●観葉植物を求めて、植物園の近くまで
おととい、きのうの二日間で、荷解きをすべて終えられた。少しずつ、家が家らしくなっていく。このアパートメントが気に入った理由の一つは、玄関から入って突き当たりに見える大きな窓とバルコニー、その向こうに椰子の葉が揺れている、その緑の眺めのすばらしさだ。
実は、同じアパートメントコンプレックスの中にも、数軒の空室があったのだが、緑の眺めという点では、このアパートメントが一番だった。3ベッドルームあるうちの一つはマスターベッドルーム、もう一つは書斎、残る一つはゲストルームにしているが、書斎は終日明るいという利点があるものの、緑があまり見えない。
視界の片隅に、あるいはコンピュータのスクリーンから目をそらしたときに、たくさんの緑があると心が安らぐ。そんなわけで、たくさんの緑を買おうと思いたった。
イエローページでナーサリーを下調べし、例の4時間タクシーを手配。せっかくだから、他の買い物もまとめてすませたいところだ。
金曜の午後。明日の祝日を控えてか、いつもに増して渋滞が激しい。MGロードで最初の買い物をすませたあと、Lal Baghと呼ばれる広大な植物園の近くにあるそのナーサリーへ向かった。界隈にはいくつかの似たようなナーサリーがあったが、広告を出していたその目的の店が一番、規模が大きい。
そこは、素人が一人で買いにくるような、ましてや英語しかしゃべれないような客がくるような場所ではないような雰囲気が漂っていた。お客の姿はない。
ナーサリーには、従業員が5、6名、働いていて、わたしの歩くあとを「金魚のふん」のごとくついてくる。インドの店では、おおよそ、この傾向が見られる。ひとりにさせてはくれない。
どの植物が屋内に、あるいは屋外に適しているのか、配達はしてくれるのか、彼らに、いろいろと質問をしたいのだが、毎度のごとく、会話が成り立たない。が、水やりの頻度と、それぞれの値段だけは速やかに、彼らは英語で説明してくれる。さすがである。
ぐるぐると巡った結果、生き生きとしたスパンシフィラムの巨大な鉢(写真じゃよくわからないけれど、本当に巨大)を2つ、それから名の知らぬ中ぐらいの鉢を4つ、やはり名の知らぬ吊るせるようにもなっているツタ系の鉢を4つ、それから花をつけるらしい小さな鉢植えを1ダース、12鉢選んだ。
素焼きのポットに植え替えたいところだが、ここでは売っていないようで、また折をみて買いに出かけることになりそうだ。が、思うように思う物が手に入らないインドにあって、これは情熱と執念の問題だ。「これでいいや」という気になりそうな気がしないでもない。
さて、お会計の段になって、奥から英語のできる女性が出て来た。ほかにも、ちょっとだけ英語のできるおじさんがいるのだが、仲間と椅子に座って横着したまま動こうとせず、助けにならなかった。店の人じゃないのかもしれない。
料金はすべてで50ドル弱。インドにしては高い気もするが、品質はとてもよさそうだし、値切るパワーもなかったので、珍しく言い値で購入した。
ところが、インドにしては珍しく、「無料配達」はしないという。車を手配して追加料金(200ルピー、5ドル弱)を払うか、タクシーに詰め込むか。
傍らに立っていたタクシーのドライヴァーが、「もったいないから運びましょう」と言ってくれ、後部座席に巨大なスパンシフィラムを、トランクにその他諸々を運び込む。
「ちょっと、葉っぱが曲がらないようにしてね」
「ノープロブレム!」
「ああ、そこ、茎が折れそうよ」
「ノープロブレム、マダム!」
「あなたにはノープロブレムでも、わたしには大いにプロブレムなの!」
すでに我が常套句と化した台詞を吐きながら、葉を花をいたわりつつ、なんとか詰め込む。そうしてわたしは助手席に座って、出発。
●コマーシャルストリートでしばしショッピング
コマーシャルストリートは、バンガロア(バンガロール)でも、わたしが最も気に入っている「商店街」である。まだ、ファッション関係の買い物にでかける心境、状況には至っていないが、衣類やジュエリー、雑貨店も多く、非常に「危険なゾーン」でもあるのだ。
今日もまた、取りあえずは必要なものだけを購入し、それから近くにあるサフィナプラザへ。目的のものが見つからず、やれやれの思いで、露店でミルクコーヒーを飲む。インドの街角で飲むチャイやミルクコーヒーは、とてもおいしい。
ところで、先日、バンガロール日本人会のサイトで、サフィナプラザの近くに魚、肉屋があるとの情報を発見し、メモしていたので、ついでにそこへ出かけることにした。Kalpaka Cold Storage。しかし、それらしき店が見つからない。目に留まった店(写真左)で、おじさんに「Kalpaka Cold Storageってどこですか?」と尋ねた。すると、「うちだよ」という。
またまたご冗談を。どうみても、肉屋じゃないでしょう。ましてや魚屋じゃないでしょう。
「冗談言わないで、教えてくださいよ」
「だから、うちだってば」
もう、まったく……と数歩下がって看板を見たら、ほんとだ! この店やん。購買意欲、一気に喪失。店内の冷凍庫に、確かに魚や肉が入っている。でも、新鮮どころかなんもかんも、まずそう! 我が心まで、瞬間冷凍。これならニルギリズの冷凍魚介類のほうが遥かにいい。
この次は、スジャータが行きつけだと言うラッセルマーケットの魚屋を探検だ。と、脱力しながらも次への挑戦を誓って店を出る。
ちなみに日本人会のサイトには、「月・木曜日に注文すると、火・金曜日に生肉や鮮魚が手に入ります。」と書いてあったので、ちゃんと注文すれば、ましなものが手に入るのかもしれない。でも、もう、ここはいい。
●夕食前に、アパートメント主催のGet Together
大量の植物をモハンと一緒に部屋に運び込み、レイアウトしたあと、一段落したところで、アルヴィンドが、ムンバイから戻って来た。
今日はアパートメントのマネージメントオフィスが主催する軽いパーティーが開かれるとのこと。インドでは、満月の前日の今日この日を境に冬は終わり、春が訪れるとされており、火を焚いて祝うのだという。北インドではローリー、南インドではポンゴリと呼ばれるらしい。
会場だというクラブハウスに足を運ぶと、入り口の脇で、がんがんに焚き火が焚かれ、めらめらと炎をあげている。
数名のご近所さんたちとご挨拶。クアラルンプールから来たという、日本たばこ産業の関連会社で働くインド人男性、夫と同じ業界で働く(同じ時期にボストンで学生生活を送っていた)というやはりインド人男性、80年代に日本に赴任していたと言うその義父……。ちょっと言葉を交わすだけでも、共通の話題が出てくるのが楽しい。
食料品の調達の話をしていた折、一人の男性が、このアパートメントには、「魚の女王」と呼ばれているカルカッタ出身の女性が住んでいると教えてくれた。
カルカッタ周辺は魚を多く食することから、彼女の魚に対する情熱はただならないものらしく、バンガロアで手に入る魚情報をがっちり網羅しているというのだ。
「ぜひ、その方を紹介してください!」
と、わたしよりも夫がなぜだか真剣に、訴えかけていた。早いところ魚の女王と会う機会を得て、情報を入手したいものである。
ところで今夜は、先日、苦労の果てに購入した肉から「ポークチョップ(骨付き)」を選んで解凍、家政夫モハンの協力を得て、マダム自ら調理した。非常においしくできたので、簡単にレシピを。
1. 余分な脂身を落とす。ただし、適度に残しておく方がジューシー(マダムの作業)
2. 生姜、ニンニク、リンゴをすり下ろす(モハンの作業)
3. タマネギを薄切りにする(モハンの作業)
4. しょうゆ、みりん、調理酒がないのでポートワインを少々(贅沢!)を調合(マダムの作業)
5. 2-4を混ぜ合わせ、肉を入れて揉み込む。粗挽き胡椒をふりかける(マダムの作業)
6. 数時間つけ込んだ物を、オーヴンで焼きたいところだが、オーヴンが届いていなかったので(実は今日注文した)、フライパンで焼いた。タマネギのスライスがしっとり飴色になって、ソースと化するのが理想的。
久しぶりに、自ら調理した「和的風味」を味わえて満足である。困難の末に入手した素材とあらば、なおさらのこと。これからも、食材の開拓は、こつこつと続けて行こうと思う。