●コマーシャルストリートを歩き、コラマンガラへ
本日、午後は近所の商店街、コマーシャルストリートへ。なんとなく、町を散歩する。わたしが古時計を買った店をのぞいてみたり、ジュエリーショップをのぞいたり、肌触りのいい木綿の寝間着を買ったり、母とおそろいでスカートを買ったり……。
少々、埃っぽくはあるけれど、母は時にマスクを着用しつつ、しかし基本的にはさほど問題なく、町を歩いている。何よりである。
コマーシャルストリートを歩いたあとは、やや郊外にあるコラマンガラというエリアへ。今夜はこの町で映画を見るのである。アルヴィンドがぜひとも見たいということで、朝のうちにチケットを予約していたのだ。彼との待ち合わせの時間まで、コラマンガラのFabindiaへ行く。ニューデリーが本拠地のこのファブリック店については、すでに何度か書いたので詳細は割愛。上の大きな写真は、バンガロー風店舗の一画にあるカフェのようす。
主には木綿の部屋着など、それからシルクのスカーフをお土産用に買う。そうして、5時を過ぎたころ、夫と合流するために、Forumというショッピングモールへ出かけた。映画はこのモールの最上階にあるシアターで上映されるのだ。
●Memoires of Geisha。その映像に「酔う」
かねてから観たいと思っていた映画、Memoires of Geishaが、ついにはバンガロア(バンガロール)にもやってきた。その情報を得た夫は、早速「今日、見に行こう!」という。
日本を舞台にした映画だとはいえ、内容は英語だから、母が理解できないだろうと思ったものの、映像だけでも楽しめればいいね、ということで、母も一緒に行くことにした。
朝のうちに、夫は映画館に連絡をして予約をいれる。Forumの映画館のなかでも、Goldと呼ばれるシアターで上映されるとのこと。実はインドで映画館へ行くのは初めてのこと。汚くなけりゃいいんだけど。でも、新しいモールだから大丈夫よね。などと思いを巡らせつつ、シアターへ。
そのシアターの入り口にたどりついてびっくり。なんだか、ナイトクラブのような雰囲気である。ドアを開けると、まずセキュリティーチェックに手荷物検査。それからラウンジに通される。
これが、映画館? 確かにチケットはインドにしては高くて一人300ルピー(約8ドル)だとのことだが、それにしてもエグゼクティブな香り。
ラウンジにはバーカウンターがあり、ウエイターがメニューを持ってくる。実は、映画館に入る前にフードコートで軽くスナックを食べていたのだが、ここで食べればよかったねと後悔するムードのよさ。
チケットを見たら、実はシートは予約制になっていた。なんでもこのGoldなシアターの収容人数は、わずか20名ほど。ラウンジに座っているのは、富裕層らしきカップルばかりだ。
わたしも夫も母も、「こんな映画館初めて!」と大いに驚く。やがてシアター内に通されてまたびっくり。まるで飛行機のファーストクラスのようなリクライニングシートが並んでいて、飲食用のテーブルもついている。こんな映画館がインドにあったとは、驚きである。しかし、哀しいかな、4列ある座席の前から2番目だった我々は、あまりにも画面に近過ぎる。無論、最後列だったとしても、わたしには、いや、わたしと母には、画面が大きすぎ、そして近すぎるのだ。
我が日本家族は、そろいもそろって三半規管脆弱一家である。乗り物酔いがひどかったり、ぐるぐる回る遊園地系がだめだったり、温泉での長風呂がだめだったり、映像を長時間見られなかったりと、各々、なにかしら問題がある。
わたしは水泳を長らく続けていてもめまいがするし、以前カリブ海でシュノーケリングで揺れる水面に酔い、溺れかけたこともある。
とはいえ、せっかくのこのゴージャスな環境。わたしも母も、一抹の不安を抱きながらも、取りあえずは見てみようということになる。ところがまた、最初のシーンからもう、動きの激しい映像で、早くも頭ががんがんがんがんし始める。
わたしの具合が悪いということは、きっと母もだめなはずだ。だめだったら、ラウンジで待っててね、と伝えたのだが、わたしと同じで、ちょっとは見たいと言う気持ちもあるのだろう、見ている。
しかしながら、途中の休憩時間(インターミッションがあるのだ!)に、相当具合が悪くなっていることに気づく。母も気づけば、顔色がよくない。
ふたりして、思い切り、映像に酔ってしまったようだ。これ以上観ることは、不可能である。加えて言えば、上映間際に食べたスナックがまた、胃に悪く、気持ちの悪さを助長したようだ。
やれやれ顔の夫には悪いと思いつつも、映画半ばで帰宅することにした。情けないが仕方ない。わたし(たち)には、庶民派の映画館が向いているようである。大画面はだめである。
へとへとになって帰宅したら、モハンが熱いお茶を煎れてくれて、目頭が熱くなる。母が日本から持って来ていた梅干しを食べ、日本茶を飲んで、
「やっぱり、日本人は、梅干しとお茶よね〜」
などと言いながら、ようやく人心地着く。
結局、映画はろくろく見ておらず、世間がいう「映像美」には酔わず、ただ、巨大画面の映像に、悪酔いした夜だった。なにがなんだか。