土曜の夜、香港より帰国した夫。お土産に日本米を10キロと、お気に入りのポートワインを買って来てくれた。ニューヨーク時代、二人でスペイン南部&ポルトガルをドライヴ旅行した折、訪れたワイナリー、SANDEMANのもの。
パーティーなどの折、食後酒として、みなにポートワインをふるまうのが、彼はなぜか好きである。小さなグラスを自分でテーブルに運んで来て、だいじそうに少しずつ注いでは、みなに勧めるのである。
香港出張の実りは多かったようで、しばらくは彼の仕事の話を聞く。無論、彼の仕事の話を聞くことは、いつものことではある。
翌朝。日曜日。夕方の便で、彼は再びムンバイ出張なので、そんなにゆっくりはしていられない。わたしもゆっくりはしていられない。今日はヨガもせず、階下に下り、水を飲み、庭を出る。
庭一杯の中空に、無数の赤とんぼが飛んでいる。
いったい、どこから来たのだろう。ゆうべ、一斉に羽化したのだろうか?
カーミットの子どもだか親戚だかわからぬが、庭にはまた、やはり無数の小さなカエルがぴょんぴょんと飛び跳ねている。
わたしはカエルを嫌いではない。むしろ毎日のようにつかまえて、それぞれに個性のあるカエルらの様子を眺めたりして楽しんでいるくらいだから、好きとさえいえるかもしれない。一方、カエルが嫌いな人に、この庭は耐え難いだろう。
芝生に埋もれながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねるカエルを見ながら、夫が問う。
「キモチワルイ? or カワイイ?」
微妙なところである。しかし、これらが大きくなって、一斉に鳴き始めたらどうなるんだろう。カーミット1匹でもあれほどうるさかったのに。それまでに、野ネズミや鳥のえじきになったり、うっかりわたしやアルヴィンドや庭師の清に踏みつぶされたりして、淘汰されていくんだろうか。
生まれたばかりのカエルが生き生きとしている一方で、死んだ蝶が庭の一隅に落ちている。
弱っているのか、リスが木のたもとにうずくまっている(まさかネズミ用の毒ケーキを食べたのでは?!)。
バッタが驚くほどの敏捷さで目の前を過る。
一晩で編み上げられたクモの巣が、朝露をたたえ、朝日を受けて、輝いている。
無数の赤とんぼが、飛んでいる。
茶色の羽と、長い尾を持つ、大きな黒い鳥が、奇妙な声で鳴いている。
季節の濃淡が浅く、滑らかな気候のこの土地でも、この庭では季節の巡りが明らかにある。今、この時期のわたしたちが、ときに野ネズミと戦いながらも、アリの巣に手を焼きながらも、こうして自然に触れ合える場所に住まうことができたのは、本当によかったと思う。
来年には、ムンバイとの二重生活が始まる可能性が高い。人口密度世界最大級のムンバイで、庭付きのアパートメントは不可能だ。やむなくは、高層アパートメントを借りることになるだろう。
マンハッタン時代、52階だての高層ビルに住んでいた。わたしは18階だった。マンハッタンが一望できる、特に屋上からの眺めは抜群で、とても気に入っていた場所だった。
しかし、9/11以降、自分の中で何かが変わった。もう、高層ビルには住みたくないと思うようになった。地面に近い場所の方が、安心感がある。重心がとれるような気がする。そんなわけで、ムンバイでも比較的低めのアパートメントを探そうと思っている。
バンガロールのこの家は確保しておいて、週末の別荘のような扱いにするつもりだ。バンガロールの気候はいいけれど、いろいろな意味でムンバイの方が刺激的である。エンターテインメントもバンガロールより格段に多い。仕事のチャンスも増えるだろう。
海外旅行時の拠点としても、バンガロールよりも、ムンバイの方が便利だ。
そういえば、バンガロールの新国際空港が来年早々には完成する。しかし、市街と空港を結ぶハイウェイがまだ完成していない。いったいどうなることだろう。
と、心配しても仕方がない。なるように、なるのであろう。
インドだもの。