1996年に1年間の語学留学予定でニューヨークに渡ったが、数カ月後に日系出版社に就職。日本に帰国するのではなく、ニューヨークで働き続けたいと思ったわたしは、1997年に水面下で出版社を起業。移民法弁護士の力を借りて、その年の終わり、自分の会社をスポンサーに、就労ヴィザ(H1B)を取得した。
当時、インターネットの情報は浅く、わたしの知る限りにおいては前例のないことだったから、一か八かのチャレンジだった。さらには、日本語のフリーペーパーを出版し始めるなど、特殊なケースだったこともあり、日本のメディアでも折に触れて、取り上げられた。
この”anan” も、そのひとつ。これは、ちょうどジョージタウン大学の語学学校に通い始めようとしていたときのもの。撮影場所は、当時、よく作業をしていたワシントンD.C.郊外、メリーランド州のベセスダ(Bethesda)にあった大型書店、Barnes & Nobleのスターバックス・カフェ。
店舗に入るなり、全身が、本の匂いに包まれる。
カフェのある上階に足を運べば、本の匂いと、コーヒーの香りが溶け合って漂い、独特のときめきを与えてくれた。今、あの匂いを嗅げる場所は、いったいどこにあるだろう。わたしたちが出会ったマンハッタンのブロードウェイ沿い、リンカーンセンター向かいのBarnes & Nobleは、もうずっと以前になくなってしまった。
今、調べてみたら、このベセスダの書店も閉業していた……。あのような書店がなくなることの、哀しみ。
わたしたちがマンハッタンに暮らしていたころに撮影/公開されたトム・ハンクス&メグ・ライアン主演の『ユー・ガット・メール You've Got Mail』。劇中で、トム・ハンクスが経営する大型書店のモデルこそが、わたしたちの出会ったBarnes & Nobleであり、メグ・ライアンの経営する小さな書店(実際はチーズ専門店だった)もその近く。わたしたちの生活圏内で撮影された。街を歩いているとき、撮影の光景も見たものだ。
公開と同時に、当時ボーイフレンドだったアルヴィンドと共に、ブロードウェイ沿いのSony Lincoln Squareへ見に行った。トム・ハンクスとメグ・ライアンが映画を見に行くシーンで、二人がまさに、その映画館に入って行く様子が映し出され、館内は大いに盛り上がったものである。
さておき。あの映画では、小さな書店が大型書店に淘汰される時代の趨勢が描かれていた。しかし、その大型書店の命は短く、十数年で淘汰されてきた。今再び、わたしは「小さな書店」が生まれることを願っている。
ここに掲載している写真は、わたしの「自分史動画」で使っている資料の一部だ。ロックダウンの間、本当にあれこれと、作ったものである。自分史動画も、子ども時代からインド移住前の40歳までを5本、作っている。古い話ではあるが、海外で暮らそうと考えている人たちには、なにかしらの示唆がある内容かもしれない。
🌏世界を旅し、海外に暮らし働く/坂田マルハン美穂の自分史動画シリーズ
③ニューヨークで現地採用から出版社起業/インド人男性との出会い/就労ヴィザの自給自足/日本語フリーペーパー『muse new york』発行
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