巨大国家インドを十把一絡げで語るべきではないことは重々承知。そのうえで趨勢を綴るに、インド社会は「子どもに対して寛大」であり、若い世代を支援する傾向が強い。
家族の結びつきは強く、親戚や友人との社交も尊重される。インド社会のあり方は、渦中に身を置かねばわからない。だからこそ、わたしもそのリアルな一端を伝えるべく、日々こうして記している。
インドは多様性の国だ……言ったところで、その実態を経験したことのない人間にとっては、言葉の概念が脳裏に浮かぶだけ。多様性の実体験が少ない大多数の日本人にとって、インド社会を具体的に理解するのは至難の業である。わたしとて、ここに住んで経験して初めて知ることばかり。
インドには多くの宗教、言語、コミュニティがある。先祖から受け継がれた「自分たちの伝統を守り継承する」ための社交。あるいは、広く多くの人々と関わり合うための社交。インドでは、人々が交流して生きることが優先順位の上位だ。
だから、仕事よりも、家族の病院に付き添うことを優先する。プロジェクトの進捗よりも、家族や親戚が集う宗教儀礼や祝祭を重視する。遠縁の親戚や友人の結婚式にも参席する。どんなに忙しくても、仲間とクリケットの試合を「他都市まで」あるいは「他国まで」見にいく時間を捻出する。
🇮🇳昨今のインド。起業家があふれ、スタートアップが急増している。その背景にはさまざまな要因がある。中でも大きな強みは「社交(ソーシャル)」を尊ぶ社会性だとわたしは思う。インドでは、大人と子供が会話をする機会が多い。週末ともなると、家族や親戚、友人たちが集まる。
まずはみな、ソファーに腰掛け、あるいはドリンクを片手に立ったまま、語り合う。夕飯に至るまでのこの「語り合う時間」こそが、絆を育むひとときでもある。子供は大人の話を聞き、大人は子供の話を聞く。
わたしの夫がときどき笑いながら話す。「僕は10歳のころが一番賢かった」と。子ども時代の夫は、大人と対等の話をするために読書し、勉強し、議論し、成長した。その過程において、進路を見極め、米国に留学した。そうして海外に出たNRI (Non-Resident Indian)たちは、世界各地で活躍する。
年に何度かは母国に戻り、家族に会い、結婚式や宗教儀礼に参加する。彼らは、地球をぐるぐると飛び回る。
🇮🇳夫がグローバル組織のYPOのメンバーになったと同時に、わたしも伴侶メンバーとなった。そして2017年にYPOでも肝となる「フォーラム」の活動への参加を開始した。月に一度、自分の属するフォーラムのメンバーと会い、定められたフォーマットに従ってミーティングを行う。
我がフォーラムのメンバーであり、大切な友人でもあるチベット系インド人のDekyi。彼女のことは、折に触れて記してきた。数カ月前には、彼女の父君を拙宅に招き、わたしが在籍している「女性の勉強会」にて、語っていただいた。そのときのことは、以下のブログに記録を残している。
そのDekyiの長男であるKunzang。初めて出会ったときは、幼さの残る少年だったが、気づいたら心身ともに成長した青年になっていた。彼は、日本人駐在員の子供たちも通っているカナディアン・インターナショナル・スクールに在籍している。
当初、学校の課題でビジネスプランを作ったのをきっかけに、実際に自ら起業、現在、日本でいう「ガチャガチャ」をバンガロールを中心に、インド都市部に展開するHAPPY TOPIAの創業者として「学問とビジネスの両立」を実現している。
もちろん、彼は子どものころから怜悧にして魅力的な少年だった。しかし、彼に限らず、わたしの知るインドの子どもたちは、しっかりと大人と向き合い、自分を伝えることのできる人が多い。
Dekyiから、折に触れてKunzangの話を聞いていたが、先日、YPOのイヴェントで会って仕事の話を少し聞いただけで、その成長ぶりに驚かされた。ちなみにイヴェントは、MITメディアラボの教授らを招聘してのAIに関するもの。このテーマもまた、思うところ多々あるが、専門知識がないので、ここでは触れない。
MITといえば、Kunzangは進路相談をするために、やはりMITを卒業している我が夫に米国進学についての提言を仰いでいた。彼に限らず、昨今の若い世代は情報収集が容易くなったことで、精神的成熟が早い傾向にあるのは理解しているが、それにしても圧倒される。
話が長くなるので、今日のところはこの辺にしておく。Kunzangには、近々インタヴューさせてもらい、具体的な話を聞きたい。以下の動画は必見。
最後に、写真にある書籍「Consumer India: Inside the Indian Mind and Wallet」(2011年発行)。インド市場と消費傾向の変化を知るのに役立つ。1991年以降に誕生した「No Strings世代」と定義づけられる若者らこそが、昨今のスタートアップを牽引する世代だ。
◉Kunzang Chawla / 12th grade Founder: Juggling homework & business meetings to create a fun place for kids & parents
🙏チベットに生まれ、ダライ・ラマ法王14世の命を受け、亡命チベットの歴史と共に生きる友人の父の話を聞く。
https://museindia.typepad.jp/2023/2023/08/tt.html
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