ロックダウン4日目。軟禁生活8日目。BigBasket.comほか、オンライン・スーパーマーケットの配達サーヴィスがまだ復旧しておらず、生鮮食料品が尽きたので、ご近所さんのWhatsAppグループで、開いている店を確認したところ、隣接するコンプレックスの地下にある八百屋がオープンしていると言う。
普段はオーガニック専門店か、BigBasket.comでオーガニック野菜を調達しているが、この期に及んでややこしいことは言ってられない。徒歩2分ほど。それでも一応はマスクをし、買い物かごを下げて、隣接するアパートメント・コンプレックスのガレージにあるその店を目指す。
店が目に飛び込んだ瞬間、心が躍った。普段は「しょぼい店」などと思っていたのに、それはまるで、砂漠のオアシス。色とりどりの果物や野菜が、まるで宝石の輝きのように見える。店のお姉さんは、豊穣の女神、アンナプルナだ。
野菜も果物も潤沢にある。なんとありがたいことだろう。バンガロール最大の生鮮卸売市場であるKRマーケット(シティマーケット)。先日、機内誌「SKYWARD」で花市だけを紹介したが、この市場は野菜や果物も大量に集まってくるのだ。
アンナプルナ曰く、「開業時間は短いし、量も少なめだけど、毎日食料は届いていますよ」とのこと。
「第一次欲求」と「第一次産業」の重要性が、身に沁みる。
会計をすませたあと、「これはサーヴィスよ」といって、彼女がひとつかみの青唐辛子を入れてくれた。我が夫は「辛いもの」が苦手なので、我が家がチリを買うことはほとんどないが、ありがたく受け取った。
青唐辛子には、カプサイシンやβカロテン、ビタミンCやらEやらも含まれている。そればかりかインドでは、青唐辛子とレモンをつないだ「ニーンブ・ミルチ」と呼ばれる「悪魔除け」が一般的。雑菌も防ぎそうだら、ニーンブ・ミルチを作ろう。
インドは今、ロックダウンに陥って、ネガティヴな情報も拡散されている。国内ばかりか、日本のメディアも、悪しき部分だけをおもしろおかしく、時に悲惨に取り上げている。残念極まりない。よその国の問題点を呑気に報道している場合ではない。
たとえば食料事情。インドの食料自給率は100%を超えている。流通の問題があるにせよ、万一、海外との交易が途絶えても、第一次欲求は満たせる。翻って日本は40%未満。メディアはインドの揚げ足を取る前に、日本が異国の食品によって胃袋が満たされているという現状を鑑み、大地の恵みの大切さにも言及して欲しいと思う。
確かに今、インドは地方からの出稼ぎ労働者やスラム在住の人たちの苦境が取り沙汰されている。そんな中、日々、政府は対応の枠を広げているし、民間企業やNGOが、寄付や支援をするなどの、助け合いの輪が確実に広がっている。動物を大切にするお国柄。野良犬や野良猫に餌を与えるべくファンドも立ち上がっている。
何度でも書くが、ここは人口13億人の多様性の国。貧困層が多い国にあって、この状況下、混乱を防ぐべく準備を整えてからロックダウン……などと悠長なことをしていたら、感染は爆発的に広がる。
この件に限らぬが、この国は、「状況理解→対策熟考→決定→実行」ではない。「状況理解→決定→実行→対応」である。その際の決定権は、今回に関してはモディ首相である。
今、彼を責める反論の声も聞こえるが、何度でも書く。責めるくらいなら、どんなに小さなことでも、自分がやれることを探し、やろう。政府への寄付。近隣貧困層への食糧支援。慈善団体への寄付……。前向きに日々を生きるだけでも、なんとかしようと動いている人の足を引っ張るよりは、はるかにいい。
夜は、平成世代の友人らとZooMuseを実施した。インターン生として、バンガロールにいた時から、ミューズ・クリエイションの活動にも積極的に関わってくれた東京在住の満智さんが、数日前に「Zoomで今の状況シェアする会をやりましょう」と連絡をくれたのがきっかけだ。
数年前にミューズ福岡でのセミナーを運営してくれたなずなさん(やはり東京在住)、そして学生時代に休学して渡印、在ベンガルール日本国総領事館に勤務していた大阪在住の晋之介さんにも声をかけてくれた。わたしは、3人が共通して知っているバンガロール在住の看護師、沙織さんに声をかけた。
各々の近況報告の後、新型コロナウイルスを巡っての、インドの現状、日本の現状、自分の身の回りの人たちの傾向、自分自身が考えていること……。さまざまな視点から、情報を交換する。
約3時間。リアルな経験を通しての話を聞けて、本当に、意義深い時間だった。と同時に、話を聞きながら、自分の現在とこれからの方向性について、考えさせられた。
ロックダウンを契機に、以前は敢えてやろうと思わなかった「オンライン・ミーティング」を実践することができたのは、個人的には大きな収穫だ。ネット環境の安定を祈りつつ、遠く未来を見据えながら、この環境を生かしてできることを模索していこう。