食店、文具店にコピー店、露店などがひしめき合う中、モダンなブティックやお洒落なレストランが突拍子もなく現れる。
黒いスーツがお似合いの、長身でハンサムな若きビジネスマンたちが、突如、目の前を横切ったりして、はっと目を奪われる。思わず(かっこいい♥)と心の中でつぶやいてしまいたくなる、すてきなお兄さんたちに遭遇する頻度が高いのも、またムンバイである。先のヤズダニ・ベーカリーで店内を撮影したときに、きりりとすてきなスーツ姿のお兄さんも被写体に入れてしまった。蒸し暑いのに涼しげな表情で、敬服した。
多様性の現れは、宗教にしても然り。ヒンドゥー寺院にキリスト教会、イスラム教のモスクに、ユダヤ教のシナゴーク、シルディ・サイババを祀る祠(ほこら)の前で、足を止め、祈る人の姿も見られる。日本人にもよく知られるところの、アフロヘアなサティヤ・サイババは、シルディ・サイババの生まれ変わり。インドではこちらの方を本家と崇め、信者が多い。シルディ・サイババは、ヒンドゥ教に於けるヨギ(ヨガ行者)であると同時に 、イスラムの修行僧でもあることから、双方の信者から慕われてもいるようだ。
そしてもちろん、パールシーの拠点だけあり、縁ある建築物が随所に見られる。昔ながらのパールシー料理の専門店も、この界隈にはいくつも点在している。ムンバイ在住時には、それらの店を、ひとりで探検し、未知なる味覚との遭遇を楽しんだものである。
牛がいるかと思えば、高級車が走り、路上でランチをすませる人々の向こうに、エルメスのブティック。なぜこんなところに? という場所に、ヨックモックの専門店。目に飛び込んでくる光景の一つひとつを取り込もうとすると、軽く神経衰弱に陥りそうなハチャメチャさが、平常なのだ。
混沌のエリアを引き締めるように、凛と立っているのは、英国統治時代に建設されたチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅。英国統治時代にはヴィクトリア・ターミナスと呼ばれていた。2004年にはユネスコ世界遺産にも指定されている。2008年11月26日に起こったムンバイ同時多発テロの際、多くの人々が殺された場所でもある。
ランチは、かつてからアートの発信地でもあったカラ・ゴーダにて。昨年見つけたヘルシーなレストランで、モダンなヴェジタリアン料理を。本当は、グジャラート地方の名物、ターリー(定食)を食べたいところだが、同じヴェジタリアンでもヴォリュームたっぷり、胃に重すぎるので断念。グジャラティ・ターリーに関しても、ムンバイ在住時、ひとりであちこちのローカル店を巡ったものだ。
10年前には、Trishnaというカニ料理がおいしいシーフードレストランに来るのが目的で、このエリアを訪れることが多かったが、ここ数年は新しいブランドのファッションブティックなどが増えていて、散策するのに楽しいエリアになっている。