自慢するが、わたしは社会人になって以来、仕事に差し支えるほど、たとえば熱を出して寝込んだり、体調を崩して数日使い物にならなかったりしたことは、ない。
もちろん、少々熱が出たり、疲労で調子を崩したり、腰痛で動きが鈍くなったりと、不調の経験はある。けれど、それが大きなダメージとなって、仕事や日常生活に差し支えたことは、ほとんどない。
猛烈に忙しかった時期も、しかしよほどの事態でない限り徹夜はしなかった。徹夜をしたら効率が極めて悪くなるゆえ、数時間だけでも寝るようにしていた。
東京時代は無論、かなりタバコを吸っていたし、コンビニ食&出前食に溺れていた時期もあったしで、健康管理に気を配っていたとは言いがたいが、それでも、他の同業者(出版・広告業界に従事する人たち)に比べたら、随分健康的だったと思う。
だいたいあの業界は「徹夜自慢」みたいな人が多かった。今でもそうなのか? 徹夜することがそんなに偉いのか? 肝心なのは仕事の「質」ではないのか? 当時から変だとは思っていたが、今となっては、変にもほどがあると思う。
わたし自身、そもそも体力がある方だろうとは思うが、同時に体調にはかなり気を遣ってきた。27歳を過ぎてからは「フリーランス」的な立場であったゆえ、「健康」「スケジュール」「ファイナンシャル」をバランスよく管理する必要があった。
といっても、特別なことをするのではなく、「ちょっと具合が悪いな」と思ったときには、無理を避けて早めに就寝したり、胃に負担をかけないものを食する、といった小さな心がけだ。なお基本的に、よほどのことがない限り、薬やサプリメントは飲まない。
多くの収入を得たいからと、あとさき考えずに仕事を請け負いやすいのがフリーランスだ。自分の能力、体力、財政力、を客観的に判断して、仕事をするというのは、なかなかに難しいことである。
最初のうちは、欲張って仕事を抱えすぎ、締め切りぎりぎりになって慌てたり、トラブルを起こしそうになって過度のストレスを溜め込んだりしたものだ。
しかし、努力をすれば、少しずつ自分のペースがつかめてくるものである。やがては「予備日」や「予備時間」をさえ、設けることができるようになる。
同時にフリーランス時代は特に、「体力勝負」の場合が多かったから、「健康第一」を意識していた。まずは体調に気をつけようと意識していれば、自ずとそういう暮らしのスタイルになり、おのずと健康的になっていくものである。
あえて、ややこしい健康食品だの、みのもんた情報だのに頼らずに。
ここ数年のわたしは、父や友を病で失い、尚更に、健康が大切であると、思うようになった。もちろん、過剰に気にしている訳ではない。そこそこに、である。
昔の話を持ち出してまで、いったい何がいいたいのかと言えば、「働き盛りの、ふだんは体力のあるあなたこそ、適度な休息と健康管理が必要よ」ということを、言いたいのである。
ほら、現在、有閑なマダムが何を言おうと、あまり説得力がないのでね。
日本人はなにかと「勤勉」「勤労」でしょ。本当に忙しいのならまだしも、無理して働くのが美徳めいていたり、たいした仕事もないくせに、だらだら「おつきあい残業」してみたり、能力の有無を問わず、チームワークばかりが強調されたりね。
昔からそういう事態が好きではなかった。
だからこそ、会社員時代は敬遠されたり(嫌われたり)もしたわけだ。だからこそ、フリーランスになったわけで、だからこそ、やがては海外に脱出することになったのだろうけれど。
「24時間働けますか?!」
時任三郎の、あのジャパニーズビジネスマンの歌も、懐かしいものだ。あの時代は、みんなよく、飲み食い娯楽にお金を溶かしたものだね。わたしは完全に無縁だったけれど。
24時間働いたら、命を落とすよ。
今ひとつ、的を射ないことばかりを書いているな。まとまりないまま走ったが、話題は「健康管理」である。
そんなわけで、本日。
数日前に予約を入れていた、例の「アンサナ・スパ」へ行って来た。大切な「健康管理」のためにね。
最近のわたしはもう、ご存知の通り、「充電充電、充電し過ぎで漏電しそうなほど」だけれど、マイハニー(アルヴィンド)は、米国一カ月旅行から戻って直後(あれからもう、2カ月近くたった)に出かけて以来なので、
「久しぶりに、ゆっくりとマッサージしてもらいたい!」
と、切望していたのである。
わたしは前回同様、マッサージとフェイシャルのパッケージを。アルヴィンドは前回、ボディスクラブとマッサージだったけれど、
「今日、僕はボディスクラブのかわりに、フェイシャル、してもらおうかな?」
とのこと。ちょっと、今そこで笑ったあなた! 男子にだって、フェイシャルは「よきもの」なのよ。笑わないでよね。
ニューヨークでも、ここインドの高級スパでも、きちんと男性用のフェイシャルはあるのだ。ニューヨークで一度、彼は経験したことがあるが、インドではまだである。
ちなみにインドの高級ビューティーサロンでは、ビジネスマンの姿も結構見かけるのだ。むさ苦しいおじさんが、ヘッドマッサージのついでにフェイスマッサージをしてもらっていたり、ネイルケアをしてもらっていたり。
彼らの存在により、サロンの空気が重苦しく暑苦しくなるのが、玉に瑕。さて、ハニーには、
「バンガロールは空気も悪いし、あなたのチャームポイントのおでこも、ちょっとくすんでるから、フェイシャルにしたら?」
と勧める。
さて、受付で、二人そろって「フェイシャルとマッサージのパッケージを」と告げたところ、担当者が「ご主人もフェイシャル?」と、こっそりと、しかし確実に、くすっと笑った。笑うなよ〜!
「バンガロールは空気が悪いから、顔をきれいにした方がいいと思って」
と照れながら夫。照れるなよ〜!
そうこうしているうちに、エステティシャンが登場。「どのメニューが僕の肌質にあっていますか?」と、尋ねる夫に、彼女もまた、くすっと笑いつつ、「この、ユーロスターがいいですよ」。だから、笑うなってば!
と言いながら、一番笑っていたは、わたしであったか。
それにつけても、至福の二時間。やっぱりここの、タイ式マッサージは、気持ちいい〜!
帰りの車の中では、二人へな〜っとリラックス。降り出したスコールがまた、街の汚れを洗い落とすかのようで気持ちいい。
どうでもいい話だが、かなりの雨でも、我が家のドライヴァー、ラヴィはワイパーを使わない。アルヴィンドと「なんでだろうね」「壊れてるっけ?」と耳打ちし合う。
そうして、二人して、言うともなしに、しばらくの間、対向車を眺めている。そこで気づいた。
3割以上の車が、かなりの雨の中でも、ワイパーを使っていないのだ。これはインドの全国的な傾向なのか。大雨のときに、ハザードランプをチカチカ点滅させるインドの常識については、以前も触れたが、ワイパー不使用は新たな発見である。
ワイパーより、ホーンの方が、使用率が高いのね。
だーだーと雨粒流れ落ちるままにフロントグラス。雨が上がったところで、ようやく、ラヴィがワイパーを数往復させた。
なるほど、ワイパーとは、雨が上がったあと、ガラスについた滴を除去するためのものであったか。
インドの新しい常識に触れて、目が覚める思いであった。