1泊2日のわずかな時間を惜しむように、塩分の強い、しかしまろやかな黄金色の温泉に幾度となく浸った。わたしよりも温泉が好きで、わたしよりも長湯の夫にとっては、至福の滞在だったはずの有馬温泉。
夫は5年ぶりの日本。非日常の旅の記憶は、生涯に残る。今回の旅もそうなるだろう。部屋に露天風呂がついているのといないのとでは、かなり印象が異なる。実はホテルの予約サイトでは露天風呂付きは満室だったのだが、別の予約サイトをいくつかあたったところ、空室が見つかったのだ。一旦、別の部屋の予約をしていたのをキャンセルするなど、そこそこ手間取ったが、その甲斐があった。
肌に温泉の効能を残したまま、バス、新幹線を乗り継いで、東京へ。夫にとっては、実に2002年以来、17年ぶりの東京! 思えばこれまでは、福岡を拠点に旅をしていたのだ。わたしの著書『街の灯』の出版の際、東京から福岡までを行脚して以来である。
ホテルへチェックインしたあと、夜の銀座へ。二人して、ニューヨークの五番街を歩いているような気分で中央通を歩く。新しいビルディングを仰ぎ見ながら、まるでお上りさんのように。
有馬温泉で上質の日本食を味わったあとに、そこそこの日本の味を口にするのは憚られ、唐突ながら『俺のスパニッシュ』。喧噪の店内は、スペインのバルを思い出させ、気分は一気にイベリア半島へと飛ぶ。
天候が不安定な中、雨に打たれることもなく、東京まで辿り着けて、よかった。わずか3泊4日の滞在。大切に過ごそう。