毎朝、庭でお茶を飲み、朝食をとる。朝の澄んださわやかな風。そして何種類もの小鳥たちの、にぎやかなさえずり。
少し日が高くなると、どこからともなく、やはり何種類かの蝶たちが飛んで来て、我が家の花々と戯れてゆく。
しかし、そんな平穏も、まだまだ束の間。引っ越してから1週間が経とうとするが、本日もまた、出入りの激しい一日である。
まずは、またしても上海雑技団の登場。予定より丸一日遅れて金曜の朝。ようやくシャンデリア取り付けの準備が整った。
子犬なおじさんが自信満々で用意してくれた足場は、「3つの机」と「2つの脚立」であった。
机の上に、机を載せて、机を載せて、その上に2段に重ねた脚立を載せる。見ているだけで、胃が痛くなる。
もう、やめて。シャンデリアを付けたいなどと言ったわたしが悪かった。もう、十分。新居でけが人を出したくはないの。そんな気分。
やがて、外のフェンス用の木材を運び込みに、大工衆がやって来た。彼らに足場の支えを手伝ってもらう。子犬のおじさんはちょっとチップを渡しただけだが、四六時中付き添って、手伝ってくれる。
毎日、憤怒にかられてはいるけれど、インドの労働者たちは、とても気軽に手を貸してくれる。悪い部分ばかりを書いてはフェアではないので、よい部分も、書いておきたい。
昨日、わたしが怒り狂っていたタイル業者。彼も最終的には「わたしが間違っていた」「弟子の仕事はひどかった」「マダムの言う通りだ」と非を認め、「また問題があったら、いつでも呼びつけてください。すぐに参上します」と言ってくれた。
子犬おじさんも、そしてその仲間の配管工事人も、水道管や電気系統などのトラブルがあって、なんらかの部品を購入する必要があると、気軽にひょいひょいと出かけてくれる。決していやな顔をしたりはしない。
無論、それだけ通常は、時間が有り余っているのだろうが、そういう「小物の買い物」がどれだけ面倒かをわかっている故、ありがたい。
* * *
さてさて、また話題をシャンデリアに戻す。
一点を豪華にすれば、家全体の雰囲気がゴージャスに見えるはず。ということは、これまで何度か書いた。この家の「肝」となるのは、玄関ホールの吹き抜けだということは、この家に入った瞬間から、感じていた。
その直感に従い、シャンデリアを探し求めていたことも、幾度か記した。結局、雑誌の広告で見つけたデリーの業者に連絡をし、インターネットで写真などを送ってもらった末、商品を決めたのだった。
つまり、わたしは、現物を見ていなかった。考えてみれば、チャレンジャーではある。
届いた箱は巨大、大の計13箱。壁のランプが5つに、テーブルサイドのランプが2つを、別に購入しているとはいえ、なんだかものすごいボリュームだ。
数時間で完成すると聞いていたが、それは絶対に無理だということは、箱を開封している時点で理解した。一つ一つの装飾品その他を、すべて取り付けなければならないのである。丸一日かかっても、できるかどうか。
まずは、天井に取り付けられている頑丈かつ巨大なフックに、巨大なS字で、巨大な鎖をつなぐ。鎖部分は、布で覆われる。
そして支柱になる基礎部分に、部品ひとつひとつを丁寧にはめ込んで、それを天井に吊るす。残りのデコレーションの作業は、すべて中空で行われる。
徐々に出来上がるさまを見ながら、そのゴージャスさに自分で選んでおきながら、驚く。
サイズの見当はつけてはいたが、ここまで存在感があるとは。
とても「素人の家」とは思えない。
ところで、予備の部品も1つずつ準備されていたのだが、運悪く同じ形のパーツが2つ、損傷して届いた。
職人がさっそくデリーに電話を入れると、すぐに航空便で送ってくれるという。
で、明日、再び職人2名が参上するという。売り上げは、立つのだろうか。と、余計な心配をしてしまう。
3日に亘っての取り付け作業。
作業の過程を一から見守っていた我々。アルヴィンドも、
「すごいね〜」
「ゴージャスだね〜」
と感嘆している。
あらかじめ、「すごいのが来るよ」と洗脳しておいたからよかったものの、知らなかったら、かなり度肝を抜かれると思う。
なにしろ、わたしが度肝を抜かれた。
はっきりいって、もしもこの実物を見ていたら、さすがにわたしでも、怯んでいただろう。だいたい、一般住宅向けの電気店で、この大きさのシャンデリアを売っているところなど、存在しそうにない。
ところで、気になるお値段を記すのは差し控えるが、先進諸国であれば、5倍、10倍の値段で売られていても、まったく不思議ではない、相当な、お買い得商品である。
高級ホテルに卸されているだけあり、質もよい。
完成した写真は、部屋が片付いた後日、また撮影しようと思う。
今日は二人、ずっと上を向きっぱなしで、だから今夜は、首が痛い。