毎日ヨガをやっている。という割に、実は、きちんとクラスに通った経験のない我。スジャータとラグヴァンが通っているクラスに誘われていたのだが、そこは世界各地からヨガの師匠クラスの人が3カ月単位で学びに来る「本気の道場」だと聞いてたので、素人のわたしは敬遠していたのだった。
そもそもわたしがヨガをやりはじめたのは、2003年夏、ワシントンDC時代。スジャータと義父ロメイシュが1カ月間、我が家に遊びに来たときだった。そのときのことは、ここに書いている。
思えばあのときは、まさか自分が半年後に、「インドに住みたいかも」などと思うようになるなど、予想だにしなかったものだ。その年の年末にインド、バンガロアを訪れた際、一度ヨガ道場を見学に行った。
師匠はマイソールに住むアシュタンガ・ヨガの祖、パタビ・ジョイスの甥。詳しくは、ここにレポートを書いているのでどうぞ。
さて、アルヴィンドもここしばらく通っているし、スジャータやラグヴァンにも来るように勧められる。師匠は2度、交通事故に遭い、足腰を痛めて、歩くのもままならないため、自らヨガをすることはできないのだが、教えることは非常にうまいのだという。
スジャータ曰く、
「師匠は最近、年配の人や、身体を痛めた人のためにヨガを教えたいっていってるから、大丈夫よ」
とのこと。わたしは年配の人じゃないが、身体を痛めているので、そりゃいいかもしれん、と思う。そんなわけで、今朝初めて、「実践しに」行ったのだった。
道場はJPナガールという場所にあり、我が家からは少々遠いが、早朝なら渋滞がないため30分以内で到着する。ま、ドライヴァーにするる〜んと連れて行ってもらえるわけだから、たいした問題ではない。
ヨガを始める前、夫がわたしを師匠のところへ連れて行く。黙礼したあと、静寂の道場で一瞬、言葉を失い沈黙しているわたしに、
"Miho, Say hello to him." (ミホ、先生にご挨拶しなさい)
とハニー。
わたしゃ子供じゃないんだから。照れるぜ。
師匠には、腰痛があるため前屈などがままならず、つまりは身体が堅い旨を告げたら、「とりあえず、やれるものだけやってみてごらん、今日は様子を見るから」とのこと。
どっしりと恰幅のいい師匠は、無口でしかし、眼力のある50代とおぼしき男性。近寄りがたい雰囲気ではある。が、よくよく見ると、インド人だから当たり前っちゃ〜当たり前だが、目鼻立ちがくっきりと美しく、痩せたら相当かっこいいかも、という感じだ。
そんなことはさておき、自分がいつもやっているヨガを、しかしいつもよりは丁寧にやってみた。先生が見ていると思うと、同じポーズでも、きちんとやらんとな、と思えるところいい。
周りの人たちはといえば、皆が母国で師匠クラスの人たちばかりだけあり、片手で全身を支えている人、頭で逆立ちしている人、首の後ろに両足を回している人など、なんだかもう、人間業とは思えないポーズ三昧。
見ようによっては、魑魅魍魎。ボッシュ(Hieronymus Bosch)の絵画にでも紛れ込んだかのような気分である。それはあんまりか。みな上海雑技団、もしくはシルク・ド・ソレイユに入団OKという感じ。
夫はと言えば、わたしよりは遥かに身体も柔軟で、それなりにやっている。問題はわたしだ。30分もやったらもう、なんだか疲れてしまったので、座ったままほけーっと他の人の練習を見ていたら、師匠が近寄って、わたしの前にしゃがみ込み、その濃厚な顔をぐっと近づけてきて囁いた。
「君ができるのは、今やったのがすべてかい?」
「ええ。ほとんど。」
「そうか」
厳つい顔をした師匠は、そうか……といいながら、くすっと笑った。くすっと笑ったあと、「まあ、ゆっくりやりましょう」と言われた。
笑われてしまった。照れるぜ。
バンガロアに、あとどれほど住むのかわからないが、滞在中はせめて週に2回は通って、基本的な動作を矯正してもらおうと思う。