インド東部オディシャ州で昨日2日、列車同士が衝突するひどい鉄道事故が起こった。史上最悪の事故に近いスケールだ。現在、238人以上が死亡し、900人以上が負傷したとのニュースが流れている。数字は更に、増えるだろう。
ニュースが映し出す事故現場では、3本の列車が、すさまじく破壊された姿で交錯している。いったい、どういう経緯でこんな大事故になったのか……。
広大な国土を持つインド。都市部では最先端の設備を備えた鉄道施設を見かけるが、老朽化著しく、安全性に問題のある場所も少なくない。いや、多数だ。また整備不良が原因の鉄道事故も、未だに頻発している。
ムンバイの通勤列車では、今でも人々が開放されたドアから身を乗り出して乗車しており、毎日、何人かが落下して死亡している。踏切や柵の不備による鉄道での人身事故も少なくない。
2015年の日印首脳会談で、日本の新幹線方式の高速鉄道導入が決定した。高速鉄道は、ムンバイとグジャラート州の工業都市アーメダバード間、約500kmを結ぶというものだ。そのニュースを聞いた時から、個人的にはずっと、反対の思いでいる。国家レベルの、しかも母国が関わるプロジェクトについて、水を差すような発言は控えてきたが、やはり、声を上げずにはいられない。
その500kmにかけた予算と技術を、他の何千キロ、何万キロの鉄道の安全に投資して欲しかった。インド全国、遍く最低限、安全な鉄道環境が整えられた上での、次のステップが高速鉄道導入ではなかろうか。基礎がぐらついているところに、重厚で立派なものを据えている。
その後、わたしは2017年、ジャイプールで義足を作るNGOを訪問した。そのとき、足を無くした人の大半が、鉄道事故による負傷だと聞いた。鉄道の安全性の確保が急務との思いを新たにした。この件については、書きたいことがありすぎるのだが、そのためには事実の再検証なども必要になるので、軽率な発言は控えたい。今は、徒に叩かれることも、避けたい。
参考までに、14年前に西日本新聞の『激変するインド』の記事と、ジャイプールの義足作りNGOを訪問した時の記録を転載する。ムンバイの鉄道事情は、当時から、さほど変わっていない。今でも、危険だ。
ジュンパ・ラヒリの作品『その名にちなんで(原題:The Namesake)』を思い出す。2007年、ミーラー・ナーイル監督により映画化された名作だ。主演のひとり、イルファン・カーンの存在感が、いまでもしみじみと、蘇る。あのような苦悩を抱える人が、またぞろ、たくさん生まれてしまった。
🦵世界最大規模の義足工場 (NGO)、ジャイプル・フットを見学の有意義(2017/12/20)
◎今日の午前中は、いくつか用意されたツアーの中から、希望するものを選んで参加。パレスの修復建築見学、ジャイプル陶芸の絵付け体験、Forest Essentialsの香水調合レッスン……といくつもの魅力的な企画があるなか、わたしは出発前から、Jaipur Footの見学を希望していた。
今回のイヴェント参加者約400名。うちJaipur Footの参加希望者はわずか4名。
うち集合場所に現れたのはわたし一人! 一人でも催行してくれるということで問題はなかったが、今回、親しくなったマレーシア人のエリサ(ゲストスピーカーだった "500 Startups” のカイリーの妻)が、どれに参加しようか迷っていたので誘ったところ、強い関心を示し、同行することに。
案内してくれたのは、YPOのジャイプール支部のメンバーで、ドクターのアニタ。ジャイプル市街にあるJaipur Footは、1975年、D.R.メータ氏によって創設された「義足作り」のNGOで、世界最大規模を誇る。
世界各地を行脚するメータ氏の熱意と行動力、そして口コミの影響で、国内外からの寄付や支援が募られている。結果、超廉価で膨大な数の義足を、貧困層の人々に無償で提供している。創設当初は決して快適とは言えぬクオリティだったが、米スタンフォード、米MIT、そして印IITなどの協力により、世界最先端の技術が導入され(作業現場は前時代的にしかみえないのだが)、品質も向上。1975年はわずか年間59足からスタートしたが、昨年は年間8万5000足を超えた。
以下、特筆すべき事項を箇条書きにしておく。
◎主には超貧困層が対象。
◎義足代はすべて無料。
◎世界各国から購入者を受け入れる。
◎数年に一度のメンテナンスが必要。ゆえに海外在住者には1度に2セットを提供。
◎アフガニスタンやバングラデシュなど海外約30カ国のキャンプに義足提供。
◎インドの義足利用者の半数以上が鉄道事故による負傷。
◎アポイントメント不要。いつ訪れても受け入れられる。
◎到着した日に足型をとる。24時間後に義足完成。
◎到着した翌日に装着、歩行練習をする。
◎米国では120万ドル(約120万円)で売られている義足を、わずか50ドル(5000円)程度で製造。
工場内を見学したあと、創始者のメータ氏に話を聞く。ご本人のエピソードに加え、マハトマ・ガンディやシュバイツアー博士の言葉に感銘を受けたという、その言葉を教えてくれる。強く心を動かされる。
義足使用で自由に動き働く人を目の当たりにし、また、1年ぶりに自力で歩き始めた女性の一歩に立ち会える機会を得た。胸が熱くなる。ここには到底書き尽くせぬが、本当にいい経験だった。
[ラジャスターン旅 01@ジャイプル] 稀有な体験の数々。YPO主催のイヴェント参加の数日(2017/12/20)
https://museindia.typepad.jp/2017/2017/12/jaipur.html
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