昨日は、カルナータカ州全体で、ストだった。カルナタカ州というのは、バンガロールが属している州である。なんでも、お隣のマハラシュトラ州(ムンバイがある州)との州境を巡る諍いに伴っての、「州政府公認の」ストライキであるらしい。
なぜ州政府がストを助長するのかも、ストをしてどうなるのかも、さっぱりわからないのだが、ともかく町中の商店は閉まり、早朝深夜をのぞいては交通機関も止まり、基本的には「外出禁止令発布」的な一日であった。
妙に静かで、平穏な一日。ただ単に、祭りの疲れをいやす休日だったんじゃないか? とさえ思える、タイミングのよい日取りではある。実際、そうだったのかもしれない。
従っては、本日ティーパーティーのための、買い出し日としていた昨日であったが、外には出ず、買い物は一昨日にすませておいたのだった。
さて、本日はマルハン宅で、日本人マダムを招いてのティーパーティーを催した。ことのはじまりは、「十億分の一のインド」でご近所のティーハウス"infinitea"のオーナーをインタヴューしたことだった。
インタヴューのあと、日本人マーケットの開拓にあたって、今後協力してもらいたいと言われたのがきっかけだ。
「日本人マーケット」といっても、国外輸出の話ではなく、最初はあくまでも「ローカル」。つまりバンガロール在住の日本人に店のことを知ってもらいたい、ここでお茶を買ってもらいたい、ということである。
先日、その件で、オーナーではなくマネージャー氏と打ち合わせをした。手始めに、我が家で日本人マダムを集める。そこでお茶の試飲をしてもらい、サンプルを配布する。その機会を提供しようではないか、と提案した。
当然ながら「ビジネスとして」話を進めたい、と思う反面、ではどのような動きに対して、どれほどの報酬を要求すべきか、となった段階で、はたと戸惑う。
わたしはまだ、「インド国内の会社」を相手にした仕事をしたことはない。
米国や日本が相手であれば、予算をすぐに決め、見積もりを出すのは難しくない。しかし、ここはインドである。瞬間、わたしが請求しようと考えた金額は、多分、目の前に座っているマネージャー氏の月給を上回る額かもしれないと思われた。
どうしよう。
急に優柔不断である。仕事として受ける以上は、額の大小はあれ、報酬を受けて当然だ。それは同時に、仕事に対する責任感と結びつく。企業を相手にヴォランティアで時間を割くつもりはない。
とはいえ、ここはインド。相手が考えている予算がまったく読めない。相手が大金持ちの茶園経営者であったとしても、だ。一瞬、逡巡しているわたしに、マネージャー氏が提案する。
「あなたには、当店のお茶を、いつでも無料で提供いたします。それから料理も。いつでも食べに来てください。無料でサーヴィスします。ですから、今回は、そういうところで、どうですか?」
これはまた、微妙だ。
お茶を無料でくれるからといって、しょっちゅうお茶を「もらいにいく」のも、抵抗がある。
「タダなんだから、もらえるだけもらっちゃえ!」
といった発想は、気取るわけではないが、わたしにはない。
経済的余裕の有無にかかわらず、わたしは、かつてから、かような浅ましさを嫌悪する傾向がある。もう、浅ましいとまで言ってしまうのだ。
皆で食事に行ったときなど、「割り勘」をいいことに、一人で大酒を消費するようなタイプの人とは、必要以上に距離を置いてきた。このブログだって、あえて「有料ブログ」を使っている。そのあたり、竹を割ったようにきっぱりと、したいのである。
正しいお金のやりとりとは、交通ルールを遵守するようなものではなかろうか。
なんだか話がそれてしまったのではなかろうか。
Anyway.
infiniteaは自宅から近いし、朝食から夕食まで、そこそこおいしいコンチネンタル料理を出してはいるが、かといってわざわざ食べに行くこともあまりないと思われる。
だから、この取引は「微妙」なのである。微妙だがしかし、手始めに、何かをやってみたいという気持ちは大いにある。
そんなわけで、マネージャー氏の提案を受け入れ、取りあえずは「1回目」のティーパーティーを、開催することにしたのだった。
パーティー開催にあたっては、お茶の資料を作った。上の写真がそれである。表紙込みで全14ページ。これがまた、自画自賛するが、なかなかにいい仕上がりとなった。
コンテンツは、インドのお茶の歴史にはじまり、インドのお茶の産地とその種類、お茶の等級区分、インドにおける上質茶の購入先、インドの人々のお茶の楽しみ方、リーフティーのおいしいいれ方、身体にいいお茶のレシピあれこれ……といった具合である。
写真、図表なども織り込みつつ、読みやすい体裁だ。これに加え、infiniteaの店長インタヴュー記事もプリントアウトしておいた。
さて、昨日はパーティーの下準備。我はスイーツ系を、モハンはインドスナック系をそれぞれ、「時間制」にてキッチンを利用し、準備する。本当はinfiniteaからお茶やサンプル、ポットなどが届く予定だったが、ストにて届かず。
従っては開催10時の1時間半前、つまりは8時半、忙しい最中に、マネージャーとティーアドヴァイザーの2名がやってくる。
サンプルは、一人につきダージリンのセカンドフラッシュのティーバッグ25個入りが1箱と、シルヴァーブラッサムの茶葉1袋のセット。参加者は25名から30名と告げておいたが、40セット近くある。
それから、ティーテイスティング用の茶葉が約30種類も。そんなにテイスティングをできるとは思えないが、なかなかにいい心意気である。
「日本人は、10時といったら必ず10時に来ますからね。あなた方のプレゼンテーションは10時半からですから、遅れないように来てくださいね」
と念を押す。
10時丁度とはいかないまでも、10時半までには予定通り、殆どの参加者が現れ、みな、お茶を飲み、スナックを食べ、マダムら、朝っぱらから食欲かなり旺盛で、嬉しい限りだ。
infiniteaからは、まず会社、ティーハウスの紹介など。そのあと、ティーテイスティングとなる。最も上質のお茶から開封してもらい、お茶をいれてもらう。4つのポットを用意していたが、マダムら、次々にカップを差し出し、瞬く間に湯がなくなる。モハン、湯の供給に大忙し。
予想以上に、マダムらの茶に対する好奇心は高く、infiniteaな二人も、少々驚いているようである。同時にうれしいようである。テイスティングは盛況で、30分以上にも及んだ。
わたしもダージリンの春摘み、夏摘み、マスカテル、パールなど、4種類ほど試してみた。どれもそれぞれに、個性がある、おいしいお茶だ。
infiniteaの二人。予想以上の好反応に気をよくしたようで、参加者全員へのサンプル提供に加え、「茶葉の購入いつでも10%オフ」も提供してくれた。
さて、テイスティングの後、ひと息ついたあとで、今度はわたくしからの、お茶のプレゼンテーションである。
専門家でもないのに少々厚かましいかと思ったが、しかし、かつてから、お茶の記事を書いたり、またリサーチをしてきたりと、お茶に触れ合った機会も多いことから、資料に沿っての講習を行った。
特に、「インドのお茶文化」という視点から、一般には知られていないお茶の歴史や背景を説明できたのはよかったと思う。
皆、よろこんでくれていたように思う。
なかなかに充実した、よき催しであった。