直島のことを去年まで知らなかった……と書いたが、忘れていただけで、目にしていたのだ、ということを、思い出した。安藤忠雄ミュージアムで、彼のワークを辿っているうちに。
数年前、安藤忠雄著『ル・コルビュジエの勇気ある住宅』を読んだときのこと。同著には、コルビュジエの建築に関する話しだけではなく、むしろ安藤氏の足跡を辿るのに、非常に役立つ描写が多かった。中でも、大阪にある「光の教会」には、いつか訪れたいと思った。同時に、海辺に立つ建築物にも関心を持った。その海辺に立つ建築物こそ、今回我々夫婦が滞在しているベネッセハウスであった。
関連書籍などを購入して、ざっと目を通した。この直島の背景を学ぶにつけ、福武書店(ベネッセ)創始者の福武哲彦氏、そして彼の遺志を継いで、この地を芸術的に生まれ変わらせた福武總一郎氏の情熱、安藤忠雄氏の貢献の偉大さに、感嘆するばかりだ。
彼らは当時、金属の製錬所から排出される有毒ガスで、樹木は枯れ果て禿げ山と化していたこの島の自然を蘇らせた。
高度経済成長期の日本。バブル経済を経て平成時代に入るころの日本に萌芽した、この島のアート。背景を知るにつけ、その展示物の意味合いについても、深く考えさせられる。
直島にほど近い、瀬戸内海に浮かぶ「大島」は、ハンセン病患者のための「隔離の島」だった、むごい過去を持つ。
「ハンセン病は皮膚と末梢神経を主な病変とする抗酸菌感染症 で、現在は途上国を中心に患者がいるものの、日本では毎年数名の新規患者の発生で、過去の病気になってきている。しかし、感染症法の前文には「我が国にお いては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓とし て今後に生かすことが必要である。」と記載されている。ハンセン病は社会との関係を抜きにしてはこの疾患の本質を理解することはできない。なお、従来本疾患は「らい」、「癩」などと呼称されてきたが、これらの呼称は現在は偏見・差別を助長するものとして使用せず、「ハンセン病」が正式病名である。」(国立感染症研究所のサイトより抜粋)
さて、今朝はホテルの和食レストランで朝食をすませたあと、本村地区を訪れ、「家プロジェクト」と呼ばれるアートプロジェクトへ。400年を超える家屋さえある古びた街並に融合するモダンアート。詳細を綴れば尽きず、今日もひとまずは写真だけを載せておく。ほとんどのエキシビションは、館内撮影が禁止されている。むしろ、写真を撮りすぎずに、よかったかもしれない。
現在、夫はラグビーの試合を観戦中。この試合を見たいがため、夫は、数日前からルームサーヴィスでの夕食を注文していた。実に、ぬかりがない。
ベネッセハウスのダイニングは、フレンチと日本料理の二カ所。昼間はカフェテリアもあるが、夜はこの二択であるうえ、いずれもかなり高価なフィックスメニューしかないことから、レヴューでも選択肢が少ないとのコメントが散見された。
確かにフレキシブルとは言い難いが、このルームサーヴィスのお弁当は、非常においしくて感動した。料理のひとつひとつ、どれも丁寧に作られていて、繊細にも旨味が詰まったおいしい料理ばかり。ラグビーが始まる直前に食事を終え、現在、夫は、テレビに釘づけた。
さて、本日の観光を締めくくったのは、ベネッセハウスにほど近い、地中美術館、ここもまた、安藤忠雄氏の建築物で、「地の中にある」ことからの、地中ミュージアムだ。
クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの作品が、在る。自然光と、コンクリートと、鉄、ガラス、そして木。
個人的には、デコラティヴなインテリアが好きな一方で、この極限まで切り詰められた設計の建築にも、心底、心をひかれる。
この「地中美術館」にて、来年には完成予定のマルハン家新居@バンガロールの構想に刺激を与えられる。
現在、バンガロール北部のヤラハンカに建築中の、我が家の新居。2年ほど遅れて、ようやく来年の中頃には完成する予定だ。Total Environment というデヴェロッパーによるこの物件に決めた理由は、他でもない、エコフレンドリーであること、そして、創始者がフランク・ロイド・ライトやジェフリー・バワの建築に影響を受けているという事実だった。ゆえに、工期が長引くと噂を聞いていたものの、急ぐ訳ではないのだからと、この物件を選んだ。
インド産の天然石を用い、ガラスを効果的に使い、天然木を取り込んだミニマムな屋内。つい先日、進捗状況を知らせる写真が送られて来たのだが(以下2枚の写真)、もはや、このコンクリート打ちっぱなしの空間を残してもいいのではないかと思えるほど。
大理石や御影石(グラナイト)が廉価で入手できるインド。いっそ自分でオブジェを設計して、地中美術館的な空間を作ってしまいたいとも思う。
今回の直島。来るべくして来たのだという思いを新たにする。すばらしい。