いつものようにヨガ道場へ行った後、しかし土曜日というだけで、のんびりとした気分である。今日の深夜には夫が香港から帰ってくる。今日一日を、大切に過ごそうと思う。
いつもより、新聞を丁寧に読む。ローカルイヴェントの情報欄に、サフィナプラザでグジャラート州の物産展があるとの案内。グジャラート州の物産がどういうものか、見当がつかないが、午後にでも出かけてみようと思う。
その前に、まずは「十億分の一のインド」の記事を書き上げてから。最近はメールマガジンも怠っていて、書く作業が追いつかない。今日はともかくは、「十億分の一のインド」だ。
ランチを挟んで午後。作業が一段落したので、出かけることにした。今日はいつもに増して道が混んでおり、コマーシャルストリートに近いサフィナプラザへ行くのに20分ほどもかかる。
さて、サフィナプラザ(Safina Plaza) とは、これまでも何度か書いたが、ローカルなショッピングモールである。ガルーダやセントラル、シグマモールなどは、ここ数年のうちにできた「モダンなショッピングモール」だが、サフィナプラザは地元の人々密着型の、いわば「野暮ったい」モール。
しかし、わたしはここが結構好きで、特に買い物がなくとも、コマーシャルストリートでの買い物の帰りにふらりと寄っては、チャイ屋でチャイをぐいっと立ち飲みしたり、たまにやってる食器などの大セールを物色したりするのである。
まだ家政夫モハンが登場する前、バンガロール移住直後に訪れてチャパティ焼きマシーンを買うべきか否か、ちょっと悩んだあの場所である。
サフィナプラザは、土曜とあってか、いつもに増して込み合っており、活況である。入り口付近では、Jute Cottageというジュート(黄麻)でできたバッグや小物などを売る店の特設店ができている。
ここには「見ようによっては」かわいらしいバッグや袋などが格安で売られており、ギフトのラッピング代わりにも使えるので先日も買いだめたばかりだった。
今日は、書類をいれるファイルのようなものを見つけたので、それを数冊購入。プラスチック製のものよりも、むしろ安いのだ。
さて、グジャラートの物産展は、かなりの規模である。しかし、グジャラートの物産以外のものも、あちこちで見受けられ、なんだかよくわからない。が、こまごまとしたものを見て回るのは楽しい。
右端のマットを買うことにした。これは "fabindia" にも類似品が売っているが、あちらよりも少々安い。一番小さいのが60ルピー、中くらいが100ルピー。最早「使い捨て」感覚のお値段だ。もちろん使い捨てたりはしないけれど。冷水であれば、洗濯機で洗剤をいれて洗って問題ないとのこと。
何枚かを購入した。
さて、次に目にとまったのは、インドではよく見かける「乾物屋」。店の人に勧められるがまま、マンゴーやショウガがシュガーコーティングされたものなど、あれこれと味見。
クッキングクラスの講習にも使えそうだと思い、いくつかを買うことにした。下の4種類を100グラムずつ、購入。
左から、フェネルシードをシュガーコーティングしたものが主体の、インド式「お口直し」。レストランなどでは食後に必ず出されるもので、「アフターミント」とも呼ばれる。フェネルシードは消化を助け、胃腸によい働きをするのだ。同時に口臭を消す働きもある。
その隣は、ただフェネルシードをローストしたもの。こちらの方がよりナチュラルで身体にもよさそうだ。その横はアムラというフルーツが、やはりシュガーコーティングされたもの。アムラとは、グースベリーのことで、以前、Lal Baghへ行ったときに、その効能を知ったのだった。
これは、そのまま食べると猛烈に酸っぱいので、そのまま食べるのはおよそ不可能だが、こうして砂糖漬けになっていると、ちょっとカロリーが気になるとはいえおいしく食べられる。ヴィタミンCがたっぷりで、身体に大変いいのだとか。
その隣は、タマリンドがゼリー状になったキャンディー。これもまた、甘酸っぱくておいしい。これも健康にいいらしいが、どういいのかよくわからない。明日、スジャータに聞いてみよう。ちなみにこれは、ジェット航空に乗ると、離陸前にキャンディーと一緒に出される。
さて、次に目にとまったのは、細密画の壁掛け。冒頭の大きな写真の青年がアーティストで、掲げているのは彼の作品だ。
この素材はヤシの葉。ヤシの葉を綺麗に切り、ターメリックを入れた湯でゆでる。すると強くしなやかになる。これに、灯火で熱したペンを使い、焼くようにして描くのだという。
聞けばグジャラート州ではなく、オリッサ州から来たとのこと。西端と東端の州なのに、なぜこの会場に? と思ったが、細かいことは気にすまい。さて、この新聞の記事は彼のことが記されている。
そもそもアートスクールに通っていた彼は、師匠のもとで、この細密画を勉強中とのことで、現在は3年目。合計6年は学ばねばならず、今のところは「見習い生」である。しかし、彼の緻密な作品は美しい。
シンプルだから、部屋に飾っても自然になじむ感じだ。どうしても象の神様ガネイシャの作品が欲しくなり、いくつかを見る。
「これは僕の傑作です」
そういって見せてくれた上の写真の作品を、とても気に入ってしまった。20日かけて仕上げたのだと言う。値段をきけば4500ルピー。インドにしては高い気がする。
しかし、とても美しい。
普段はなにかと値切るマダムだが、こういうものは、値切りたくない。それを手がけたアーティストや職人を前にしては尚更だ。古典的な技法を守りつつ、努力して技を極めている人には、がんばってほしいとさえ思う。
そんな次第で、買った。いつまでも、色あせることなく、傷むことなく、存在するらしい。ちなみに洗うこともできるらしい。そう聞けば、高い買い物ではない気がする。
さて、喧噪のサフィナプラザを出て、帰宅しようかと思ったところが、先日コラマンガラで訪れた家具屋のワークショップがラッセルマーケットの近くにあるということを思い出した。
幸い、財布の中に店の名刺と地図が入っている。店を紹介してくれたY子さん曰く、ワークショップは「とんでもない場所」にあり、わかりにくいから、店の人に電話をして迎えに来てもらわなければ無理だとのことだった。
でも、すぐ近いし、ドライヴァーのラヴィは「バンガロールの道のことなら、何でも知っている」と常々豪語しているし、住所も地図もあるから、なんとかなるだろうと近所まで行ってみた。
ところが、たいそう汚いところに舞い込んでしまってこりゃこりゃ。言ってみれば、ゴミダメみたいな路地。でも、こここそが、「とんでもない場所」に違いないと確信し、ラヴィに、商店の人にでも場所を聞いてよと頼むのだが、ラヴィは「マダム、こんなところに家具のワークショップはありませんよ」と言い切る。
言い切るな、誰かに聞いてよ、と、マダムは主張しているのに、頑固者は通りを通過してしまう。そして、地図を凝視している。その地図、なんかもう、間違ってると思うよ。
普段は絶対に自分の携帯電話から電話をしない彼が、店に電話をして、迎えに来てもらうよう頼んでいる。よほど、わかりにくい場所らしい。
先日、コラマンガラの店にいた店主の一人シドとその弟がワークショップにいたらしく、迎えに来てくれた。
バスターミナルの向かい、寺院のそばの混沌絶好調の一帯で車を降り、シドの弟に導かれるまま、路地をゆく。なんだかもう、地図とは全然違うルートなんですけど。
くねくねと歩いた果てに、ワークショップ「その1」が見つかった。
おう、先日購入し、確か今日の6時に配達してくれるはずのわたしのクローゼットがこんなところでお色直しをしてもらっている。現在午後4時。あと2時間で、本当に配達できるのかしらん。特に急ぐ訳じゃないけれど、「今日配達できるの?」と問えば、「ノープロブレム」とのこと。そうね。ノープロブレムね。
それにしたって、この地図。こんなにもデフォルメされた、真実とかけ離れた地図を見るのは始めてだ。
「世界の中心に俺の店」。みたいなコンセプトで、ビジネスカードの裏に地図を刷るのは、やめてほしいと思う。地図などないほうが、よほど親切だ。
さて、ようやくたどりついたと思ったのに、実はワークショップは別の場所にあるのだという。弟が、「マダム、僕のあとに付いて来てください」と言って歩き出す。
小汚い路地を抜け、右へ曲がり、左へ曲がり、牛や子供やらなんやかんや。そしてようやく、到着した様子。ドアを開けると……。わ、カビ臭い。埃っぽい。
Vintage Shopのワークショップも似たような埃っぽさと汚さと、劣悪の整理整頓状況ゆえ、見当はつけていたが、やはり想像していた通りの荒れ果て具合だ。
古い家具を手入れして再生させるわけだから、古いものはそのまま放置しておいても構わないという理屈もわからないでもないが、もうちょっと、クモの巣を取り払うとか、埃を減らすとか、できないものだろうか。
それとも、ここで劣悪な状況の家具を見せておいて、「いかに手を加えて蘇らせたか」という成果を強調したいのだろうか。いや、そこまでは考えていないだろうね。
口をハンカチで覆いつつ、足場の劣悪な家具の谷間を、まるで宝探しのように歩く。と、おや、ここに本棚らしきものが! 実用的な本棚が欲しかったのだが、インドのものは、ドアがついているものが多く、これもそうだった。が、埃っぽいインドではドア付きが実はいいらしく、どうしたもんだと迷い中である。
ティークウッド(チーク材)の本体は、木に厚みもあるし、適度に頑丈そうだ。おそろいが二棹ある。まとめて買いたい。しかし、保留。
右端の書類ケースがまた、いい感じ。8段の棚が備え付けられるようになっていて、プロジェクトごとに資料を整理するのに好適だ。って、何のプロジェクトかはさておいて。
予算は、なじみのVintage Shopより、やや割高。しかし、職人の腕はこちらの方がいいような気がする。とはいえ、今夜のクローゼットが納品されるまでは、考えることにする。
シドによると、彼は男7人兄弟で、妹が1人。兄弟はみな、父親が創業したこの家具屋の仕事をしているという。実はわたしのクローゼットの「塗り」をやっていたのは、彼の兄さんらしい。
「僕たちは、家具の加工を外注せず、すべて自分たちでやるんです。丁寧に、確実に仕上げますよ」
と、自信を持って言う。またしても、「十億分の一」が閃いたが、ともかくは、家具を買うか否かが先決だ。
さて、帰宅して夜。シドと弟が、7時過ぎにやってきた。ローズウッドのクローゼットは、木肌がきれいに生かされた塗りで、想像していたより遥かに美しい。手触りもよく、見事に生まれ変わっていた。実は「タオルをいれるための」クローゼットだったのだが、タオルを入れるには惜しい見栄えのよさだ。
彼らから、本棚と書類棚を買おうかどうか、迷う。すでにVintage Shopで買っていたティークウッドの本棚を彼らに示し、これと彼らの商品との違いを尋ねる。すると、側面のデザインや板のサイズの違い、またスプレー塗布か手塗りかの違いなどを指摘される。ふむふむ。
インドでは、合板の、まるでディスカウントストアに売っているような安っぽい家具ですら、結構高くて、アンティークな味わいの家具を見つけるのは難しい。そんな中で、気に入った形を見つけられたのだから、やっぱり、この縁を逃してはなるまい。
結局、悩んだ挙げ句に、彼らから本棚と書類入れも買うことに決めた。
どんな仕上がりが届くのか、とても楽しみだ。
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●MUSE INDIA: 十億分の一のインド:第二回を書き上げました。読んでね。
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